休眠預金活用法案の法案内容に反対する
休眠預金活用法案とは
休眠預金活用法案とは、10年以上使用されていない銀行口座等から資金を預金保険機構に移し、内閣総理大臣が指定した指定活用団体が預金保険機構に移された資金の運用を任されて、民間のNPO法人などに資金を助成・貸付することを求める法案です。
2016年の臨時国会で衆議院を通過して参議院での法案審議となっています。しかし、同法案の内容には疑問が多く、筆者はこのような新たな利権を生み出す法案が制定されることに強く反対します。
具体的には、法案中の下記の内容
・基本理念に意味が分からない都市差別条項が入っている
・利用使途が限定され過ぎて特定団体への利益誘導に近いものになっている
・約800億円と言われる休眠口座資金を扱う指定活用団体のガバナンスが極めて不透明なものになっている
に疑問を感じますし、そもそも私人間の取引に政府が介入することは控えるべきだからです。
筆者はNPO法人が民間の寄付などを通じて公益的な活動を実践していくことは大いに振興されるべきという考えを持っています。しかし、同法案を具体的に読み込んでみると、NPOを支援する健全な寄付文化や行政からの独立性などを阻害する可能性を秘めたものではないかと感じています。
以下、具体的な法案内容の疑問点について触れていきたいと思います。(法律案要綱、法律案はこちら)
休眠預金活用法案の意味が分からない基本理念規定
休眠預金等交付金に係る資金の活用に関する基本理念には、
「第一六条四 休眠預金等交付金に係る資金の活用に当たっては、これが大都市その他特定の地域に集中することのないように配慮されなければならないこと。」
という項目が入っています。この都市差別条項は何でしょうか。この法案は地方への利益誘導を目的としたものなのでしょうか。私は東京に住んでいますが、このような条項が盛り込まれた法案には断固反対します。
同じ基本理念には、
「第一六条三 休眠預金等交付金に係る資金の活用に当たっては、これが預金者等の預金等を原資とするものであることに留意し、多様な意見が適切に反映されるように配慮されるとともに、その活用の透明性の確保が図られなければならないこと。」
と書いてありますが、内容如何に関わらず「地域」によって交付するか否かを決める旨が法案に盛り込まれている時点で、透明性の確保など絵に描いた餅でしょう。上記の非合理な規定が盛り込まれた法文がある限り、地方に対する配慮が透明性を確保された形で行われるとは思えません。
休眠預金資金の利用使途があまりにも限定されている
休眠口座活用法案は第17条で休眠口座の資金のバラマキ先として下記の項目を指定しています。
しかし、総則の目的(第一条)には、
・この法律は、休眠預金等に係る預金者等の利益を保護しつつ、休眠預金等に係る資金を民間公益活動を促進するために活用することにより、国民生活の安定向上及び社会福祉の増進に資することを目的とすること。
そして、基本理念(第一六条)には、
・休眠預金等交付金に係る資金は、人口の減少、高齢化の進展等の経済社会情勢の急速な変化が見込まれる中で国及び地方公共団体が対応することが困難な社会の諸課題の解決を図ることを目的として民間の団体が行う公益に資する活動であって、これが成果を収めることにより国民一般の利益の一層の増進に資することとなるもの(以下「民間公益活動」という。)に活用されるものとすること。
としか規定していません。
「国民生活の安定向上及び社会福祉の増進」がいつの間にか「子育てNPO」のような特定目的の資金配分団体のためのものに制限・変質しています。法案中に言及している要素があるとしたら、強いて言うなら人口減少や少子高齢化への言及がそれにあたるのでしょうか?法案の目的・理念からはより幅広い分野の活動が対象になってもおかしくないと思いますし、何故支援先となる非営利活動の内容をここまで特定の目的に絞ったのかが分かりません。
これでは同法案に関係する特定分野の団体への利益誘導だと思われても仕方がありません。同利用使途に限定した理由をもう一度周知するべきでしょう。
新たな利権を生み出す「指定活用団体」の存在
更に第二十条で休眠預金資金約800億円の利用使途は内閣総理大臣が指定する「指定活用団体」が決めることが出来るとされています。
「内閣総理大臣は、民間公益活動の促進に資することを目的とする一般財団法人であって、2(1)の民間公益活動促進業務(以下「民間公益活動促進業務」という。)に関し次に掲げる基準に適合すると認められるものを、その申請により、全国に一を限って、指定活用団体として指定することができること。」
この法案内容で問題になる点は全国で「たった1つの指定活用団体」が選ばれるということです。
指定活用団体の活動内容について健全な運営が行われているかどうかを測るためには、複数の比較対象になる団体が存在しているほうが望ましいです。同法案は複数の指定活用団体による健全な競争の存在を否定し、指定活用団体の切磋琢磨によってより良い支援先を選定していくガバナンスを行うインセンティブを軽視しています。
内閣総理大臣が「たった1つの指定活用団体」に資金を任せる先を限定する理由は何でしょうか。
この指定活用団体のガバナンスについて政府が計画を審査するから良いというような言い訳に国民は騙されるべきではありません。同団体が内閣府からの天下り先と関係者らによるNPO団体等への権力装置になることは目に見えています。そのような状況が生まれる要素を強く持った指定活用団体による資金の独占構造は、政府からの非営利活動の独立性を中長期的に脅かす存在となるでしょう。
基本理念にも「多様な意見が適切に反映されるように配慮されるとともに、その活用の透明性の確保が図られなければならないこと。」と明記されていることから、せめて同法案は「指定活用団体」は複数設定できるものとし、特定の人々に資金使途の選択に関する権限が集中し過ぎないように配慮するべきでしょう。
私人間の契約に土足で踏み込む法案
同法案では、口座に預けた預金の引き下ろしを本来の預金者が求めた場合、預金保険機構から支払われる仕組みが導入されています。
しかし、そのときには既に同預金は上記の指定活用団体に受け渡された後になっているため、その費用負担は預金保険機構に資金を提供している銀行等(つまり、預金者・銀行株主)と納税者の負担となっています。
銀行預金者や納税者などはこのような負担について認めているわけではありません。もちろん、同法案の内容が国民に十分に周知されて国会で成立したというフィクションを経ることは可能ですが、上記のような法案の問題点について国民が理解しているとは到底思えません。
それにも関わらず、安易に「長年使用していないお金だから」「債権放棄の期間が過ぎたものだから」という理由で、現在は求めに応じて銀行から返還される事実上の私有財産を勝手に他人に交付するような法案を通すことは極めて問題だと思います。このような私人間の取引に土足で踏み込む法律の前例を作るべきではありません。
衆議院での質疑で提起された宮本徹議員の問題提起
実は同法案の衆議院の質疑で共産党の宮本徹議員からも問題提起がなされています。詳細はこちらか見てください。(第190回国会財務金融委員会第18号)
宮本議員からは、
・私有財産に触れる法案を作るには国民への周知徹底が十分に進んでいない。法律が成立してから周知するというのは違うのではないか。
・NPO法で規定されている二十分野ではなく三つの分野を限定的に列挙されていることはなぜか。
・「社会の諸課題を解決するための革新的な手法の開発を促進するための成果に係る目標に着目した助成等その他の効果的な活用の方法を選択すること」という資金配分条件は地道な活動をしている団体を排除するのではないか
・、休眠預金等活用審議会の委員だとか指定活用団体の役員や職員に、資金配分を受ける団体、資金分配団体や民間公益活動を行う団体の役員、関係者が入ることが法律上排除されておらず、なぜ利益相反を避ける仕組みを法文上書かないのはなぜか(赤い羽根は同様の規定がある)
など、至極まっとうな問題定義が行われましたが、法案提出者側はシドロモドロの答弁をして話を誤魔化しています。同法案については国会においても問題が指摘されていることを国民は認識すべきです。
銀行が休眠口座に関する事前取り決めを行うべきだ
以上のように休眠預金活用法案には、法の趣旨も然ることながら、その法案内容にも問題がある欠陥法だと思います。
銀行口座にある休眠口座の預金をどうしても何らかの形で活用したいならば、個々の銀行が長期で使用されていない口座については銀行のCSR活動に利用する旨を最初から明示し、預金者との間で口座開設契約を結ぶべきでしょう。
上記のように特定の団体への非合理な利権誘導を正当化するような法案内容のままで、休眠預金活用法案が制定されることに疑問を感じざるを得ません。
参議院での賛同議員はこの人たち
上記のような問題や疑問が残された法案について参議院で推進している議員は下記のとおりです。心ある有権者の皆さんは下記議員事務所に疑問点を問いただされると良いのではないかと思います。せめて上記の疑問くらいは解消した上で法案を審議するべきではないでしょうか。
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