それを目にした時、僕は理性を失った。
それさえあれば何でもできるような錯覚にさえ陥った。
僕は無敵だーーー。
机の前には1万円札と手紙があった。
これが実際の様子を写したものだ。
僕の家では両親が共働きで、母も朝早くから仕事に出かけている。
昼ご飯を作りました
部屋が汚いからそろそろ掃除してね
など、母は事あるごとにメッセージを残して職場へ行く。
今回は、30歳の誕生日を控えた僕に働くよう促し、その費用のために1万円を渡すといった内容だった。
心の中の天使と悪魔が争い出した。
これは、両親が一生懸命働いて得た労力の結晶だ。
その金でゲームを買ったと知ったら親は悲しむぞ。
いやいや、買ってしまえ。
親というのは息子の幸せを願う生き物だ。
お前にとっての幸せは何だ?
ポケモンの新作に没頭することではないのか?
親は就活の費用に充てろと言った。
一方で僕はポケモンをやりたい。
この二者択一かに思われた選択肢を両取りできる神の一手。
自問自答を絶えず続け、僕は最適解へと至った。
ポケモントレーナーに就職すればいいんだ。
これで母の希望通り僕は職を見つけ、尚且つポケモンに没頭することもできる。
善は急げ、僕はすぐさま地元のゲームショップへと足を運び、ポケモン ムーン を購入した。
サンとムーンのどちらにしようか一瞬ためらったが、パッケージの邪悪さが僕の中二心を動かしムーンをチョイスした。
プレイするとその映像美に心動かされた(作画崩壊がdisられているアニポケとは対照的だ)。
20年前から初代ポケモンをプレイしていた僕は、ゲーム制作の技術の進化に驚かされた。
正に、「かがくのちからってすげー!」である。
南国の地 アローラ地方の背景描写は、同じく南国の地が舞台であるスーパーマリオサンシャインを思い出させる。
サンシャインというかつての名作と重なって見え、プレイして数分であるにもかかわらず、サンムーンもまた名作なのだと確信した。
ふと、僕は先ほどソフトを買った際のおつりに目を向けた。
4622円。
ポケットモンスター サン・ムーンでは登場するポケモンが一部異なり、片方だけではコンプリートできない。
なんとしてもサンも買わなくては!
しばらくすれば、中古が売られ4622円あれば買えるはずだ。
ママ、就活用に1万円くれてありがとう。
ぼく、ポケモントレーナーに就職して、ポケモンマスターを目指すよ!!