金本知憲が当時を振り返る。
「カープを去るときには苦悩がありました。僕は広島生まれの広島育ちだし、出たくて出たわけじゃない。最後まで広島でという思いでやっていましたからね。阪神に移籍することは、最後はサイコロを転がして決めたようなものです。僕自身、ファンを裏切ったという思いも確かにありました」
だが、同じリーグで敵チームに行った「裏切り者」を、広島ファンは温かく迎えてくれた。
「僕からは何も発言しなかったんですが、ファンはいろんな事情を理解してくれていた。'03年、阪神に移籍した最初の広島戦で、スターティングメンバーの発表のときに拍手をもらったんですよ。1打席目にヒットを打ったときも拍手が起きた。その3連戦が終わってホテルに戻った時、ぼくは部屋で一人涙しました。
今年のCSも甲子園へ見に行きましたよ。どちらかの応援というわけではなく、僕はただあの『赤いファン』が見たかったんです」
50年来の広島ファンとして有名な漫画家の弘兼憲史氏が、広島ファンの心理をこう語る。
「せっかく育てた選手が他球団に行く。これは寂しいに決まっている。でも、広島はおカネがないとファンもわかっていますから、納得してしまう部分もあるんです。球団の保持のためには仕方ないなと。それに、また良い選手が出てくるに違いないとカープファンは信じているんです」
前出の赤坂英一氏は、「弱いからこそ愛される」と分析する。
「広島は『手作り感』がすごくあるチームです。だからファンも愛着がわく。手作り感が強いというのは、おカネがないことの裏返しですが、そのおかげで、カープの選手には、継続して見る楽しみがある。『あんなプレーができるようになった』『だんだんうまくなってきた』とファンが実感できるんですね。
地方チームということもあります。東京をはじめ、大都市に住んでいる人の大半は地方出身者です。彼らの大多数は、限られた収入と生活環境のなかで生きている。だからこそ、自分をカープに投影する。カープは庶民にとって、感情移入しやすい球団なんです」
球団側もファンから一方的に愛されているばかりではない。元球団常務取締役・高橋千年美氏が言う。