【ローマ福島良典】米大統領選でのドナルド・トランプ氏の勝利を受け、憲法改正を巡って12月4日に実施されるイタリアの国民投票で、改憲反対派が勢いを増している。中道左派・民主党のレンツィ伊首相(41)が進める国会・行政改革の是非が問われるが、既成政治に対する不満が爆発した「トランプ・ショック」で、レンツィ氏への「逆風」が強まっている。
国民投票は「国政選挙の洗礼」を受けていないレンツィ氏に対する事実上の信任投票だ。18日付イタリア各紙掲載の世論調査によると、反対派は米大統領選をはさんで急増し、賛成派を7~12ポイント上回っている。
反・欧州連合(EU)、反移民を掲げるイタリア北部の右翼政党「北部同盟」のサルビーニ書記長(43)は「今度は私たちの番だ」と気勢を上げている。既成政党批判を展開し、6月の地方選で躍進した新興政治勢力「五つ星運動」の創設者、ベッペ・グリッロ氏(68)は「(トランプ氏勝利で)世界は既に変わった」と自陣営議員に発破をかけた。
ローマ社会科学国際自由大学(LUISS)のセバスティアーノ・マフェットーネ教授(政治哲学)は「改憲反対派である北部同盟や五つ星運動は、『世界的に広がっているトランプ陣営』の一角を形成しているのだ」と分析する。
レンツィ氏がヒラリー・クリントン氏に肩入れしたことも不利に働いている。ベルルスコーニ元首相(80)率いる中道右派野党「フォルツァ・イタリア」のブルネッタ下院議員会長は「クリントン氏を支持する間違いをおかしたレンツィ氏は政治的に死に体だ」と政権攻撃を強めている。
LUISS大学院のジョバンニ・オルシナ教授(現代史)は「トランプ氏勝利で『権威への抵抗』がお墨付きを得て、(政権の座にある)レンツィ氏に不利に働く可能性がある。北部同盟との連携を望むフォルツァ・イタリア内強硬派の声が強まる」と予測する。
ナポリ大学のエンリカ・アマトゥロ教授(社会学)の話
「反権力・支配階級」の潮流は社会的な不平等の増大が原因だと思う。特にイタリアでは人口の3分の1が暮らす南部に貧困層の3分の2が集中し、貧困と失業の問題がより深刻だ。南部には「見捨てられた」という感情がある。南部住民にはレンツィ政権への反発が強く、「国民投票で首相を退陣させよう」と思っている。