米保護主義の新たな時代が世界経済に有害な結果をもたらすとの懸念が広がるなか、ドナルド・トランプ次期大統領の顧問らが、中国との全面貿易戦争の可能性を押し下げ始めた。
実際、一部のアナリストは、トランプ氏が米国の経済成長を押し上げることを目指す減税とインフラ整備計画に集中し、選挙戦で打ち出した貿易に関する厳しい公約は二の次になるのではないかと考えている。この見通しは8日の選挙以来、市場を沸かせてきた。
ニューヨークの投資家でトランプ氏のアドバイザーを務めるウィルバー・ロス氏は先週、「貿易戦争は起きない」と語った。
ロス氏に言わせると、中国からの輸入品に45%の関税を課すというトランプ氏の選挙中の脅し――エコノミストらが中国との貿易戦争の潜在的な引き金として飛びついた材料――は誤解されており、交渉戦術にすぎないという。
そのような数字は、中国の通貨・人民元が45%過小評価されているという見方に依存するとロス氏は言う。国際通貨基金(IMF)は、人民元は公正に評価されていると述べており、米政府高官らは、中国政府による最近の為替市場介入はいずれも市場主導の元安のペースを落とすよう設計されたもので、ほぼ間違いなく米国の利益にかなうと指摘する。
■対米投資評価を厳格化する可能性
全面的な貿易戦争は疑わしいものの、トランプ政権が中国に寛大になる方針を意味するわけではない。トランプ氏は、政権発足から最初の100日以内に中国を為替操作国と認定するよう財務長官に指示することを約束した。退任が近いバラク・オバマ大統領は中国を挑発することを恐れて(このような指示を)避けてきた。
為替操作国の認定は、おおむね象徴的意味合いが強く、貿易に直接的な影響はほとんどもたらさないが、コーネル大学教授でかつてIMFの中国部門を率いたエスワー・プラサド氏は「ほぼ確実に中国からの攻撃的な反応を招き、2カ国間の緊張を急激にエスカレートさせるだろう」と言う。
トランプ氏は、外国からの投資の規則と、国家安全保障に重点を置いた対米外国投資委員会(CFIUS)の評価プロセスを厳格化する可能性もある。
中国はかねて、現行制度は中国企業を差別していると訴えてきた。だが、トランプ氏は、CFIUSの権限を拡大し、差し引きの経済的恩恵の評価やその他の戦略的な検討事項を加えるよう求める米議会の要求を受け入れると見る向きもある。そうなったら、中国の対米投資がさらに阻止されるかもしれない。だが、そのような対策は、米国に有利な方向へ傾いていた経済関係を一部、直撃することになる。
調査会社ロディアム・グループの新たな調査研究によると、1990年から2015年にかけて、米国の対中直接投資は累計2280億ドルに達した。これに相当する中国の対米投資は640億ドルだった。