【ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長が17日、議会証言で12月の次回会合での利上げを示唆した。金融市場は既に12月の利上げをほぼ織り込み、ドル高と金利上昇に拍車がかかる。トランプ次期大統領の巨額減税案などで、将来のインフレ予測も強まってきた。相場の過熱が続けば、FRBの利上げペースが想定よりも速まる可能性がある。
FRBは9月下旬、11月初旬の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、いずれも「利上げの条件は整ってきた」と表明しながら、利上げを見送ってきた。11月8日の大統領選後の市況を見極めて、12月13~14日の会合で利上げの是非を判断する腹づもりだったためだ。
大統領選は市場の予想に反して共和党のトランプ氏が勝利したが、同氏が選挙後に過激発言を封印したことを市場は好感。米株価が連日、史上最高値を更新するなど市況は上向いた。トランプ氏は巨額減税と1兆ドルものインフラ投資を公約しており、財政拡張による景気押し上げ期待が強い。
FRBの利上げ観測も強まっている。先物市場が織り込む12月の会合での利上げ確率は90%を超え、会合1カ月前としては異例の高さになった。11日にはフィッシャー副議長も講演で「利上げの条件はかなり整っている」と踏み込み、引き締め観測を押し上げている。
トランプ氏の財政拡張策とFRBの利上げ観測の高まりで、米長期金利は急上昇している。米10年債利回りは今年1月以来、10カ月ぶりに2%台となり、外国為替市場ではドルが全面高となった。主要通貨に対するドルの総合的な動きを示すドル指数(実効為替レート)は16日、2003年4月以来、約13年半ぶりの高値となった。
金利上昇とドル高は金融市場に引き締め効果をもたらす。「20%のドル高は2%分の利上げに等しい予期せぬ引き締め効果がある」(ブレイナード理事)。2016年通年の米経済成長率は3年ぶりに1%台に低下するとみられる。新興国の通貨下落で世界経済に不安が残り、本来は利上げを急ぐ局面ではない。
ただ、トランプ氏の財政拡張策で、将来のインフレ見通しも高まっている。足元の物価上昇率は目標の2%に届かないままだが、インフレ予想が強まれば実際の物価も跳ね上がる。安全運転に徹して1年間も利上げを見送ってきたFRBだが、「トランプノミクス」でインフレが加速すれば、利上げペースを想定シナリオ以上に速める可能性が出てくる。
FRBは17年に2回の利上げを見込んでいる。イエレン議長は利上げペースを極力緩めて雇用を過熱させる「高圧経済」によって、労働市場全体のパイを増やす案を提唱するが、フィッシャー副議長らは「インフレを招く」と慎重姿勢だ。12月のFOMCでは利上げの可否だけでなく、先行きの引き締めペースの議論に注目が集まりそうだ。