1989年に米国で発売されて人気を呼んだゲームがある。「トランプ・ザ・ゲーム」。かの米次期大統領が、「不動産王」の名をはせていたころ自ら監修したボードゲームだ。3~4人が盤上でホテル、カジノ、オフィスビルなどを売買し、築いた財産の多さを競う。
▼40歳の頃のトランプ氏の写真が印刷されたゲーム用の紙幣を使って、オークションや相対での売買が繰り広げられる。巨額の資産を数秒のうちに得る人も出れば、逃す人も出る。取引では「そつのなさ」こそがものをいう、とゲームの説明書は助言している。監修者自身の生き馬の目を抜くビジネス経験が生かされている。
▼駆け引きや交渉の経験が豊富なトランプ氏と安倍首相の、事実上の首脳外交が始まった。今回の会談で首相は、トランプ氏について信頼関係を築ける人物だと確信したという。それはそれで結構なことだが、彼がどんな政策を繰り出してくるのか、まったく油断はできまい。なにせ相手は、ゲームの達人でもあるのだから。
▼次期大統領は自伝で、本当に魅力あることとは、「ゲームをすること自体にあるのだ」と書いている。数々の取引はどんな意味があるかと問われれば、「返事に窮する。ただそれをやっている間楽しかったと答えるしかない」。交渉そのものを楽しんでしまうとなると、トランプ氏は難敵だ。首相はどんな手を打つだろう。