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<東京・豊洲新市場>記録不存在の問題 的確な経過検証に欠かせない公文書

定例記者会見で豊洲市場問題についての調査の動きなどを説明する小池百合子都知事=東京都新宿区の都庁で9月23日、北山夏帆撮影
市民団体が開いたシンポジウム「豊洲新市場問題はなぜ起こったのか」で話す三宅弘弁護士=東京都千代田区で、青島顕撮影

 東京都の豊洲新市場移転をめぐる混乱の中、公文書管理のあり方が問われている。盛り土をしない空間を作る過程を記した文書がそろわず、調査の障害になっているためだ。文書が存在しない背景には、都の文書作成ルールにあいまいな点があることや、担当課の判断で文書を捨てられる仕組みもあるようだ。小池百合子都知事は情報公開を改革の売り物にするが、文書がなければ公開はできない。【高橋昌紀、青島顕】

    なかった?捨てた?

     「さまざまな記録が残っているはずです」。盛り土問題の検証をする「豊洲市場地下空間に関する調査特別チーム」の活動について、小池知事は9月23日の記者会見で期待感を示した。ところが検証に必要な文書の多くが残っていないことが明らかになってきた。

     市場の建物下に地下空間を設置する方針を決定したとされる2011年8月18日の中央卸売市場新市場整備部の部課長会議の会議録も見つかっていない。検証のための最も重要な文書の一つだ。

     市場の文書管理を担当する管理部の担当課長は取材に対し「理由は分からないが、考えられることは二つある」と話す。

     一つはそもそも会議録を作成しなかった可能性だ。担当課長によると、作成するかどうかは会議に関わる部課長やその上司の判断次第で、作るかどうか明文化された基準はないという。「二つ以上の部署が関われば会議録を作ることがあるが、部内の会議は通常作成しない。この会議でも作成しなかった可能性が高い」と説明する。

     二つ目は、既に廃棄された可能性だ。作成した場合の保存期間は、都文書管理規則に基づいて総務局が作った「文書保存期間表」に沿って決められるが、「会議録」については明示されておらず、保存期間1年の「事前手続きに関する書類」とみられるという。担当課長は「作成されていても1年以上たっており、廃棄されたのかもしれない」と話す。

     文書管理について国は11年に公文書管理法を施行し、行政の意思決定過程を残し、跡づけることができるような仕組み作りを始めた。同法は地方自治体などに対しても「法の趣旨にのっとり、その保有する文書の適正な管理に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施するよう努めなければならない」と定め、公文書管理条例の制定を促している。

     一方、東京都は文書の作成や廃棄のルールは議会を通して制定する条例ではなく、内規の「文書管理規則」で管理し、運用を担当局の権限に委ねている。担当課長の判断で文書を捨てる仕組みになっている。国の公文書管理法が文書を捨てる際に事前に首相の同意(実際は内閣府の公文書管理課がリストなどをチェック)を必要としているのに比べ、ハードルは低そうだ。

     公文書管理条例について都総務部文書課は取材に「検討していない。規則の内容については、適宜改善や見直しを行っている」と答えた。

     小池都政は情報公開の強化を打ち出しており、「情報公開調査チーム」を9月に設置して公開状況の検討を始め、これまでに3回の会議を開いた。しかし、情報公開と車の両輪と言われる公文書管理について、チームの担当者は「取り上げるテーマは有識者による特別顧問らを中心に決めており、公文書管理を取り上げる予定はない」としている。

    識者、都の姿勢批判

     こうした都の公文書管理や情報公開の姿勢について、今月5日、市民団体が都内でシンポジウムを開いた。講演した内閣府公文書管理委員会委員の三宅弘弁護士は「保存期間が満了したら担当課長の判断で文書を原則廃棄できる都の仕組みでは、情報公開請求をされても『文書が不存在だ』と逃げる余地がある。都の規則は公文書管理法の精神にのっとったものではない」と批判した。

     日本弁護士連合会の中本和洋会長は今月2日、東京都や全国の地方公共団体に対して速やかに公文書管理条例を制定するよう求める声明を出した。声明では豊洲市場の問題について「大きな要因は適時適切な文書が作成されなかったことにある。意思形成過程が判明するような文書が作成されていれば、より的確に事実経過を検討することができたはずだ」としている。

    文書管理条例、8自治体だけ 全都道府県・政令市調査

     都道府県・政令市計67自治体のうち、国が制定を促している公文書管理条例を制定済みだとしているのは、4県、4市の計8自治体にとどまっていることが毎日新聞の調べで分かった。制定に前向きな姿勢を示している自治体は少数にとどまる。

     調査は今月、文書や電話で行った。条例を設置していると回答したのは島根など4県と、大阪市など4市だった。このうち名古屋市は「情報あんしん条例」という形式で公文書の管理について定めている。

     条例を設置していない自治体に準備状況や意欲について質問したが、「制定を準備中」と明言したところはなかった。ただ滋賀県は昨年から有識者懇話会を開いて条例制定を検討しているほか、新潟県の米山隆一知事は今月、県弁護士会の要望に対して条例化に前向きな姿勢を示した。

     一方「制定を検討していない」と答えた自治体は東京都、大阪府など28都府県、京都市など5市に上った。

     行政として文書を使わなくなった後も重要な文書をまとめて保管し、住民の利用に供する公文書館の有無について尋ねたところ、設置ずみなのは39自治体だった。

     公文書管理に詳しいNPO法人・情報公開クリアリングハウス(東京)の三木由希子理事長は、条例が必要な理由について「規則や規定は行政部局の都合でルールを変えることができる。国が2001年の情報公開法施行直前に保存期間を明確にしていなかった文書を大量に廃棄したのは、公文書管理法がまだなかったためにできたことだった。地方自治体も条例を作り、作成・保存・廃棄・公文書館移管などについて安定的に運用できる仕組みを作ることが大事だ」と話す。


    条例制定済みの自治体

    鳥取県

    島根県

    香川県

    熊本県

    札幌市

    相模原市

    名古屋市

    大阪市

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