1年5カ月ぶりに衆院憲法審査会の議論がきのう始まった。昨年6月に自民党参考人らが安全保障関連法案を憲法違反と指摘して以来、休眠状態だった審査の再開である。
これに先立ち参院でも行われた。今夏の参院選の結果、憲法改正を容認する勢力が衆参両院で3分の2を超え、改憲が現実性を帯びるなかでの議論となる。
安倍晋三首相は今臨時国会の所信表明で「(憲法改正)案を国民に提示するのは国会議員の責任だ」と改憲への意欲を示し、憲法審査会での具体的な改正条項の議論を促した。
改憲へ突き進もうとする首相に対し、野党第1党の民進党は「立憲主義や憲法の定義についての議論が必要だ」と制してきた。何から議論するかでまず温度差があった。
衆院憲法審査会で与党筆頭幹事の自民党の中谷元氏は「『改正ありき』の改正項目の絞り込みではなく、改正の要否の観点から議論を深めていく」と語った。
民進党の武正公一氏は「立憲主義が揺らいだ今こそ、議論を深めるための土俵づくりが改めて必要だ」と立憲主義に立脚した議論が必要だと重ねて主張した。
中谷氏の発言は、与野党の対立を先鋭化させず、落ち着いた雰囲気のなかで議論を進めたいという気持ちの表れだろう。民進党が主張する立憲主義の重要性も確認した。
憲法の3大原則である国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を守ることに与野党とも異論はないだろう。共通の土俵を確認できれば極論を排することにもつながる。
改憲が必要だとする理由として、戦後の憲法制定過程における連合国軍総司令部(GHQ)の「押しつけ憲法論」が、安倍晋三首相をはじめ自民党などに根強くある。
中谷氏は憲法には日本政府の意向も反映されており「GHQの関与ばかりを強調すべきではないとの意見が多い」と説明したが、党内に自主憲法論者がいるのは否定できない。
公明党の北側一雄氏は「憲法は国民に広く浸透し支持されてきた。押しつけ憲法という主張自体いまや意味がない」と述べ、首相や自主憲法論者をけん制した。
改憲や護憲を自己目的化し、かたくなに主張を譲らないイデオロギー対立から脱却した議論が必要だ。
参院の議論では、自民党から復古的色彩の濃い2012年憲法改正草案について「バージョンアップする」との発言があった。自民党はいったん草案を事実上棚上げする姿勢を示したが、練り直すとなればその真意を疑わせることになる。先祖返りすることがないよう自民党はわきまえるべきだ。