マエケンは、'07年に現役を引退した佐々岡から、直接背番号18を手渡され、2年目に一軍へと上がってきた。ドラ1ルーキーとはいえ、夏の甲子園で目立った活躍のなかったマエケンは、ファンから「誰やお前」という目を向けられた。

「しかし9勝2敗と活躍し、その後も順調に成長しました。その理由はマエケンの性格にあります。彼はマイペースで、自分が良いと思ったことしか絶対にやらない。一度、野村監督からの投げ込み指令を無視したこともありました。プロで伸びる選手は、結局自分に絶対的な自信がある奴なんですよ」(前出・球団関係者)

新たなスターも育った

今年の躍進を支えた生え抜きは、マエケンだけではない。東出の怪我でレギュラーに定着し、CSで一躍全国区のスターへとブレイクを果たしたセカンドの菊池涼介がいる。

菊池は広島伝統の「足を使った地道なスカウト」で見出された。広島の松本有史スカウトは初めて菊池を見た印象をこう語る。

「忍者だと思いましたね。センター前に抜ける当たりに飛びついて、膝をついたままファーストにレーザービームみたいな球を送球していました。また、三盗を試みて、タイミングはアウトなのに、スライディングを途中で止めて、ジャンプしてタッチをかいくぐったということもあった。スカウトをしていて初めて、プレーを見て鳥肌が立った」

その上、菊池は身体能力だけの選手ではない。メンタル面でも「並の選手」と全く違うものを持っていたと、菊池の中京学院大時代の恩師・近藤正氏が語る。

「実は菊池は、家庭の事情で野球だけに専念できる環境にいなかったんです。4年間、練習が終わってから毎日のようにパチンコ屋でアルバイトをしていた。でも本人は『賄いも出るし、時給も良いんです!』とあくまで明るかったですね」

松本氏はそんな菊池に惚れ込み、大学へ通い続けた。松本氏に熱心に勧められたフロント陣は一昨年のドラフトで、地方の弱小大学の主力に過ぎなかった菊池の2位指名を決行。逸材の一本釣りに成功した。

広島通として知られる、スポーツライターの赤坂英一氏が言う。

「今のメンバーを見ると、ショート梵英心、センター丸佳浩、サード小窪哲也、この3人がドラフト3位。正捕手の石原慶幸が4位です。以前、DeNAの高田繁GMが『カープは他の球団が3位とか4位で欲しいと思っている選手を2位や3位で持っていく』と言っていました。カープはそうやって選手を一本釣りして、主力にしていくというチーム作りをやっている」