「武蔵野」という言葉には、木々の木漏れ日を感じるような、文学の香りが漂うような独特の響きがある。そう感じるのは私だけだろうか。
九州の地方都市で生まれ育ち、就職のために上京した私には「武蔵野」という言葉は一種の憧れだった。上京してから早いもので30年以上が経ったが、当初は仕事の関係で墨田区や江戸川区、江東区など東京の東側地域にご縁があり、なかなか武蔵野の趣が漂う西側地域に足を運ぶ機会が少なかった。
しかし、20年前に杉並区に引越しをしたことで憧れだった吉祥寺や武蔵野市に一気に近づいた。JR中央線の三鷹駅周辺も「武蔵野」の趣があちこちに見られる場所で、働くのにも、住むのにも、遊びに来るのにも良い場所だ。その中でも、武蔵野市と三鷹市の境にあるJR三鷹駅南口周辺をぶらりと歩いてみると、古き良き武蔵野の面影を残しながらも活気のある商店街が広がっていて楽しいと私は思う。
JR三鷹駅で電車を降りて南口を出ると、駅前開発事業によって2006年に完成したペデストリアンデッキが広がっている。
デッキを手前側から降りるとバス乗り場が並んでおり、手前で降りずにまっすぐ進むと、中央通りにそのまま出られるようになっている。さらに、東側・西側へとデッキは続いていて、車の往来を気にすることなく南口の各方面に行くことができるようになっているのが特徴だ。
この南口で私が気に入っていて、毎朝立ち寄っているのが「タリーズ」。チェーン店ながら、この三鷹駅南口のお店はうなぎの寝床のような細長い二階建てで、バス停と線路の間にあるちょっとした隠れ家のような雰囲気が落ち着く。
「三鷹駅中央通り」は南北にまっすぐ伸びた通りで、銀行や商店、飲食店などが立ち並び、活気がある。平日、休日を問わず大勢の人が歩いているので、それだけでもワクワクする雰囲気が漂っている。自転車を押しながら店頭の商品を眺めている人もいれば、ビジネスバッグを持って忙しげに歩いている人もいる。
お昼時になれば会社員がランチ場所を求めて歩いていたり、夕方には晩御飯の買い物で地元の方々が徒歩や自転車で訪れたりとにぎわう通りだ。
ランチでおすすめしたいのが、「ラーメン文蔵」。カウンターだけのラーメン屋さんで、実直というか真面目な感じの昔ながらの美味しいラーメン屋さんだ。スープがなくなったら終わりなので、早めに行くのがよいかもしれない。
もう一つ「ラ・メーラ (La Mela)」も好きなお店。ランチタイムはお手頃価格で美味しい料理が楽しめる。家族で行くのも良し、デートにも良しという雰囲気だと思う。
中央通りと並行して走る小さな通りにも小さな商店が軒を連ねていて、飲食店や雑貨屋さんがあり、マンションもあり、生活感あふれる街の雰囲気を醸しだしている。
駅からまっすぐに伸びる中央通りを歩いて行くと、徐々に人の往来が少なくなり住宅も立ち並ぶようになってくる。通りの突き当たりは吉祥寺と府中を結ぶ街道になっていて、にぎやかな通りから一転、急に落ち着いた住宅街になるというのも面白い。
中央通りとその周辺には小さな個人商店が幾つも並んでいるが、個性的な雰囲気を持つお店が多いのも特徴だ。
私が特に好きなのが、中央通りから一本西側の裏通りに入ったところにある「山田文具店」。文房具好きで文具店めぐりが大好きな私は、三鷹駅界隈を散策するときには、必ずこのお店に立ち寄るようにしている。
初めて見るのに懐かしいと思うような文具や雑貨がずらりと並んでいながらも、日常使いをするスタンダードな商品もそろっているお店だ。一つ一つの商品を見ながら店内を歩くだけでもとにかく楽しい。
リニューアルで広くなった店内には、以前に比べて数多くの商品が並べられている。
商品は昭和レトロなものが多い一方で、輸入物の最新筆記具が置いてあるなど、古くて新しい商品ラインナップが特徴的。それに加えて「小さくて可愛い文房具」もあるのが個人的にはうれしい。最近買ったものの中では、第一印刷の「おもしろメモ 原稿用紙」やSIERRAのミニボールペン「木軸ボールペンS」が気に入っている。
中央通りから一本西側にある裏道をしばらく歩いていくと、禅林寺という浄土真宗本願寺派のお寺がある。今から300年以上前の西暦1700年に建立されたこのお寺は、木々に囲まれた境内に立つと、「ここは本当に東京都内か」と思うほど清廉な雰囲気が漂っている。
そして、このお寺にあるのが太宰治の墓である。「人間失格」などの名作を世に送り出した太宰治は、三鷹の地で構想を練りペンを走らせていた。残念ながら最後は玉川上水に入水して一生を終えるが、その墓がこのお寺に静かにたたずんでいる。商店街の喧騒を抜けた先に太宰治の墓があるというのは、一世を風靡し若くして世を去った太宰にふさわしいのかもしれない。
JR三鷹駅南口からは「三鷹の森ジブリ美術館」行きのバスが出ている。世界に名だたるスタジオジブリの作品が展示されている美術館だが、この施設は意外にも三鷹市立のアニメーション美術館だ。正式名称は「三鷹市立アニメーション美術館」。スタジオジブリの持ち物だと思っていた方も多いのではないだろうか。
チケットは日時指定の予約制となっており、事前に購入しておかないと入場することができない。2001年の開館からしばらくの間はチケットの入手がかなり困難だったが、現在では多少取りやすくなっている。そうは言っても週末や休前日などは、チケットがすぐに売り切れてしまうので、早めに予約しておくのがおすすめだ。
最近、住宅選びのポイントとして「駅から近い」ということがメリットの一つだと言われている。購入する場合でも賃貸する場合でも同様だが、「どれだけ駅に近いか」がその物件の価値に大きく影響するように思える。確かに、駅から近いということは通勤・通学には便利だし、買い物などで出かけるのにも良いだろう。
しかし、あくまで個人的な考えだが、三鷹駅南口方面に住むのであれば、あえて駅から離れた場所を選ぶというのも一つの方法だと思う。これだけ駅前通りに活気があって多彩なお店が並び、武蔵野の趣を残した地域であれば、駅から歩いて行き来することで、「街を楽しめる」のではないかと思うからだ。
住まい選びは人それぞれだし、正解は無いが「日々街を楽しむために住んでみる」という選択肢があっても良いのではないだろうか。そう考えると、私のように50代の中高年が静かに暮らすための街としての魅力が三鷹駅南口方面にはあるのかもしれない。今度の休日には、家族でのんびりと散策を楽しんでみることにしよう。
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著者:ポレポレとうさん
東京都在住の文房具大好き中高年サラリーマン。親子で遊ぶことを中心に書き始めたブログも11年が過ぎ、ここ数年は大好きな文房具や文具店巡りなどの記事を中心に、のんびりと書き連ねています。
ブログ:http://oyakode-polepole.hatenablog.com/Twitter:@polepole103