
写真のように見えるが、実際には点の集合。そして、1つ1つの点が位置データを持っている(後半で紹介)。画像提供:首都高速道路株式会社
終電に乗り遅れ、捕まえたタクシーで首都高(正式名称:首都高速道路)を飛ばして帰宅する。羽田空港に向かう途中で電車が止まり、慌ててタクシーに飛び乗り、首都高を使ってぎりぎりセーフ。そんな経験をもつビジネスパーソンもいるだろう。都内をスムーズに移動するためには、首都高は不可欠なインフラである。
そんな首都高は近年、老朽化がささやかれている。そして、そのメンテナンスには、最先端のテクノロジーが駆使されているとのウワサを耳にした。都民の足の安全は、一体どのように維持されているのだろうか。
そこで、首都高速株式会社に取材を申し入れたところ、快諾。首都高にまつわる気になるあれこれを質問しつつ、都民のライフラインを守るテクノロジーに迫った。

取材のお相手は首都高株式会社 保全・交通部 点検・補修推進室 点検推進課 課長の高野正克さん
首都高に「隠れパーキングエリア」
――実は、首都高の中の人にお会いしたら、ずっと聞いてみたいことがあったんです。
何でしょうか。
――私は以前、○○(※編注 伏せ字。理由は後述)に住んでいたのですが、徒歩通勤の帰宅途中に首都高沿いの道路を歩きながら夜空を見上げたところ、おかしなことに気づきまして。首都高と道路沿いのビルが架橋されているというか、空中歩道みたいにつながっている部分があるんですよ。あれ、一体何なのでしょうか?
首都高とビルがつながっているところは、あるにはあります。例えば、箱崎のパーキングエリア(PA)はその1つです。これは首都高に接続する建物内にPAが存在し、中には自動販売機とトイレがあります。
画像出典:箱崎PA(2006年8月撮影) Filler – Wikimedia Commons
画像出典:首都高速道路サービス株式会社
――こんなスポットがあるなんて……知りませんでした。
そうだろうと思います。というのも、箱崎PAの駐車可能台数は普通車が13台、大型車が2台、障がい者用の車が1台と小規模のPAとなっています。ちなみに、場所は箱崎ロータリーの内部です。
画像出典:箱崎PA内にある案内図 Filler – Wikimedia Commons
このようにビルと首都高がつながっている場所は、他にも木場や六本木などにもあります。また、厳密には首都高そのものとつながっているわけではないのですが、首都高に付属する施設とビルがつながっている場所もあり、○○(地名)もその1つかと思います。残念ながら、その地名、およびそれ以上の情報は企業秘密なので公開はできないのですが。
――私としては、見間違いではなかったということで満足です(笑)。
それは、何よりです(笑)。
ジャンクションが複雑すぎる理由は?
――すっきりしたところで、あらためて。都内の住民のライフラインでもある首都高ですが、いつ頃に建設されたのでしょうか。
1962年の12月に1号線京橋〜芝浦間の約4.5kmが、1964年の東京オリンピック開幕までに合計約33kmが開通しました。
――やはり、東京オリンピックは首都高建設に影響を与えた?
はい、目標にはなったと言えると思います。

画像提供:首都高速道路株式会社
その後、1970年までに都心環状線と放射路線の整備が進み、営業延長はこの時点で約90km・利用台数は約33万台に上っています。1971年〜1988年には都市間高速道路との接続が行われ、営業延長は約201km・利用台数は約91万台。1989年〜2014年には、中央環状線などのネットワーク整備が行われ、営業延長は約311km・利用台数は約91万台になりました。
――なるほど、このように変遷しているのですね。路線図を眺めてあらためて「首都高のジャンクション複雑すぎ問題」があると思ったのですが……。あれ、どうしてなんですか?
おそらく「ジャンクションが複雑」だけでなく、「(道路の)線形が複雑」「ランプ(料金所)で右から降りるのか左から降りるのかが不統一」など、さまざまな要因が絡みあってご不便をおかけしている問題だと思うのですが……。
――はい、正直、トラップのようです。人を拒んでいるとしか。
いえいえ、決して拒んでいるわけでは(苦笑)。こうなった一番の理由は「都市内の道路だから」です。
旧江戸城の堀や国道の上を通る理由
――と、言いますと?
前述の通り、当初の計画では、東京オリンピックに間に合わせることも目標でした。「できるだけ早く」「なるべく安く」道路を作ろうとしたため、旧江戸城の堀の上や川の上、国道の上などを通るようになっています。東京都内の用地買収にかかる時間的・経済的コストは膨大ですから、作りやすいところから作ったわけですね。その結果、道路の線形・ジャンクションが複雑になり、ランプなどの設備もその場所の都合に合わせた形態になっています。
――都市部と郊外の高速道路とでは、やはり事情が違うということですね。
それは、そうですね。もともと大きなビルがたくさんあるところに道路を通すと考えてみると、なかなか難しいことをご理解いただけるかもしれません。
――この路線図を見ると、たしかに複雑とはいえ、よく一周できるように通したな、と思いますね。
ありがとうございます。
首都高に耐用年数はあるんですか?
――でも、もう1号線の開通から50年以上が経過しているわけですよね。当然、老朽化などの影響もあるのではないでしょうか。
はい、現状では全体の10.6%で、建設から50年が経過しています。10年後には34.7%まで増加します。
――首都高のような建造物には、耐用年数はあるのですか?
かつては具体的な年数の設定はされていなかったようですが、現在の道路橋示方書(日本における橋や高架の道路等に関する技術基準)においては、耐久性について100年を目安に設定されています。現実的には、“日々のメンテナンスをして、半永久的に使っていこう”が目標になるでしょう。
――ちなみに、老朽化が進んだ道路はどうなるのでしょうか。部分的に取り替える?
そうですね、現在も東品川の辺り、羽田1号線は大規模更新を行っています。これができるようになったのも、首都高速ネットワークが整備されてきたから。迂回路があったり、仮設道路を建設できたりするようになって、実現できるようになりました。
先ほど、ライフラインという言葉が出ましたが、まさにその通りで、大事な道路を長く止めることはできないのです。だからこそ、日々のメンテナンスで老朽化の進行を抑える必要があるのですが、道路や河川の上、あるいは地下を通っている首都高は、橋梁やトンネルなどの構造物比率が95%と、NEXCO(高速国道)の26%、都道の5%と比較しても著しく高くなっています。
――つまり、首都高はほとんどが構造物で、普通の道路があんまりない、ということですよね? メンテナンスも大変そうですが……。
はい。特に高架構造は路線全体の8割にも及び、さらにその橋桁を支える橋脚はコンクリートのものが約5800基、鋼製橋脚が約2900基もあり、このメンテナンスはとても大変です。しかも、首都高には道路以外にも、ETC機器や照明設備、情報提供板や車両感知器、そして配電盤などが約350種類、24万個もあるのです。これを1つ1つチェックしなければいけません。
また、過酷な使用状況もあります。首都高におけるトラックなどの大型車の交通量は日に約1万8000台と、東京都23区の5倍近く。NEXCOと比較しても約2倍です。
0.2mmの道路ひび割れを検知
――一体、それをどうやってメンテナンスしているのですか?
点検には日常点検と定期点検、臨時点検の3種類があって、1年で前述のすべてのポイントを点検できるように、週2〜3回から計画されています。点検の結果はAランク(要緊急対応)、Bランク(要対応)、Cランク(対応不要)、Dランク(異常なし)の4つの段階で判定され、Aランクは応急処置、Bランクは補修・補強、C・Dランクは次回また点検というように、いわゆるPDCAサイクルを回すイメージです。

日常点検の例 画像提供:首都高速道路株式会社

定期点検の例 画像提供:首都高速道路株式会社
――なるほど。点検をするのはどんな人ですか?
弊社が認定する資格を取得した関連会社の社員約700人が業務に従事しています。この資格は3年更新であり、中間年には中間審査を行うことで点検技術力のレベルを担保していますが、課題もあります。
――課題とは、どのような?
今後、現役点検技術者の高齢化や志望者の減少などにより、点検技術者が不足することが予想されていることです。
――一方で、構造物の損傷数は増加しているわけですよね。これ、非常にまずい状況なのでは?
その通りです。人材の育成は並行して取り組まなければいけませんが、これには時間がかかります。しかし、メンテナンスは「いまいま」の問題でもある。そこで弊社は、いくつかの新技術を開発し、メンテナンスのを効率化を目指しているのです。
――「新技術」ですか。ワクワクしますね!
そうですか、ありがとうございます(笑)。興味を持っていただけそうなところでは、ロボットなどもありますよ。
――ロボット!? ロボットがいるんですか?
はい、挟隘部(きょうあいぶ)点検用ロボットと言われるものです。
画像提供:首都高速道路株式会社
画像提供:首都高速道路株式会社

画像提供:首都高速道路株式会社
撮影用カメラと操作モニター用カメラ、ガイドローラーを装備したロボットで、任意の位置・角度での画像撮影が可能です。また、疲労き裂の進展状況をモニタリングするシステムもあります。

画像提供:首都高速道路株式会社
これは、き裂のある面に監視ゲージを設置しておき、き裂が進展しているかどうかをチェックするものです。例えば、このき裂は140日で約1mm進展していますが、このような微細なき裂でも検知できるのが特徴です。このモニタリングシステムは伝送装置と携帯端末、インターネット回線を利用して、遠隔監視することが可能です。
カメラ画像を元に0.2mm以上のコンクリートひび割れを検出する技術によって、従来は12%程度だった検出率は、現在約80%まで上昇しています。また、これを自動でパノラマ合成をすることで、これまで2時間もかけて手作業で合成していた工程が、たった40秒でできるようになりました。

画像提供:首都高速道路株式会社
――すごい! 最先端の技術ばかりで、この勢いだといずれAIなども利用されそうですね。
実際、AIを活用した技術も開発中ですよ。
――はい、もう驚きません。
厳密には機械学習の領域ですが、打音検査の解析技術にディープラーニングが用いられています。打音検査とは、点検員のプロの技とも言うべきもので、基本的にコンクリートの状態というのは叩いてその音で判断します。でも、感覚に頼った検査結果は、どうしてもバラつきやミスが発生しがちになる。そこで、熟練点検員の判断内容と判断結果を組み合わせ、その関係性を自動的に学習することで、打音の微妙な差異を判別するわけです。
――なるほど、プロの技に再現性を持たせるというわけですね。
その通りです。このように、弊社ではテクノロジーを駆使することにより、損傷箇所の増加と点検員の不足に備えています。
また、現在は“InfraDoctor(インフラドクター)”と呼ばれる、より高度なメンテナンスシステムを開発中です。
首都高を守る最新テクノロジー「インフラドクター」とは
――インフラドクター、ですか?
これは、GIS(地図)プラットフォームと三次元点群データを用いて、道路・構造物の維持管理業務を支援するシステムです。
――すみません、全然わかりません……。
そうですよね、すみません(苦笑)。まず、首都高全線に渡って、レーザースキャナと呼ばれる機械を搭載した車両を使って、三次元点群データを取得します。つまり、レーザーを使って空間自体をスキャンするんですね。レーザーを照射して、物体が反射したその信号から反射した点の位置を三次元座標で記録します。これが1つの点データです。
――三次元座標というのは、横(x軸)・縦(y軸)・高さ(z軸)のことですよね。
そうです。その点データを集合させたのが、こちらの画像になります。

画像提供:首都高速道路株式会社
――これは首都高の立体図ですよね? 点データはどこに……。ひょっとして、このとても細かい1つ1つの点が、その点データなのですか?
その通りです。膨大な点データを集めて、首都高とその周辺を表現しています。

画像提供:首都高速道路株式会社

画像提供:首都高速道路株式会社
それだけでなく、三次元モデルは回転したり断面を切断したりもできるんです。これさえあれば構造物の寸法や離隔など、距離の計測が容易になります。

画像提供:首都高速道路株式会社

画像提供:首都高速道路株式会社
今回はメンテナンスを中心に説明していますが、これは設計や測量、工事業務、施工計画業務にも応用できます。
――おみそれいたしました。東京近郊の住民のライフラインは、このような見えない努力により守られているのですね。
実は、そうなんです。われわれの仕事というのは減点方式というか、不安はなくて当たり前、あったら大変なんですよ。
これからもっともっと損傷箇所は増えて、それを点検する人は減ります。それでも、メンテナンスはそのような問題に対応しきらなければいけません。そのためには、やはり技術革新による効率化が必要だと思っています。われわれとしては、やはりお客様には安心して首都高をご利用いただきたいですから。
――技術を活用して社会的要請に応える、その必要性は理解していても、実践できている企業や組織は少ないかもしれません。貴重な事例のご紹介、誠にありがとうございました。
(朽木誠一郎/ノオト)

