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いくらフィクションでも、都合良すぎる立志伝 作者:日野P
16/16

14:課題

嫁の由登場。鍋島清房ゲットだぜ……。調子よく人材とか確保しているのに、全然快進撃じゃない。
快進撃したいけど、あまりにも突然な技術などは気に入らない……どうしたらいいのだろう。
肥前国桜馬場城
「……これはあまりよろしくないなぁ」
挿絵(By みてみん)
 勢力を地図に表してみる。西郷純久の寝返りにより、有馬領は分断。しかし……。
「……一番信用の置けないところが一番有馬や龍造寺と隣接するとはねぇ……これはまずいわ」
 今や側近にして謀臣の一人である月照……いや、つい先日還俗してしまったので日野瞳と名乗っている……が言う。
 そう。日野・有馬・龍造寺の隣接地点が西郷がまずい。兵を送れば、という意見も出ていたが、領民根こそぎ連れて行っての一万なのだ。実働勢力など、精々四千がいいところだ。その兵をそこに入れて、有馬・龍造寺が侵攻となったら目も当てられない。
「彦佐、情報は?」
 傍らに控える彦佐も、首を横に振る。
「流石に、龍造寺も有馬も相当守りを固めに入っておりますれば。」
「そうか」
 耳目を防がれるとつらい。幸い、村落単位での噂は入ってくるが、城内の情報が直接入ってこないのは、精度という面でつらい。
「希美、領内の発展はどうだ。」
「ぼちぼちね。先の龍造寺、有馬騒動での大量流民以降は、僅かずつしか増えていないわ。」
「まぁ、九州の僻地だからな。微増でもありがたいもんさ。」
「領内の河川沿いの村落に、南蛮漆喰による堤防の設置具合は二割」
「ほぉ、かなり頑張ったなぁ。」
「これからよ。あの臭い硝石も順調に増えてきているわ。」
「長年、研究してきたからなぁ……少しずつ鉄砲も入ってきたか。」
「まだ十丁程度ですがね……。」
 常に帳簿と戦う男、空海が言う。
「十分。とにかく、日本全国に人をやり、職人を集めよ。金は島津や大内との交易でかなり余裕がある。」
「とにかく人手、人手。……匿われている鍋島清房殿にもご出仕願いたいですな」
 地空、宙興も声を揃えて言う。
「左様左様。使える人材ですからな」
 呑気な口調で言うが、岳父の登板は頭痛いんだが……。
「問題ありませんな。」
 宙興が断言する。
「なぜなら、鍋島殿は表向き失政で追放された者。地縁から引き離された場所で、銭にて養われる身。しかも、血縁も遠く離れておりますれば……殿の権威に圧力を掛けうる存在ではありません。しかも、日野家で成り上がろうと思うならば、才を示さねばなりませぬ故」
「……嫁の父、ってだけで頭痛いんだがねぇ」
「そこは諦めましょう。では、次」
 瞳が締める。
「船は今や十隻を超えましたね。これで交易の頻度も増えることになるでしょう。島津から日之江周辺に焼討をかけるので、相場に少し色を付けてもらえないかと申し出がありますが……」
 瞳の言に、にっと笑い快諾する。あの島津家が傭兵として動いてくれるのだ。それを断る馬鹿などいないだろう。
「弓ですが……」
 空海がさらに帳簿を引っ張り出してくる。
「現状生産されている和弓は、何気に威力が高いので、生産を継続しています。ただ、熟練の職人の数を必要とするので、時間がかかります。連弩については、運用方法が課題になると思いますが、威力的には申し分ありません。弓騎馬の運用を考えず、投擲部隊として多数投入すると、効果があるのではないかと思いますが……」
 研究成果が少しずつ出ているわけか。集団運用については……鎌倉叔父と紗耶香に押し付けよう。刀槍の部隊も大切だが、投擲部隊の威力は侮りがたい。まして、今後は鉄砲も入ってくるのだから、複合投擲部隊として運用できれば、損害をかなり減らせるな。
「他に家臣団からの申請などはあるか?」
 俺は一足早く目安箱制度も取り入れている。領民だけでなく、下級役職の者からの案も受け入れている。一例としては、汚い話であるが、厠の土の入替についてだ。今までは直掘りしてしていたが、そうなると手間暇がかかる。そこで木の箱に丸太を嵌め、その上にある程度の土を置くようにした。そうすることで効率的に交換ができるという案だ。
 他にも輪番について、日頃の薪水の供給についてなど、うっかり忘れてしまいそうなことに対しての提言もあり、迷わず採用していっている。
「近隣の農家より、土壌改良に貝殻や魚の骨の活用、森林や畑の保水量を増やすための腐葉土についての提言がございます。数年試した結果、収穫量が伸びているとのことです。」
「貝殻や魚の骨は分かるが、腐葉土はどのようにしているのだ?」
 俺の頭の中にはただ葉を一か所に集めて腐らせるくらいしか意識がないのだが。
「聞き取らせたところ、腐葉土になった後、しっかり天日干しを行うことで根腐れなどが減ったとのことです……」
「なるほど、それは良いことを聞いた。褒美を取らせた上で、そのやり方を日野領全土に広げる措置を取れ」
「はっ」
「殿」
 希美が平伏している。
「どうした。」
「流下式についてですが……」
「ああ、塩か。いかがかな?」
「中々思うように……」
 一応の案を渡してはいるが、本来はポンプを使って行うものだ。すぐ成功するわけがない。
「多少時間がかかっても良い。」
「ははっ。」
 陶磁器は無理かなぁ……タブレットで産地を調べてみると……おや?
「空海……陶磁器の原料って薩摩にあるよね?」
「そういえば、そうですな」
 俺と空海の会話に、瞳以外、『なぜそんなことまで知っている』と言わんばかりの視線を送られた。
「まぁ、耳目からの報告さ」
 情報の豊富さに、家臣一同が感心する。
「これも……何とかできんかなぁ」
「できれば金になりますなぁ」
 そうそう。宙興がいるからまだ大きな声では言わないが、茶器製造で付加価値を上げて売っていく方法もあるのだ。

肥前国鳥屋城
 桜馬場城は現在、日野星鳴・北天翔地空・南海宙興を城代としておいている。中島川という水運に恵まれ、近隣には日野家政商、本河内家がある。そこもかなり魅力的な地であるのだが、五年がかりで整えた鳥屋城にも相当な愛着がある。当面、本拠はここだ。
「……暇がほしい」
 ぼやく俺に、
「死ねば死ぬほど眠れますよ」
と返す空海。
「お前なぁ」
「戦が終われば楽になる……わけないでしょう。次が来るんですよ。次が。その次も勝たねば、百戦九十九勝しようとも、最後の一敗で完敗になりますからな。」
 まぁ、真理なんだろうけどな。
「負けぬこととは難しいなぁ」
「難しゅうございます。だからこそ、国を豊かに、兵を強く、見識を広く持たねばなりませぬ」
「……いつも腰巾着のようなことばかり言っておったのに……」
「一応、これでも日野家の家宰ですので。」
 立場が人を作る……そういうことなのだろうか。だとしたら、俺は次期当主でなく、当主として振舞えておるのだろうか……。
「では、後ほど」
 俺の悩みを察したのか、それとも夫婦の部屋に着いたからなのかは分からないが、いつになく丁重に姿を消す。
「由、今戻った」
 障子を開けると、由が三つ指をついて頭を垂れていた。
「おかえりなさいませ、殿」
「うん、今日はいかに過ごした?」
「星鳴様がいらしていました。」
「そうか。不自由はしておらぬか?」
「はい、おかげさまで」
 にっこりと笑う。
 瞳や紗耶香、星鳴が凛とした美人とすれば、由は楚々とした可憐な姫君だ。なんて惚気ている場合ではない。彼女は鍋島由、龍造寺家の元重臣であった鍋島清房の次女だ。現状、領内での失政の責を取らされ、追放処分となったのを、日野家が引き取った、という筋書きだ。
「其方の父上には不本意な思いをさせておる。」
「父も戦国の武人。不覚は自分のもの、謀略は生きるための才略、そう仰っておりました。」
「そう言ってもらえるとありがたい。」
「父上の事で……」
「手持無沙汰、と?」
「そうです。父もまだまだ三十路。それなりに若うございます」
「……お主、本当に十三歳か?」
 あまりにも大人びた口調に、苦笑しながら言う。
「戦国の女子でございますれば」
 柔らかく返される。
「ふぅ。しかし……其方なかなか多彩よのぉ」
 書物に書道、書画など中々の腕前だ。
「父の仕込みもありましたし、博多の町衆との交流も多少は……」
「なるほど、御父上は単なる武人でない、とのことですね。」
「ええ。武家の娘こそ、教養を大切にせよ。人の上に立つとは力だけに非ず、そのようなことを……」
(そんな話聞いたことないが……まぁ、全ての武将の言行など記録もできぬか。それにしても……)
「由、時折儂の相談に乗ってもらっても構わぬか?」
 返事は快諾、等と思いながら聞いたが、思ったよりも表情が良くない。
「殿、女子にそのような助けを求めるなど、殿方の行うことではございませぬ」
(そうか……うちの家風が異様なだけで、女子が表立つことはないんだったな)
 だが、俺も引く気はない。
「由、殿方じゃ女子じゃではない。できるかできぬか、なのじゃ。できるものがその才を使わぬは、天への冒涜。」
「できぬものはできぬのです」
 ……思ったより頑固だな、おい。
「……ならば、こっそりと相談する故、その際には答えてくれ」
「はい、それならば」

 まだまだ有馬は健在。龍造寺は頭脳とも言うべき鍋島家を引き抜いたが、まだまだ相当な実力を有している。
 当面は調略が必要か……。

 それからしばらくは、伊佐早へ出張ったり、有喜へ出張ったりと多忙な日々を送っていた。有馬も制圧されっぱなしではない。地元衆を引き抜こうと必死の調略をかけてくる。それに対する手も打たねばならない。
 幸い、後方支援は安定している。そのため、多少無茶な動員で、有喜衆に恫喝をかけたり、高城に出向いては飯をたかるという名目で頻繁に西郷純久と面談を繰り返している。
 西郷とて馬鹿ではない。自分が裏切り者であることは重々承知をしている。そのため、日野家に信頼されるためにはそれなり以上の成果を出さねばならないこと、肝に銘じているはず。
最早、有馬家には帰参などできぬ。
 ……ばれちまったからなぁ、兵糧の横流しの件。帰参しても責任を問われて切腹。俺の首を持ち帰れば別だろうが、俺も脇を甘くしてやるつもりはない。
 それに、甘い汁は吸わせてやっているのだ。これで失政でもかませば、粛清の良い対象だ。

肥前国諏訪の地
 天文二一(一五五二)年、以前より京の寺社勢力への寄進が効を奏したのか、史実よりも早く今日の諏訪大社より分霊、日翔寺近くに鎮西諏訪大社が建立された。
 一地方豪族とは思えぬほどの式典となり、九州はおろか、京でも大きく話題になったらしい。これでさらにはったりが利くようになった。
 同時に、大宰府天満宮からも分霊を頂くことができた。金の力は偉大なり。風頭山に建立されたため、風頭天満宮と名付けられた。
 またもや歴史を大きく代えたわけだが、背に腹は代えられない。その他にも様々な仏教に対しても保護を行う政策を取り入れた。
 だが一向宗、貴様らはダメだ。そして、キリスト教の宣教師どもも許さねぇ。
 一向宗は日本全国を騒乱に陥れた宗教手段発起の強訴だ。大名並みの勢力を持っているような宗教を領内に入れれるわけがない。その辺については、改宗しなければ追放と比較的厳しい処分を取っている。
 そして、キリスト教。大村純忠が日本初のキリシタン大名などと良い様に記載されているようだが、日本の土地を勝手に外国に渡すような輩だ。次はぜってぇ潰してやる、と思っているのだが、日野領内では布教禁止令を早々に出している。
 まぁ、宗教勢力が幅を利かせるのは、生活が苦しく、神頼み、仏頼みとなるからだ。日野領ではそれはない! そうはさせない。
 日野領の富国強兵策の背景に、宗教対策も含まれているのだ。

 一方で朝廷に対してはマメに贈り物を行っている。やんごとなき方々なので、直接的な銭の献上は実は差し控えている。本心では大喜びするかもしれないが、銭の力で……など思われても困る。時の帝、後奈良帝は特にそのようなことに対しては潔癖であったとも言われている。
 そこで、島津との交易で使用している海産物を継続して送り続けた。特に換金性の高い物を選んで献上している。
 別に官位は望んじゃいない。自称している肥前史生なんて超最低位でもいいくらいだ。肝心なのは、日野家は尊王家という評判だ。そのような評判が、人口を増やし、国を富ませることとなる。
 朝廷だけではない。公家衆に対しても、一向宗を除く寺社勢力に対しても、それなりの鼻薬は嗅がせている。信長のように、既存の勢力全てを敵に回して、など俺の器量では無理だ。
 前世では大してしたこともなかった根回しを、精一杯行っている。同時に一部の家臣に礼法を習わせてもいる。田舎武士と侮られるは業腹なんでな。

……思っていた以上にやることが多すぎるなぁ。
・龍造寺、有馬対策(耳目を活用しにくい)
・南蛮漆喰によるダム建設
・硝石生産
・鉄砲の自家生産
・鍋島清房の登用
・船建造
・島津との連携による有馬領焼討
・投擲部隊の強化、運用法
・農法、厠土の交換等々
・土壌改良
・流下式製塩法の確立
・陶磁器の原料を島津から輸入、開発
・女性の表舞台への登用
・伊佐早、有喜地方への恫喝
・西郷純久への牽制
・鎮西諏訪大社、風頭天満宮の建立
・寺社保護と一向宗、基督教排除
・禁中並公家対策

……多すぎじゃね?

天文二四(一五五五)年、日野龍哉二十五才。
未だに、大村、島原まで手の届かぬことに枕を濡らしながら、多くの課題に泣かされる日々を過ごしていく。
とにかく人手が足りません。銭は足ります。そういう仕様です。この物語には書けなかったけど、猪・鹿・雉・鶴等々定期的に狩ったり、実験的に畜産もしているところです。合鴨農法とかも考えていたんですが、これって山にある田でもできるのか? ちょっと調べてみないと分かりません。
※一応調べて書いているつもりですが、気になることがあったら教えてください。

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