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【言わねばならないこと】

(81)加害の恐れ新任務で増 元大学院教授・池住義憲さん

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 ベトナム戦争でサイゴン(現ホーチミン)が陥落した際、難民救済のために非政府組織(NGO)の一員として現地にいた。日米などの外国人を国外に避難させる一方、国外退避を望み、米大使館の塀をよじ登るベトナム人を蹴り落とす米兵を目の当たりにした。「自分はどちらの側に立つのか」と自問自答し、現地に残った。この体験が「戦争や暴力にさらされる民衆や被害者の側に立つ」という信条の原点になった。

 二〇〇三年の自衛隊のイラク派遣では、加害者の立場に立ちたくないという思いで、派遣差し止め訴訟の原告代表を務めた。名古屋高裁は、多国籍軍の武装兵士を輸送する航空自衛隊の活動は憲法九条違反との判断を示し、判決は確定した。

 しかし、安倍政権は判決を学ぼうともせず、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認し、安全保障関連法を制定した。二十日には安保法に基づく新任務「駆け付け警護」を担った陸上自衛隊の部隊がアフリカの南スーダンへと派遣される。

 新任務に伴う武器使用の幅の拡大で、自衛隊が国や国に準じる組織との戦闘に巻き込まれる可能性は高まる。相手が分からないまま撃ち合いになることも考えられるからだ。現地情勢も悪化している。戦闘は九条に違反する。自衛隊員が発砲すれば加害の側に回ることにもなりかねない。

 「ジャストピース」(正義と公正に基づく平和)という言葉があるが、憲法九条はまさにそれに当たる。世界に誇る九条を持つ国として、まずは自衛隊を撤退させ、NGOの知見も生かして非軍事の貢献策を新たに打ち出すべきだ。

<いけずみ・よしのり> 1944年生まれ。35年間にわたりNGO活動に従事。元立教大大学院特任教授。現在は「TPP交渉差し止め・違憲訴訟の会」代表代行。

     ◇

 日本を「戦える国」に変質させる安保法が成立して19日で1年2カ月。池住さんは、自衛隊の新任務「駆け付け警護」の危うさを訴えています。

 

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