今の日本社会において長時間労働の是正は極めて重要な課題です。昔ながらの働き方を変える――いわゆる「働き方改革」をしなければ、少子高齢化による労働力人口の減少や、グローバル化の進展による国際競争に打ち勝つことはできません。これから若く優秀な人財を採用するためにも、残業しない・させない文化を組織に定着させる必要があります。
ところが現場に入ってコンサルティングしていると、このような風潮に過剰反応し、仕事があるのに残業せず帰る人が増えているという現実に直面することがあります。この問題は当初、「成果に対して責任を持つ者」と「時間外労働削減に責任を持つ者」との対立からくるものと私は受け止めました。つまり、
「とにかく結果を出せ」
と叫ぶ上司と、
「とにかく残業せず帰れ」
と叫ぶ管理部門との対立です。
この対立構図はわかりやすいでしょう。当事者は「仕事があるのに残業せず帰るなんてできない。でもとにかく帰れって言われるし……」ということになり、結局は家に持ち帰って仕事をしたり、帰宅前にスターバックスなどのカフェに寄ってパソコンと向き合うことになるのです。これだと本来の問題は解決しません。
近年、仕事と生活との調和を意味する「ワークライフバランス」は、ますます重要なキーワードとなっています。「とにかく結果を出せ」「とにかく残業を減らせ」の両方を実現するために「持ち帰り残業」はわかりやすい解決策と言えます。しかしこれでは「ワークライフバランス」はいつまで経っても実現しません。
私は「絶対達成」で名を売っているコンサルタントです。したがって「とにかく結果を出せ」という姿勢を最重要視しています。いっぽうで目標を達成する人ほど残業をしないこともわかっているので「とにかく残業せず帰れ」という姿勢も大賛成です。家庭や余暇に精を出すことによって仕事に対する活力も養われていくからです。
経営はバランスが大事。個人個人の生活も仕事もバランスが大事です。つまり「絶対達成」と「残業ゼロ」と「ワークライフバランス」がそれぞれ高次元でバランスよくまとまれば最高なのですが、「残業ゼロ」と「ワークライフバランス」だけを実現させようとするとどうなるか?仕事の成果が置き去りになるのです。
この「置き去り度」は、放置するとどんどんエスカレートします。本来であれば、成果に対する意欲があり、意欲があるから行動し、行動するから成果を得られるのです。成果に対してコミットしないと、あらゆる行動にもコミットしなくなり、意欲も減退して、ただ会社に出てきて定時まで何となく過ごし、帰宅するという人になっていきます。
「仕事があるのに残業しない」という状態が恒常的に続きます。工場や店舗で働く人には想像できないかもしれませんが、いわゆる「ホワイトカラー」と呼ばれるオフィスワーカーには、「ワークライフバランス」を重視しすぎて、本来の目的を忘れてしまう人がいるのです。
この「仕事があるのに残業しない」というのは、非常にデリケートな表現です。定時内で処理できない仕事量を押し付ける上司の裁量の問題だ、と言われる可能性があるからです。しかし現場にいるとわかります。事実はそうではありません。単純にその人の作業密度が低いため、普通なら7時間で終わる仕事を7時間で終わらせることができないだけなのです。したがって優先順位も考えず、人に相談もせず、自分なりのやり方でダラダラ定時時間内を過ごしておきながら、「ワークライフバランスが大事ですから」といった表情で、ひょうひょうと定時でオフィスを後にしようとするのです。こういう部下に上司はキレそうになります。
「残業はしなくてもいいけど、今日やるべきことが残っているなら残業してでも今日じゅうにやれよ!」
と言いたいのです。しかし今の世間の風潮は、この言い分を許してくれません。「絶対達成」よりも「残業ゼロ」が優先される世の中だからです。しかも何が成果なのか、何が組織の目標なのかが曖昧な部署においては顕著です。総じて作業密度が低いので、だらだら長時間労働をしますし、「残業をゼロにしろ」と言われれば、作業密度はそのままで、ただ残業せずに帰るだけ。先述した工場や店舗とは働き方が異なるため、今日の仕事を明日にまわしてもいい、さらに来週にまわしてもいい、上司から指摘されない限りやらなくてもいい……という姿勢が身についているためです。仕事があるのに残業せずに帰ってしまうのです。
仕事があるのにも関わらず残業せずに帰って問題がないのであれば、その仕事は必要のないものだったのです。もし必要な仕事であるならば、他の誰かに必ずしわ寄せが来ます。ポイントは作業密度です。作業密度の高い状態で長時間労働をするのはよくありませんが、恒常的に作業密度が低い状態が続いているなら、むりやりにでも労働時間を短くし、時間あたりで処理する仕事量を増やすようにしましょう。いったん作業密度の低い状態で働く習慣を身に付けてしまうと、なかなかこのクセは治らないからです。
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