特集 文藝春秋 掲載記事

築地か豊洲か 銀座鮨職人の意見

一志治夫 (ノンフィクション作家)

「土壌汚染問題あり」

移転を決めた石原元知事
Photo:Kyodo

 まず築地市場移転問題を少し整理しておこう。

 関東大震災によって被害を受けた日本橋魚河岸から築地に市場が移ってきたのは一九三五年。今年で開場八十一年を迎えた。当然、老朽化は進み、また手狭になってきたことから移転案が浮上し、二〇〇一年、石原慎太郎都政のもと、埋め立て地である豊洲の東京ガスの工場跡地への移転が正式決定した。石炭から都市ガスを製造する際に出る化学物質のベンゼンやシアン化合物、ヒ素、鉛などが土壌と地下水に残っているため、東京ガスは都に対して、「土壌汚染問題あり」と事前通告していたにもかかわらず、である。

 そんな中、二〇〇八年に入って土壌を再調査した結果、衝撃的なデータが報告される。環境基準の四万三千倍という量のベンゼンが計測されたのだ。発がん性のある化学物質だ。いまから思えば、この時点で契約を解消して代替地を探すか、築地の再整備へと舵を切っておけばよかったのかもしれない。だが、石原知事は「日本の技術をもってすれば汚染土は除去できる」と計画を強引に推し進めていく。土壌改良はその後も継続され、これまでに都は、土壌対策費だけで実に八百五十八億円もの巨費をつぎ込んできた。これは東京スカイツリーの総事業費六百五十億円をはるかに超えるとんでもない額だ。

 今年八月、新たに首長となった小池都知事は、「安全性の確保」、「巨額・不透明な費用」、「情報公開の不足」の三つを追究するため「市場問題プロジェクトチーム」を立ち上げ、豊洲移転延期を宣言。その結果、主要建物の地下が「盛り土」されずにコンクリート空間になっていることが明らかになり、市場のすべてで「地表の土を二メートル削り、新たに四・五メートルの盛り土をした」としてきた都の説明は虚偽だったことがわかったのだ。

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この記事の掲載号

2016年11月号
2016年11月号
小泉進次郎「日本農業改造計画」
2016年10月7日 発売 / 定価880円(税込)
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