衆参両院で憲法審査会の実質審議が再開した。

 きのうの衆院の審議で、自民党は憲法改正の論点として、環境権、統治機構改革、緊急事態条項、参院選の合区解消、自衛隊の認知などを列挙し、「国民の憲法改正への合意形成をめざす」と意欲をみせた。

 憲法審査会はこれまで、野党の少数意見を尊重しようとする運営姿勢をとってきた。

 戦後長く国民の支持を受けてきた現行憲法の理念を共通の土台とし、与野党の枠組みを超えて静かな議論を進めてほしい。

 国会では「改憲勢力」が衆参で3分の2を占めるが、世論調査では憲法改正への賛否は二分されている。国民の大勢が改憲を求めている状況ではない。

 そんななかで憲法改正が大きな政治テーマになっているのは、改憲を悲願とする安倍首相によるところが大きい。

 しかし、その首相は最近、憲法改正についての発信を控えている。首相はその理由を「改正がリアリティーを帯びる中で、自民党総裁として発言することは控えた方が良いと判断した」と国会で語った。改憲論議に野党を巻き込むための戦略的沈黙ということなのだろう。

 ただ、首相の憲法をめぐる過去の発言には、首をひねる内容のものがいくつもある。

 たとえば14年2月の衆院予算委員会では、立憲主義について「(憲法は)国家権力をしばるものだという考え方はある」としながらも、「かつて王権が絶対権力を持っていた時代の主流的な考え方であり、いま憲法というのは、日本という国のかたち、理想と未来を語るものではないか」と述べたのだ。

 憲法は権力を制限し、国民の自由と基本的人権を保障するもの――。それが近代立憲主義の考え方であり、現行憲法はこれを基本理念としている。

 首相がもし立憲主義は時代遅れという考え方を憲法改正の出発点に置いているなら、その改憲に与(くみ)することはできない。

 憲法をより良くするための議論を否定するものではない。ただ、そうした議論のためには与野党が立憲主義という共通の土台に立つことが欠かせない。

 衆院審査会では、民進、共産両党などが安全保障法制を「立憲主義にもとる」と批判した。「違憲立法を進める政党に改憲を論じる資格があるのか」との指摘も出た。

 安倍内閣が憲法解釈の変更によって、集団的自衛権の行使を認めたことをどう総括するか。まずそこから共通の土台づくりを始めるべきだ。