COP22 温暖化による水不足のリスクについて議論

COP22 温暖化による水不足のリスクについて議論
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北アフリカのモロッコで開かれている地球温暖化対策の会議、COP22では温暖化によって引き起こされる、さまざまなリスクについて議論が交わされています。特に水不足は、世界経済や国の安全保障まで脅かすおそれがあるという認識が各国の間で広がっていて、早急な対策が必要だと指摘されています。
今回のCOP22で、WMO=世界気象機関は、ことしは観測史上、最も暑い年になり、世界の平均気温は産業革命前と比べて、およそ1.2度高くなる見込みだと報告しました。

この世界の平均気温について、国連のIPCC=気候変動に関する政府間パネルが、おととし発表した統合報告書は地球温暖化が進んで、今世紀末に最大で4.8度上昇した場合、中南米の一部や北アフリカなどでは、2005年までの平均に比べて降水量が20%前後、多い所では30%ほど減少すると予測しています。
また、今世紀末には干ばつの発生する可能性も世界各地で高まると指摘しています。

こうした最新の研究結果を受けて、世界の政財界のリーダーが集まるダボス会議を開く国際機関が、ことし発表した報告書では、世界経済への影響が大きいさまざまなリスクの中で、水不足を温暖化対策の失敗や、大量破壊兵器に次ぐ3番目に大きなリスクに挙げて警鐘を鳴らし、早急な対策が必要だと指摘しています。

少ない水で育つカカオ豆の栽培指導

こうした水不足に苦しむ発展途上国の人たちを支援しようという動きが、日本企業の間で広がっています。

インドネシアでは一部の地域で、近年、降水量が減る傾向にあり、米やトウモロコシの農家が水不足の被害を受けています。

さらに、インドネシアの気象庁などの予測によりますと、今世紀末に世界の平均気温が最大4.8度上昇した場合、バリ島の半分近い地域で、乾期の半年間に降る雨の量が15ミリを下回り、ところによっては現在の乾期の雨量の100分の1にまで減るという結果が出ていて、今後、水不足や干ばつの被害が深刻化すると考えられています。

こうした事態を受けて、京都市でチョコレートの製造と販売を手がけている会社、「DariK」の吉野慶一社長は、ことし8月からインドネシアに社員を常駐させ、農家に比較的少ない水でも育てられるカカオ豆の栽培を指導しています。収穫された豆は市場より2割以上高い値段で買い取り、水不足に悩む農家を支援しています。
会社にとっても、現地で社員が指導することで品質の高い豆を確保できるうえ、ばい煎する段階から店で行えることから、風味の強い上質のチョコレートを製造することができるということです。
会社が製造したチョコレートは、先月、フランスのパリで開かれた世界最大のチョコレートの見本市で受賞するなど国際的に高い評価を受けていて、吉野社長は途上国を支援することが、みずからの企業の利益につながっていると考えています。
吉野社長は「インドネシアでは農家が生活に困るほどの大きな影響を受けている。つながりの深い日本にも影響が及ぶ問題なので、こうした支援の取り組みを多くの人に知ってほしい」と話しています。

水の使用量が少ない簡易トイレを開発

水不足で危険にさらされている発展途上国の人たちの命を守ろうという動きも出ています。

先週10日、都内で住宅設備メーカーが開いたセミナーでは、途上国のトイレの課題が話し合われました。

この中で、UNICEF=国連児童基金の担当者からは、水不足や貧困などでトイレが使えない人は、世界の人口の3分の1に当たる、およそ24億人に上り、感染症による子どもの死亡など大きな被害が出ていることが報告されました。

さらに、会場ではイギリスのオックスフォード大学が設立した研究機関の調査結果で、こうした感染症による死亡や治療費など、世界全体の損害額が去年1年間で、およそ22兆円に上ると試算されたことも報告されました。
これはポルトガルやベトナムのGDPを上回り、損害が最も多いインドではGDPのおよそ5%に当たる10兆円に上るということです。

UNICEF東京事務所の木村泰政代表は「水の量が少なくなると飲み水が優先されるので、トイレや手を洗う水が優先されず、衛生環境で問題が生じてしまう」と指摘しています。

こうした状況を受けて、今回のセミナーを開いた住宅設備メーカーは3年前、途上国向けの簡易トイレを開発しました。
日本など先進国で使われている水洗トイレは便器を洗浄し、下水道まで流す水が必要で、1回につき4リットルから13リットル程度使います。

これに対し、開発された簡易トイレは地面に掘った穴の上に、プラスチック製の便器を埋め込むもので、ペットボトル1本分以下に当たる500ミリリットル以下の少ない水で流すことができます。水の重みで出口が開け閉めされて、臭いなどをさえぎり、衛生状態を保つことができるということです。この簡易トイレは、これまでにアジアやアフリカなど14か国の下水道が整備されていない地域で100万台以上販売しました。

所得の低い家庭でも買えるよう安いもので1台200円ほどで販売しているため、大きな利益は上がっていませんが、このメーカーでは多くの人口を抱える途上国を支援し、人々の命を救うことで将来巨大な市場に成長する可能性があると考えています。

住宅設備メーカー、LIXILの富田健介常務は「低所得層は世界の人口のうち40億人はいるとされており、非常に大きなビジネスチャンスでもある。道のりは大変長いが着実に歩んでいけばかなり大きな市場になることを期待している」と話しています。