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【アニメ最前線】戦前・戦時下の広島 ささやかな日常を描いた傑作『この世界の片隅に』 のん「声優」初主演

産経新聞 11/20(日) 18:22配信

 公開中のアニメ映画「この世界の片隅に」は、第二次大戦下の広島を舞台に、戦況が悪化する中、少しでも楽しく生きようとする主人公たちの姿が描かれる。緻密な調査で再現した戦時下の暮らしを舞台に、人々のささやかな喜びと悲しみを描く傑作となった。片渕須直監督に聞いた。

(岡本耕治)

 《のんびりやで絵を描くことが好きな18歳のすずは昭和19年、広島市から、呉市の周作のもとに嫁ぐ。物資が不足する中、すずたちはさまざまな工夫で毎度の食事を用意し、絵を描いて毎日を過ごす。しかし、戦況は日に日に悪化し…》

 こうの史代さんの原作漫画を読み終わらないうちに、プロデューサーに「これを映画にしよう」と訴えました。

 原作では、普通に食事を作ったり、洗濯したりすることが、いかにかけがえのないことかを感じさせる。背景に戦争の暗い影があることで、その尊さがさらに光る。また、主人公のすずさんがいつもニコニコしていて、非常にいとおしく思えた。すずさんと、彼女の生活をまるごとアニメーションで描きたくなったんです。

 《原作は、史実を徹底して調べた上で、すずたちの日常を描いている。その姿勢にならい、片渕監督も綿密な考証を実施した》

 20年の4月、すずさんが洗濯ものを干しているときに、空に1本の飛行機雲を見付ける場面があります。

 原作では一切の説明もなく描いてあるのですが、調べると、この飛行機は実在していて、戦艦大和の所在を探す米軍の偵察機なんです。すずさんの生きる“片隅”と、戦争が起こっている“世界”がきちんとリンクしている。それがこの原作の素晴らしさです。

 人の記憶はあやふやで、どんどん上書きされてしまう。だから、調査で大事なのは当時の文書や新聞記事、日記、写真です。

 一次資料で調べた上で、「あの店の手すりにもたれた感覚が今も背中に残っている」といった当時を経験した人の証言を最後の決め手に使いました。

 《音楽は女性歌手・コトリンゴが担当。登場人物たちに、そっと寄り添うような静かな旋律が印象的だ》

 すずさんが、ささやかな人だから、音楽もささやかでありたかった。感情をかき立てるような使い方はしていません。

 ただ、最後に一度だけ、広島市側から原爆投下を描いたシーンだけは、感情に訴える使い方をしました。原作では、この場面は詩を使って表現しているのですが、これを何とか映画に取り込もうと思って、音楽を付けてみました。ここだけは、できるだけやさしい歌声を流してみたかった。

 《すずの声は、声優初主演となる女優・のん(能年玲奈から改名)が担当。あどけなさの残る柔らかな声で、毎日をのんびりと生きるすずを好演した。原爆の投下、敗戦と状況が緊迫する中、その声が少しずつ尖っていく様子が涙を誘う》

 準備段階の早いうちに、自然とスタッフの中で「すずさんの声は、のんさんに」という認識ができていた。彼女に決まる前から、のんさんを念頭に描いていました。

 すずさんはコミカルな人だけど、18歳の女性だという側面もある。のんさんは、ゆったりしたしゃべり方で、その両方の側面を見事に表現してくれた。それは演技でもあるし、本来の彼女らしさがにじんだ部分でもあると思います。まるですずさんが実在しているようでした。のんさんの復帰が公開に間に合って本当に良かった。

 《「君の名は。」「聲の形」など、今年はアニメ作品の秀作が続いている》

 現在のアニメ作品は、高校生など若者の青春を描いた作品が主流。僕のように「鉄腕アトム」で育った世代が60歳前後になっているとしたら、もっと幅広いジャンルのアニメ作品が必要ではないか。そして、それは若者には無関係なものではないはず、という思いがあります。

 僕の前作「マイマイ新子と千年の魔法」で一定の評価をもらい、今回の作品でクラウドファンディングを募集したら、非常に多くの人が支援してくれた。

 また、文学性という面で、アニメは漫画の領域に達していない気がします。これは能力の問題ではなく、お客さんをどう獲得するかという問題でもあります。この作品がきっかけとなって、ジャンルの幅が広がっていけばうれしいですね。

最終更新:11/20(日) 18:22

産経新聞

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