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　歴史は特定の物事について腹立たしいほど曖昧になることがある。だが不幸の手紙の歴史に関しては、最初の差出人がキリストであった可能性はかなり濃厚だという。

　数百年前、にわかには信じがたい逸話が流布した。キリストが復活し、昇天してから55年後、彼は人間の責任について知恵を授ける手紙を書くことにした。

　手紙は地上へ届けられ、岩の下に隠された。これをもっとも熱心な少年が発見し、写し取られて回覧された。手紙にはいずれも奇妙な警告が記載されていた。

　この手紙を写す者には祝福あれ。写さざる者には呪いあれ

　これは人の注意を引く上で悪い方法ではなかった。

　手紙の写しは1700年代中頃でも残っており、人間が不幸の手紙に対して本能的な好奇心と信じやすさを有していることを証明していた。それから数十年のうちに無数の人々が手紙を受け取り、施し、幸運、宗教的な啓蒙を約束する手紙を新たに差し出した。

　手紙を出さない場合の代償は？ よくあるのは凶運や死の到来である。



19世紀、教会の資金集めに利用される

　1888年、メソジスト派のある尼僧宣教師グループは深刻な経済危機に陥っていた。施設の増築によって16,000ドルという負債を負ったのだ。尼僧の長、ルーシー・ライダー・マイヤーは支援を祈りながらも、自らが行動しなければならないことを承知していた。

　すべての希望が絶たれたかのように思えたちょうどそのとき、苦境を耳にしたある女性が一計を案じた。不幸の手紙を利用して集金しようというのだ。

　マイヤーはこの計画を真剣に検討すると、手紙を受け取ったものは10セント硬貨を寄付し、同じ手紙（手紙を受け取ったものは教会に10セント寄付する）を3人に送るよう記載した手紙の下書きを書いた。

　マイヤーは1,500通を一気に仕上げ、待った。返信が怒涛のごとく郵送されてきた。結果、6,000ドルの集金に成功。返信した者の中には10セント以上送ってきた者も多く、またグループに入会する契機と受け止めた者もいた。こうして不幸の手紙は成功を納めた。

　だがもちろん、中には何度も標的にされたと苦情の手紙を寄越す者もいた。その一通にはこうある。

率直に申し上げますと、私はこの計画に憤慨しております。私は非常に忙しい日々を送っているわけですが、同じような助力を請われたのはこれで三度目でございます

　もっとはっきり断りを入れた者もいる。

ピンときました。あなたはとっくに修道院を改築するお金をたっぷりと稼いだことでしょう。ですから、妾にはビタ一文たりとも寄付するつもりがありません

　
　宣教師グループはこの不幸の手紙を”巡回寄付箱”と呼んでいたのだが、同じような手口はすぐに流行するようになった。

米西戦争の兵士への寄付に利用される

　1898年、ニューヨークワールド紙などの新聞は、米西戦争の兵士への寄付の申し込み用紙を掲載。これはキューバに駐在する兵士に氷を送ろうと考えた17歳の赤十字ボランティアが考案したものだった。彼女のニューヨーク、バビロンの郵便局には数千通もの手紙が殺到し、母親が手紙をもう送らないよう懇願する広告を掲載しなければならないほどだった。

　かつてはいずれも大義のために金銭的支援を募るものだった。だが、それも長くは続かず、やがてより利己的な、人から金を騙しとろうという企ても登場し始める。

世界恐慌期、不幸の手紙は私欲的なものへ ”センド・ア・ダイム"

　1935年、世界大恐慌がたけなわだった頃、デンバーは”センド・ア・ダイム”という悪名高き不幸の手紙キャンペーンの震源地となる。

　この手紙には6人の氏名が記載されている。受取人は一番上に記載されている人物に10セントを送り、その名前を消す。それから名簿の一番下に自分の名前を記載した上で、残りの5人に手紙を発送するという仕組みだ。上手くすれば、いずれは自分にも大金を手にする順番が巡ってくるかもしれない。

　苦境にあった人はこの希望にすがるようになり、名簿に記入する権利を販売する不幸の手紙ブローカーまでが登場する。だがブローカーが数千ドルを稼いだ一方、手紙の差出人は一銭も手にできなかった。西部組合はこの詐欺に加担したとして2,700万ドルの損害賠償を求められた。

　こうした募金の手紙はやがて廃れたが、不幸の手紙自体は決してなくならなかった。

ネズミ講の様相を呈してきた”サークル・オブ・ゴールド”

　1978年、ハーバード大学の学生は”サークル・オブ・ゴールド”という仕組みに熱狂し、やがて国中を席巻することになる。これはまず1通の手紙を100ドルで購入する。手紙の販売者は50ドルを手にし、残りの50ドルは同封の名簿の一番上に記載されている人物に送られる。購入者は一番上の名前を消して、2通以上の手紙を販売する。これは不幸の手紙とネズミ講の興味深い結婚である。

　不幸の手紙の定石は、指示に従わなかった場合には不幸が訪れると示唆して、受取人の信心に付け込むことだ。場合によっては、実行しなければ何も現状は変わらない、と助言じみたメッセージが記載されることもある。

　また過去の受取人の名前を具体的に明かして、大金を手にしただの、バスに轢かれただのと手紙にまつわる結末を例示することもある。受取人が乗ってくるように適切なメッセージを記載することが肝要となる。



不幸の手紙はEメールへ”アンダーパンツ・エクスチェンジ”

　1990年代、不幸の手紙はEメールに変わった。そうしたものに”アンダーパンツ・エクスチェンジ（下着交換）”というものがある。それは次のような内容だ。

次のリストの人物に可愛い下着を送って、6人にこれと同じメールを送信してください……7日以内に送信しない場合は私までご連絡ください。すでに参加した人に不公平ですので……あなたは可愛い下着を36枚受け取れます！

　最初の人間がどんな欲求に駆られていたのかは知る由もないが、下着交換は大流行りしたようで、ボルティモアサン紙は毎週下着が郵送されてきた参加者を数人紹介していた。

そして今も現役バリバリな不幸の手紙

　不幸の手紙は現在でも健在である。主な形態としては、SNS上でリストに記載された人物への募金やギフトを求めるスレッドが挙げられる。そうしたスレッドはいずれ自分の番がくるかもしれないという甘い期待をエサにする。

　下着の大量輸送は別にして、そうしたもののほとんどが詐欺だ。デンバーで流行した”センド・ア・ダイム”が下火になったとき、10万通以上の”死んだ”手紙が真の勝者に転送された。財務省である。これによって3,000ドルを手にしたという。

via:A Brief History of the Chain Letter/ translated hiroching / edited by parumo
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