日立製作所では、人工知能(AI)が社員個人に対して、幸福感を高めるためのアドバイスを与える社内実験を行っている。
「いったい、どんな仕組みなの、それ?」「そもそも、AIにひとの心をスッキリ解析されてたまるものか!」「この研究のリーダーである矢野さんって、どんな人なんだ?」
当コラムの著者、河合薫さんが、たくさんの「?」を携えながら、押っ取り刀で日立製作所研究開発グループ技師長の矢野和男さんを直撃。果たして、「?」の謎は解けたのか。それとも、返り討ちに遭ったのか…。(編集部)
河合:私、幸福にはちょっとうるさいんです(笑)。大学院のときに心理的well-beingを向上させるEラーニングのプログラムを開発して、介入研究を行ったことがあるんです。
矢野:心理的well-beingですか? 初めて聞く言葉ですね。河合さんのご専門では「幸福」と同義なんですか?
河合:そうです。正確に言うと、「幸せな状態」ではなく「幸せへの力」です。危機に遭遇したり、不安になった時にこそ高められる「人間のポジティブな心理的機能」のことで、モノごとの見方をちょっと変えるだけで誰もが高められます。矢野さんの研究における「行動で幸福感を高める」という考え方と、ちょっと似てるかもしれないですね。
矢野:なるほど。でも、モノごとの見方を変えるのって、結構、難しいように思いますが……。
河合:モヤモヤメモとハッピーメモを書くだけでも、ずいぶん変わりますよ。
矢野:な、なんですかそれは? モヤモヤメモって、すごい興味あります。
河合:モヤモヤメモっていい名前でしょう。私のオリジナルです。商品登録しなきゃなんです(笑)
矢野:ちょっと教えてください。
河合:モヤモヤメモは寝る前にその日を振り返って、心の針がネガティブに傾いた原因である「モヤモヤ」を一つだけ書くんです。書くことはストレス発散につながるので、書き出すとスッキリします。でも、それだけだと気がめいってくるので、その日の「幸せ探し」もやる。こちらがハッピーメモです。
矢野:面白い! 実は私、昨日あった良かったことを3つ書くというのを、10年以上やっているんです。働いてると「何かいまいち気分がのらない日だったな」とか、「昨日はモヤモヤした日だったな」と思うことってあるじゃないですか。それで「だったらいいことも思い出そう」と考えて、良かったこと探しをやっています。
10年もやっているので、最近は「いいこと探し」の能力がだいぶ高くなりましたが、最初の頃は出てこないんですよね。
河合:でも、ネガティブなことはすぐ思い付く。
矢野:そうなんですよ。ハッピーの方が出てこない。ただ、10年もやってるとハッピー探し能力もどんどん訓練されてきて、今はすぐ書けますよ。
河合:矢野さん、ハッピーそうですもんね(笑)。幸福研究に10年以上費やしている研究者がいて、「ハッピーな人は毎日、ハッピーなことを考えている人だった」という結論を出した。ハッピーメモも、この研究結果を参考に考案したんです。
人間の感情は複雑な半面、実に単純。私の研究は「書く」という作業を軸にしたんですけど、そこに「行動」という変数を入れて考えた矢野さんって何者なんだ? これは絶対にお会いしなきゃ!と、メチャクチャ興味がわいちゃったんです。それで、編集担当のY氏に「対談させろ~~!」って拝み倒して、晴れて今日の対談となりました!
矢野:それは光栄です。ありがとうございます。