選挙期間中、在日米軍の駐留費全額負担を求めると公言したトランプ新大統領。本当に求めてきた場合、日本側の追加負担額は約2600億円となる。払うことができない額ではないだろうが、求められたからといって、ただ払うだけでいいのかという疑問が湧く。
「請求書」を突き付けられた場合、日本はいったいどうすべきなのか。
20年以上にわたり防衛省(防衛庁)取材を担当している半田滋氏が、全額負担となった場合、代わりにアメリカに求めるべきことはなにか、また、アメリカが日本から離れようとしたときに、日本が採るべき行動はなにかを指摘する。
トランプ氏は米大統領選で「日本は米軍の駐留費を全額負担せよ」と繰り返し主張した。たとえ暴論であろうと、来年1月には正式に大統領になるのだから無視するわけにはいかない。
「これまでも相当な金額を負担しているのに何だ」と理不尽ぶりに怒るか、言うとおりに全額を負担するのか、あるいは加重な負担に耐えきれず、日本は自主防衛の道を歩むのだろうか。
まずは日本の負担額についてみてみよう。
米国防総省が公表した「共同防衛に関する同盟国の貢献度報告」(2004年版=これでも最新版)によると、02年度に日本が負担した米軍駐留経費負担額は44億1,134万ドル(5382億円、1ドル=当時の122円で計算)とされ、同盟国27ヵ国中でダントツの1位だ。続くドイツと比べ2.8倍、韓国と比べて5.2倍もの巨費を投じている。負担割合でみると、74.5%で、こちらも堂々のトップだ。
負担額は私有地の借料、従業員の労務費、光熱水料、施設整備費、周辺対策費などの「直接支援」と公有地の借料、各種免税措置などの「間接支援」に分かれ、それぞれ32億2,843万ドル(3,939億円)、11億8,292万ドル(1,443億円)となっている。
日米で計算方式が違うのか、02年度の日本の防衛費でこれらにピタリと当てはまる数字は見当たらないが、当時、在日米軍を担当していた防衛施設庁の予算をみると5,588億円で、米国防総省の示した総額とさほど変わりない。
現在の負担額をみると、16年度の日本の防衛費のうち在日米軍関係経費は施設の借料、従業員の労務費、光熱水料、施設整備費、周辺対策などの駐留関連経費が3,772億円、沖縄の負担軽減を目的とする訓練移転費などのSACO関係経費が28億円、在沖縄海兵隊のグアム移転費、沖縄における再編事業などの米軍再編関係経費が1,766億円で、これらの総額は5,566億円だ。
これに他省庁分(基地交付金など388億円、27年度予算)、提供普通財産借上試算(1,658億円、27年度試算)を合わせると総額7,612億円となる。
これらが日本側の負担割合の74.5%にあたると仮定すれば、100 %の負担は1兆217億円なので、追加すべき負担は2,605億円となる。
決して少ない金額ではないが、第二次安倍晋三政権になって以降、過去10年間連続して減り続けた防衛費は増額に転じている。4年続けて増えた中には、1,000億円以上の増額となった年度もある。2,600億円程度の追加負担であれば、日本政府は支払いに応じるのではないだろうか。
その理由は簡単だ。政府は在日米軍を日本防衛に不可欠な抑止力と位置づけ、日本が他国から侵略される事態では在日米軍のみならず、米本国からの来援を前提に日本の安全保障体制を説明してきたからである。抑止力の中には、もちろん米国が差し出す「核の傘」も含まれる。
自衛隊を増強して自主防衛を図ろうにも、年間5兆円の防衛費にとどまる日本が、60兆円近い軍事費をかけている米国と同じ戦力を持つのは不可能に近い。核保有は日本が第二の北朝鮮になるのと同義語だ。これまでの政府見解を撤回しない以上、自主防衛には踏み出せない。
かといって護憲の人々が期待するような軍事によらない平和外交を安倍政権が目指すはずもなく、政府が米軍撤退を認めるという選択肢はまずない。
米軍駐留費をめぐる負担増は日本にとってマイナスだけではない。必要経費の全額負担により、米軍は限りなく「日本の傭兵」に近づくことなる。
もともと米軍駐留の根拠は日米安全保障条約にある。ざっくりいえば、この安保条約により、米軍が対日防衛義務を負う一方で日本は米軍に基地提供する義務を負う。
そして米軍は日本や極東の平和と安全のために駐留しているという建前だが、実際には「フィリピン以北」(政府見解)との極東の範囲をはるかに超え、古くはベトナム戦争へ、近年ではイラク戦争へと東南アジアや中東の戦争に何度も出撃している。
本来なら、日米両政府の事前協議が必要だが、日本政府は「出撃ではなく、移動に過ぎない」と米軍に有利な解釈を示し、事前協議は一度も開かれたことがない。何のことはない、在日米軍は日本を出撃基地として便利に使っているのである。