世界を養うテクノロジー
【編集部注】著者のJoseph Byrum氏はSyngenta社のライフサイエンス – グローバルプロダクト開発・イノベーション・デリバリー部門のシニアR&Dエグゼクティブである。
今から20年後、あなたのテーブルの上に食べ物を載せるための最も重要なツールは、収穫機でも、コンバインでも、そしてトラクターでもない。それはソフトウェアたちだ。
現在農業は、完全にハイテク企業へ移行する過程にある。これは何世紀にも渡ってものごとが行われてきた方法に対する、遅れてきた革命なのだ。事実を見つめるならば、もし私たちが昔ながらの方法で農業やり続けるならば、2050年までには更に20億人の人びとが飢えることになる。
世界の人口増加が、農業生産性の急激な向上を、差し迫って求めている。生産性に対する、地道な進歩を待っていては、もう単に間に合わない。2050年の課題は、前例のないものである — 今日生きている全ての人を養った上に、1920年に生きていた全員を加えた人口を養うことと等価なのだ。
簡単に言えば、20世紀を通して私たちを導いてきた技術は、21世紀においては私たちを遠くまで導くことができない。そしてこのジレンマを解決するための、どのようなソリューションを手に入れるにせよ、土地と水は乏しい資源であり続け、環境の持続可能性が最優先事項であることも考慮に入れる必要がある。
幸いなことに、ハイテクガジェットが全国の農場に広がりつつあり、作物の生産性を押し上げている。自動運転車が米国のハイウェイ上で受け入れられることに手間取っている一方で、自動運転コンバインやトラクターは、米国の小麦並びにトウモロコシ畑では徐々にありふれた景色になりつつある。
Teslaは昨年自動運転装置を装備したModel Sモデルを5万台販売したが、John Deere社は既に20万台の自動運転トラクターを農場に投入している。
ドローンや人工衛星が、農家に対して作物の健康状態に関する、これまでにはなかったオーバービューを与えている一方で、グラウンドレベルのセンサアレイは、土壌と気候に関するリアルタイムのデータを提供している。これらのシステムは、有害な昆虫や作物の生育を脅かすかもしれない他の問題の存在に対して、早期に警告を与える。
十分な情報を得ている農家は、問題が深刻になる前に解決へ向けて迅速に行動することが可能になる。例えば、窒素センサが、フィールドの一部における窒素の過剰を報告することもあれば、他の一部では不足を報告するかもしれない。これによって農家は、栄養が多すぎず、少なすぎず、必要な量だけ正確に供給される先進的な施肥システムを制御することができる。高い精度は無駄を省き、お金を節約し、そして環境のために良いのだ。
成長する植物は窒素を渇望し吸収するが、最新設備のない農家はしばしば「念のために」作物が必要とするものよりも多くの施肥を行いがちである。残念なことに、植物によって吸収されなかった余剰窒素は、地下水に浸透する傾向があり、それが多ければ魚に有害なものとなる。
したがって、これらのハイテクガジェットから得られる、効率と環境への潜在的な利点は途方もないものとなるが、それらははるかに複雑なパズルの一片を表しているのだ。
ガジェットが行うのは、前例のないレベルのモニタリングとデータ収集能力の解放である。しかし、21世紀の農業の中心となるものは、これらのデータの処理である。明日の農業のキラーアプリは情報による収穫だ。
成長という話題になると、農家は沢山の疑問に直面する。どのような作物を、いつ、どこに植えるべきなのか?どのくらいの水が必要とされるのか?どのくらいの肥料が必要とされるのか?水や肥料の量は、畑ごとに異なり、個々の畑の中でも異なる。その量も日によって、あるいは時間によっても変化する。このプロセスには、相互に関連する何千もの複雑な変数が関わっている。
複雑な数学が計算尺と黒板を用いることでしか行えなかった遠い昔には、私たちは訓練された推測以上に、最善の道筋を決定するための、複雑で増大する質問に答える計算能力は持っていなかった。
しかし今や計算能力は安価であり、全ての可能な選択肢とその潜在的な結果をモデル化することが可能になった。例えば、Google Mapを搭載したスマートフォンは、現在の交通状況に基いてA地点からB地点までの全ての経路を、最短あるいは最速の観点から評価することができる。
シミュレーションとモデリングはまた、作物栽培を行う際に迷子になることを防ぐ。最も基本的なレベルとして、作物は成長の様々な段階に応じてレベルが変化する、太陽光、水、そして栄養分を必要としている。これは単純な話に聞こえるが、大規模に行われる世界では、各因子を最適化すれば巨大な見返りが得られるのだ。
米国は毎年5000万エーカーの農地全体から、23億ブッシェル(1ブッシェルは米国では約35.2リットル)の小麦を収穫する。もし生産性が1パーセント伸びれば、毎年67万800トンの小麦粉が追加されることになる。
そしてデータ分析の能力をフルに利用すれば、1%よりもはるかに多い増産を行うことができる。
例え農場の地面に最初の種が蒔かれる前であっても、全国のそして世界中の成長の様々な条件のための遺伝的潜在能力を最大化を狙って、植物品種の育種を最適化するために、データ分析を利用することができる。カリフォルニア州の農家が干ばつに強い種を必要とするかもしれない一方で、中西部の農家は特定の植物病害に対してより強い抵抗性を有する種を欲しいかもしれない。
データ分析はまた個別の農家側でも役に立つ。例えば特定の農家のニーズと、その農家の畑の(昨年ではなく)今年予想される収穫条件の下で、最高の収量を期待できる種をマッチングする。
そしてその種を植えるタイミングになったときには、データ分析は作物の成長や土の条件、天候、そしてその他のキイファクターに関する大量の履歴データを処理し、個別の作物の条件が最大収量に向かって最適化されるようにする。収穫後には、データ分析は、配送物流や作物の販売を支援する。
情報による収穫は、種子の品種の育種から店舗の棚への食品の配置至るプロセスの各ステップを最適化する、完全なシステムとして考えられなければならない。目指すのは農業における意思決定を改善することだ、農家やそのサプライヤーから、農業機器メーカーまで、そして最終的には消費者たちの意思決定を。
食品製造プロセスの各段階において可能な最善の選択を行うことで、生産性が最大化され、より少ないリソースでより多くの食品を得るというゴールへ近付くことができる。これが、2050年に世界を養うために必要な作物の成長を達成するために、必要とされる努力のレベルだ。
これは、いかなる会社もしくは個人よりも大きな仕事である。既存の農業コミュニティさえ超えている課題なのだ。食品セキュリティは全ての人に影響する、そしてその問題解決が要求するのは、農業が次のレベルの生産性に到達するために必要な革新的なシステムを構築できる、数学とソフトウェア工学の世界からの才能の注入である。
これらのことが意味するのは、明日の最も偉大なテクノロジーの機会は、シリコンバレーではなく、(穀倉地帯である)中西部で見出すことができるということだ。
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(翻訳:Sako)