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2016年11月17日

[] さくらんぼ計算,加数分解,Fuson (1992)

「いまの算数教育はおかしいのでは?」の代表を,「かけ算の順序」と表すとしまして,他によく(ネット上で)批判されているものに「さくらんぼ計算」があります*1

これまで,さくらんぼ計算は,「10をつくる」に置き換えた上で,国内で言えば昭和はじめの指導書や,また英語で書かれた算数教育の解説でも方略の1つとして,関連する事例を見てきていました.「なぜこんな手間のかかる指導をするのか?」「上の学年にあがってもこの計算をするのか」といった疑問に対しても,答えを得ることができました*2

なお,「方略」は,算数教育でよく見かける用語です.「求め方」と言ってもいいかもしれません.英語ではstrategyですが,1つの対象に対して方略は一般に複数あることから,strategiesがよく使われます.

といったところで本題です.「さくらんぼ計算」という手続きが,学術的にどのように位置づけられているかについて,調査してきたわけではないのですがひょんなことから,1つの文献をみつけました.

具体的にはこの文献のp.21に,「...10の構成を意識した計算方法(計算を考えるための表記の仕方より「さくらんぼ計算」と呼ばれることが多い,以下この通称を用いる)については知っているが...」と書いてあり,その後はたびたび「さくらんぼ計算」が出現します.

そうして,「10の構成を意識した計算方法の理解」を課題の1つに挙げ,指導へと進めています.対象児童について,指導前の段階では8+7のような場合には「8,9,10,...,15」と数える方略をとっており,そこに「FusonのL2,L3」というカッコ書きがあります.

Fusonのナニナニについては,p.20にありました.

f:id:takehikom:20161117051602j:image

この元ネタが,気になってきました.参考文献には「Fuson,K.C. (1992)『Research on learning and teaching addition and subtraction of whole numbers』pp.81-97」とあり,検索してほどなく,Web上で読めることを知りました.

本の第2章です.ただしFirefoxで読み進めていくと,「98〜455ページはこのプレビューに表示されません。」と表示されました*3.この本の別の章を,以前に取り上げたことがあるのですが(I×E,S×E),いま見てみると,「閲覧できないページにアクセスしているか、この書籍の閲覧制限を超えています。」と返ってきます.

「10の補数関係,もしくは既知の計算を活用した方略」を含む図は,http://books.google.co.jp/books?id=Vyl42R9JV1oC&pg=PA89より見ることができました.該当箇所は以下のとおりです.

f:id:takehikom:20161117051601j:image

切り出した4つの要素のうち,左下の「forward up-over-ten」について,描き方は異なりますが,やっているのは「さくらんぼ計算」と同じです.そして「L IV」はレベル4のことで,1位数(9まで)のたし算の方略の中で最高レベルに位置づけられています.

本文を見ていくと,p.95に「Level IV: Triad Number and Recomposible Triads」という小見出しがあります.ここでtriadは3つ組を意味し,「8+5」を計算する際に「8と2と3」に分けることと対応します.直後の段落の途中,"The availability of triad numbers as conceptual units enables children to use new methods of addition and subtraction and to be quite flexible in their problem solving."は,この方略を肯定的評価したものと考えられ,「さくらんぼ計算」のネット上の批判と好対照をなしています.

湯澤らの文献に立ち返ると,L2やL3のレベルのままでは良くない,L4のレベルまで引き上げよう,指導していこうという流れを,見て取ることもできます.


「ひょんなこと」のネタばらしをしておきます.湯澤らの文献を知ったのは,当ブログアクセスログリファラに,以下のURLがあったからでした.

教育批判方略の発達モデル

思うことあって記事を分けます.「加法方略の発達モデルのLevel」になぞらえて,「かけ算の順序」でも「さくらんぼ計算」でも「正方形は長方形」でも,他でもいいのですが,「教育批判」について,そのやり方の発達モデルを考えてみました.

Level 1. (ネットを通じて見かけた)指導法や出題・解答などに対し,比較的短い字数でケチをつける.

Level 2. 批判対象の指導法のURLや画像を添えて,ケチをつける.

Level 3. (ぼくのかんがえたさいきょうの)指導法や認知モデルを,文章や自作の図により提案する.

Level 4. 自らの提案を先行事例と関連付けて,批判対象の指導法を評価する.

と,並べてみたものの,自分の書いた中で,Level 4まで行き着いたというのは,思い浮かびません.Level 3も,ないですかね.自分で図をつくっても,それが「ぼくのかんがえた〜」ではないわけですし.

Level 1の事例としては,https://twitter.com/takehikom/status/792500317732474881でしょうか.その日のうちに,お詫びの案内とともに,出題が差し替えられていました*4

*1:以前は「正方形は長方形でない」も盛り上がったかと思います.まとめをhttp://d.hatena.ne.jp/takehikom/20141127/1417036309よりご覧ください.

*2:答えを手短に書くと,前者は,単に和が求められれば良いというのではなく,筋道を立てて計算の仕方を説明できることが要請されているからであり,後者は,7+4はさくらんぼ計算の適用対象だけれど6+4は対象外であり,1年のたし算・ひき算を学習したのち,2年の筆算で,ともに繰り上がりのあるたし算として統合される,といったところです.http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20161015/1476536177で整理しました.

*3:不思議なことにChromeだと「91〜455ページはこのプレビューに表示されません。」となります.

*4:「つめつめロード」の詰将棋問題で,相きかずでも合駒ができたら手数に数えられる件に限って言うと,従来の詰将棋からのちょっとしたルール変更(ローカルルール)として,面白いことしてるなあとも思っているのですが.