何十年も前からある設備だが、事故を起こした時の賠償への備えをきちんとしていなかった。必要な資金を確保するため、今から、昔の客にも負担を求める――。

 原発について、経済産業省がそんな案を有識者会議に示した。経営の常識から外れたつけ回しであり、事業者の責任をあいまいにすることにもなる。撤回するべきだ。

 原子力損害賠償法は、原発事故を起こした事業者が原則すべての損害に賠償責任を負うと定める。ただ東京電力福島第一原発の事故を受けて、国が設立した機構がひとまず賠償費を立て替え、後で長期間かけて東電を含む大手電力各社に負担金を払ってもらう制度ができた。

 原発を持つ事業者が共同で事故のリスクに備える「相互扶助」の考え方に基づく。負担金は電気料金への上乗せが認められ、実質的には大手各社と契約する利用者が負担する構図だ。

 そこへ、今回の案である。

 負担の対象をさらに広げ、電力自由化で参入した原発を持たない「新電力」も含める。具体的には、新電力が大手の送電線を使う時に支払う託送料金に上乗せする方法を想定している。ほぼすべての国民に負担が及ぶことになる。

 経産省の説明はこうだ。

 「原発事故の賠償費は本来、日本で原発が動き始めた60年代から確保しておくべきだった。だから、過去にこのコストが含まれない安い電気を使った人に負担を求めるのが適当だ」

 背景には、福島事故の賠償費がすでに想定を超えて6兆円ほどに達し、今後も膨らむとの見通しがある。とはいえ、「過去分」を持ち出すのなら、まず大手各社が原発を動かして積み上げてきたもうけをはき出させるのが筋だ。必要な備えを半世紀間も怠った責任を問わないままで、新たな負担に納得する人がいるだろうか。

 経産省は、福島第一の廃炉費や、事故を起こしていない原発の廃炉費でも、一部を託送料金に混ぜ込む負担案を示している。「託送頼み」は賠償費で三つ目だ。

 新電力に負担を負わせるのは原発優遇策にほかならず、電力自由化の土台となる公正な競争環境を損なう。新電力の契約者の中には、原発を嫌って大手から乗り換えた人もいる。

 原発事故の被害者への賠償をしっかり行うのは当然だ。だが、原発に関するコストは、原発を持つ事業者が担うべきである。理屈の通らないつけ回しは許されない。