ドワンゴがFC2を特許侵害で提訴。勝つのはどっちだ? --- 宮寺 達也
ニコニコ動画を運営しているドワンゴが11月15日、FC2動画等のコメント機能がドワンゴの特許を侵害しているとして、運営元のFC2とホームページシステム(大阪市)を東京地裁に提訴した(参照:IT mediaビジネスオンライン)。
ドワンゴとFC2は7月に「ブロマガ」の商標権を巡ってお互いを提訴しており、訴訟合戦の様相を呈してきた。
ネット上では「著作権を侵害しまくって来たドワンゴがどの口で」「盗人猛々しい」等、辛辣な意見が多い。しかし、今のニコニコ動画は違法動画を減少し、多くのアニメの公式配信を行ったり、ニコニコ生放送で声優やクリエイターの生トークを配信したりと、日本のアニメには欠かせない存在だ。なので、アニメファンの私としてはドワンゴを応援している。
しかし、特許侵害の訴えが正当か否かは全く別問題だ。この特許訴訟はどちらが勝つのか、パテントマスターとして詳しく追求したい。
ドワンゴの特許を調べてみた
各ニュースサイトやドワンゴのプレスリリースを読んでも具体的な特許番号や内容を記載していないため、特許侵害の詳細がわからない。そこで、ドワンゴの特許を特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で全部見てみることにした。
「株式会社ドワンゴ」が出願人となっている登録特許は79件あった。その内、コメント機能に関する特許は20件程である。この20件の特許をさらに読んでいき、ニコニコ動画とFC2に共通するコメント機能に関する特許を3件(特許第4263218号、特許第4673862号、特許第4695583号)に絞れた。何れもニコニコ動画がコメント機能付きサービスを開始した直後の、2006~2007年に出願されたものである。
ネット上では「動画にコメント付けるとか、昔からあるだろ。そんなもの特許になるのか?」という意見もあったが、それはドワンゴも特許庁も当然わかっている。ドワンゴの特許は、「大量のコメントを見やすく表示する」ための技術的工夫を追求したものである。「特許になるのか?」という問いには問題無いと回答できるが、FC2動画が特許を侵害しているかどうかはさらに詳細に内容を確認していきたい。
その1 特許第4263218号(リアルタイムなコメント機能)
特許第4263218号は、ユーザーが投稿したコメントを動画再生時間に合わせて表示するだけでなく、「リアルタイムにコメントを表示し、ユーザ間のコミュニケーションを行う」ための発明である。そして、肝心となるFC2動画がこの特許の権利を侵害しているかについては、違うようだ。
この特許は最初の出願は特許庁に拒絶されており、修正を行い、かなり範囲を絞った形で登録している。出願時は「アプリがコメントを送信し、サーバがコメントと動画再生時間を同時に記録し、アプリに配信する」という権利であったが、登録時は「アプリがコメントとコメント消去指示を送信し、サーバがコメントと動画再生時間とコメント消去指示を同時に記録し、アプリに配信するとコメントを表示しない」という権利に絞られている。
FC2動画の再生アプリを確認してみたが、「コメント消去」に該当する機能は無かったので、侵害していないだろう。
その2 特許第4673862号(面白いコメントを選択する)
特許第4673862号は、ユーザーが投稿した大量のコメントをただ表示するだけでなく、「面白味のあるコメントを優先して表示する」ための発明である。そして、FC2動画がこの特許の権利を侵害しているかについては、プログラムのソースコードを読まないと判断できない。
この特許も最初の出願は特許庁に拒絶されており、修正を行い、かなり範囲を絞った形で登録している。出願時は「サーバが複数のコメントを送信し、アプリが複数のコメントを表示する」という権利であった。大量の面白いコメントが流れるという、ニコニコ動画の根幹となる特許であり、最も重要度が高いものと見た。
しかし、この特許は登録時に「サーバ管理者が複数のコメントに優先順位を付与し、全てのコメントをアプリに送信し、アプリは優先順位を考慮して表示するコメントを選択する」という権利に絞られている。
FC2動画の再生アプリを確認したところ、確かに大量のコメントを表示しているので、何らかのコメント選択機能はあるだろう。しかし、ニコニコ動画アプリではコメントの量を選択できたり、特定のコメントをブロックするといった充実したコメントコントロール機能があるが、FC2動画アプリには無い。
そのため、FC2動画がコメント選択をサーバ側かアプリ側のどちらで実施しているか、判断できない。これは裁判を通じて、FC2がソースコードを開示する中で明らかになっていくだろう。
予想であるが、FC2動画アプリのコメント機能のシンプルさを考えると、配信サーバ側で実行していると思う。
その3 特許第4695583号(コメントをずらして表示する)
特許第4695583号は、ユーザーが投稿した大量のコメントをただ表示するだけでなく、「コメントをできるだけ重ならないように、位置をずらして表示する」ための発明である。こちらも、FC2動画がこの特許の権利を侵害しているかについては、 プログラムのソースコードを読まないと判断できない。
この特許も最初の出願は特許庁に拒絶されたが、表現の修正に留まっており、権利範囲はほぼ維持されている。権利は「2つのコメントの位置が重なるかどうか判定し、重なる場合に片方のコメントの位置をずらす」という権利であった。大量のコメントが見やすく流れるという、やはりニコニコ動画の重要な特許と見た。
こちらは、FC2動画の再生アプリを確認しても判断できない。コメントの表示位置が最初の狙いの位置なのか、上手くずらしたものなのか、再生アプリから判断する術は無い。
やはり、FC2動画が「コメント位置をずらして表示しているか」は裁判を通じて、FC2がソースコードを開示する中で明らかになっていくだろう。
予想であるが、FC2動画アプリのコメント機能のシンプルさとコメント投稿数を考えると、実装している可能性は低いと思う。
結論:FC2が特許を侵害している可能性は低いが、ソースコードを開示させることが目的では
ドワンゴの特許と、FC2動画アプリを比較してみた限りでは、FC2が特許を侵害している可能性は低いと思う。しかし、「していない」とも断言できない。
そのため、ドワンゴは裁判を通じてFC2にソースコードを開示させることができるだろう。こちらが本命の狙いなのではと感じた。
ソースコードを開示することによって、ニコニコ動画のソースコードを流用していたり、他の特許に抵触しているといった事実が明らかになるかもしれない。そうなれば、著作権侵害や新たな特許侵害として攻勢を強めることができるだろう。
またそれが駄目でも、FC 2動画がコメント機能を充実することに対してブレーキを掛ける効果が期待できる。そうなれば、コメント機能で先を行っているニコニコ動画は有利な立場になるだろう。
本件はまだ情報が少ないので、現時点ではこの考察が精一杯である。弁理士の方や、ゲーム業界の特許に詳しい方がより優れた考察をいただけるならば、是非勉強させていただきたい。
宮寺達也 パテントマスター/アゴラ出版道場一期生
プロフィール
2005年から2016年まで大手の事務機器メーカーに勤務。特許を得意とし、10年で100件超の特許を取得。現在は、特許活動を通じて得た人脈と知識を駆使しつつ、フリーランスエンジニアとして活動中。
アゴラ出版道場、第1期の講座が11月12日(土)に修了しました。今後は各出版社との打ち合わせが始まります。12月からは毎月1度のペースで入門セミナーを開催します(次回は12月6日開催予定。すでにお申し込みの方が増えております)。
なお、次回の出版道場は、来春予定しています。
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