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少女は恋を請い願う 作者:間宮 未瑠
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プロローグ「月夜の盃」

風切り音だけが微かに聞こえる深夜の博麗神社。ついさっきまでいつも通りの騒ぎが行われていたとは思えない程静まり返った光景を浮かび上がる満月が照らし出す。この雰囲気には毎回寂しさに似たものを感じてしまう。博麗神社定例会…という大層な名目で行われていた宴会。そしてその場所代とでも言わんばかりに置かれた手土産の数々を整理するのも私の密かな楽しみだ。

「まったく、なんで私が全部片付けなきゃいけないのよ〜。」
「はは、まぁそう言うなよ。今回の「お土産」は結構良いものが揃ってるみたいだぜ?」

さっきまでの静けさをかき消すように不機嫌そうな愚痴をこぼしながら境内にとっ散らかった酒瓶や食器を片付ける霊夢を宥めつつ私も手伝いに回る。流石に酔っ払い一人に任せるのは危なっかしいからな。最も、それでも酔っ払いが二人に増えるだけなんだが。

「ふぅ…何とか片付いたわね…大体定例会とか言うなら他の所でもやりゃいいのに。なんでウチの神社でしかやらないのかしら?」
一仕事終えた霊夢が縁側に腰掛けまた愚痴をこぼし始めたので、それに連れ添うように私も横に座りまたまた窘める。

「それだけここの居心地が良いんじゃないのか?事実私も入り浸ってるわけだからね。」
「あんたの場合はもう居候みたいになってるじゃないの。そのうち本当にここに住む〜とか言い出すんじゃないでしょうね?」

霊夢が顔だけを横に向け威圧する様に私をじろりと睨みつける。だが酔いが回り頬を赤らめた状態じゃ自慢の迫力も台無しだ。むしろ妙に綺麗で、可愛らしくてこっちが気恥ずかしくなってくる。とにかくこれ以上霊夢の追求を受ける前になんとか話を逸らさなきゃな。

「い、いやぁ…流石に私からそんなこと言うつもりはないぜ…それよりほら、「お土産」開けないか?」
「ふぅん?なんか腑に落ちないけどまぁいいわ。なんか食べ物ないの?片付けしてたらお腹すいてきちゃったわよ。」

そう催促され本殿の中に無造作に積まれた箱やら包みを適当に開けてみる。すると箱の一つから仄かに甘い香りが漂ってきた。ビンゴ、こいつはグッドだぜ。

「あぁ、ちょうど良かったな。饅頭があるぜ。これは妖夢のとこからのプレゼントみたいだな。」
「ほんとに丁度いいわね。でもなんか幽霊からお供え物貰ったみたいで変な感じねぇ。お返しに塩でも送ってみようかしら?」

霊夢はそんな軽口を叩きながら「白玉楼より」と書かれた箱を開け饅頭を取り出す口へと運ぶ。口の悪さは相変わらずだがその顔はすっかり緩み切っている。
まぁ、その方が私も楽で良いんだけど。

「どれ私も一つ…おぉ、こりゃ美味い。アレとも合いそうだしな。」
「あんたは何時もそれね。いい加減に飽きないの?」
「毎日米を食べても飽きないのと一緒さ。そんなこと言ってお前も飲むんだろ?」
「もー、わかってるなら聞かないのー。」

饅頭を食べ終え、すっかり上機嫌になった霊夢を横目に雑に積まれた箱の中から一つを取り出し、開ける。
中には酒と盃が二つ。これが私の「お土産」だ。
そして二つ並べた盃に酒を注ぎ一つを霊夢に手渡す。

「へぇ…わざわざ盃まで自前で用意するなんて、あんたにしちゃなかなか小洒落たことするじゃない?」
「私はこう見えてもロマンチストなんでね。ほら、早く飲もうぜ。」
「ふふ、それもそうね。それじゃあ…」
「「乾杯。」」


コツン。と盃が触れ合う音。それだけが夜の静寂に響く。
月夜に照らされた霊夢の顔はいつもよりも儚げで、それでいて美しく見えた気がした。いや、後から考えて見たら多分気のせいなんかじゃなかったんだろうな。だってあの時には私はもう---

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