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オバマ氏が最後の外遊 ポピュリズムに警鐘

2016/11/17 2:04
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 【イスタンブール=佐野彰洋】トランプ次期米大統領の動向に世界の注目が集まるなか、1月で退任するオバマ大統領が任期中最後の外遊に向かった。16日にはギリシャの首都アテネで演説し、グローバル化に伴って生じる「不公正の感覚が民主主義にとって最大の挑戦となっている」と強調。人々の不満につけ込むナショナリズムやポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭に警鐘を鳴らした。

任期中最後の外遊で訪れたギリシャで演説するオバマ米大統領(16日、アテネ)=ロイター
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任期中最後の外遊で訪れたギリシャで演説するオバマ米大統領(16日、アテネ)=ロイター

 大統領選では後継候補として支援したクリントン前国務長官が過激な発言で社会の分断をあおるトランプ氏に敗れた。オバマ政権2期8年の政治的遺産(レガシー)も危機にさらされている。失意のオバマ氏は債務問題や難民危機への対処でギリシャへの支援を表明。欧州の安全保障への米国の関与継続も明言したが、去りゆく大統領の影響力には限界が付きまとう。

 約1時間の演説でオバマ氏は「先進国では左派、右派の双方で移民を押し戻そうという動きがある」と懸念を表明した。表現の自由、法の下の平等など民主主義の基本的な価値観に立ち返り、市民が感じる疎外感を取り除く努力が不可欠との考えを示した。

 オバマ氏は15日、アテネに到着しチプラス首相と会談した。16日の演説前には世界遺産の古代遺跡、アクロポリスでひとときの観光も楽しんだ。18日にはベルリンで独英仏伊スペイン5カ国との首脳会談に臨む。その後、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席するため南米ペルーに向かう。

 激しい中傷合戦となった米大統領選では、反移民や反イスラムを公然と語るトランプ氏が予想外の勝利を収めた。移民の排斥や反欧州連合(EU)を掲げ欧州で台頭する極右政党はトランプ氏の勝利に沸き立つ。

 オバマ氏はトランプ氏について「我々は非常に異なる観点を持つが、米国の民主主義は個人よりも大きい」と指摘。トランプ氏が独断を強めた場合、議会や司法、世論の抑制が働くとの認識をにじませた。

 オバマ氏は15日の記者会見でも「露骨なナショナリズムや民族主義に対抗しなければならない」と発言した。民主主義発祥の地であるアテネ訪問に、寛容の精神を取り戻し、トランプ氏に代表されるポピュリズムにくみすべきではないとのメッセージを込めた。同時にギリシャの隣国トルコで反政府勢力の大規模弾圧にまい進するエルドアン大統領に自制を促したとの見方もある。

 ギリシャは2015年に80万人以上が到着するなど難民危機の最前線となってきた。オバマ氏は「並外れた哀れみ」を示したと称賛した。EUからの金融支援と引き換えに緊縮財政に取り組むギリシャの債務負担軽減策を巡ってはドイツなどの債権国に軽減に応じるよう働き掛ける考えも示した。

 「同盟国を守る条約上の義務を含め、米国の北大西洋条約機構(NATO)への責任は継続していく」。任期中オバマ氏はウクライナのクリミア半島を併合するなど軍事的な脅威を増すロシアへの対応に苦慮してきた。トランプ氏はNATOへの米国の関与低下に言及する一方、ロシアのプーチン大統領との協力関係構築に意欲を示す。ロシアの圧力にさらされるバルト3国やポーランドなどでは動揺が広がる。

 ギリシャには地中海の要衝クレタ島に米軍が駐留する。これに対し、プーチン氏は天然ガス輸出など経済協力を通じて接近を図っている。狙いはウクライナ問題を巡る経済制裁の切り崩しだ。オバマ氏は米ロの影響力がせめぎ合うギリシャとEUの盟主ドイツを歴訪することで、対ロ封じ込め策の継続を確実にしたい意向だ。

 ただし、一連の外交努力がどの程度実を結ぶかは不透明だ。気候変動への取り組みやイランとの核合意など主要なレガシーはトランプ氏によって覆されかねず、退任目前のオバマ氏の言葉にメルケル独首相らがどれだけ真剣に耳を傾けるかも読めないからだ。

 ギリシャ国内も歓迎一色だったわけではない。15日夜、アテネでは中東政策などを理由にオバマ氏の訪問に抗議するデモ隊の一部が暴徒化した。火炎瓶や催涙弾が飛び交い、警官隊との間で激しい衝突に発展した。

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