PSYやイ・ヒョリのミュージックビデオを撮り、広告界では非常に有名というチャ・ウンテク氏が文化界の黒幕として登場したことも、スキャンダルが「軟派」になる上で一働きした。大統領の「陰の実力者」崔順実氏の手足となって、自分の子分を政府のあちこちに配置し、利権あさりに忙しかったチャ・ウンテク氏の行動は恥知らずなものだった。ところが数日前、裁判所に出頭する際に薄毛だということが判明し、犯罪行為に対する批判は弱まって事件全体が戯画化された。
チャ・ウンテク氏は、自分のおじを大統領府の教育文化首席に、恩師を文化体育観光部(省に相当)の長官に据えただけに威勢があり、「実力者」として振る舞っていたことは明らかだ。しかし、チャ・ウンテク氏を「文化界の皇太子」と呼んだことが穏当だったかどうかは分からない。「崔順実氏一党」の行動隊長に当たるチャ・ウンテク氏は、一時的に文化界を「遊び場」にして放蕩(ほうとう)していたにすぎない。文化芸術界の人々はチャ氏のことを、この分野を代表するほどの人物とは認めていないようだ。
崔順実事件と関連して芸能人の名前を挙げ、 無責任な暴露が続いていることも、焦点をぼやけさせている。国会議員が、具体的な根拠も出さずに「誰々は崔順実と関連がある」「特別待遇を受けた」と根拠のあやふやな話を乱発し、「悔しかったら告訴しろ」というような形で出してくる様子は、目も当てられない。毎日あふれ出てくる「特ダネ」を確認するのも精神的にきついが、「情報」という名の下に、誰彼構わぬ「チラシ」(芸能界のゴシップやうわさなどを載せた私設情報誌)まで大手を振ってまかり通るというのは、文字通り公害だ。
光復(日本の植民地支配からの解放)後に産業化と民主化を達成し、成功の歴史を歩んできた韓国において、大統領の陰の実力者による権力への介入は、乗り越えるべき障害の一つだ。プライバシーをほじくるゴシップに目を奪われず、今回の事件を、国家と指導者の品格を省察するきっかけにしなければならない。