高齢ドライバーによる死亡事故が相次いでいる。

 亡くなった方やその遺族はもちろん、人生の終幕近くで「加害者」となった側も、深い悲しみの中にいることだろう。やりきれなさがいっそう募る。

 誰もが年をとれば衰える。本人が自覚してハンドルを握るのをやめるのが一番だが、現実はなかなか難しい。家族やまわりの者が小さな異変を感じとり、事故を未然に防ぐ道を一緒に話し合うことが大切だ。

 横浜市では登校中の小学生の列に軽トラックがつっこんだ。栃木県下野市や東京都立川市では病院帰りの車が近くにいた人をはねた。いずれも運転者は80歳を超えていた。

 警察庁によると、車やバイクによる昨年の死亡事故のうち、75歳以上が運転していた割合は13%。免許保有者全体に占める割合は6%にとどまるのに、事故率が高いのが特徴だ。75歳以上の免許保有者数は、この10年間でおよそ倍に増えた。

 3年に1度の免許更新時に認知機能を検査するしくみが、来春施行の改正道路交通法で強化される。75歳以上に簡単なテストをして「認知症の恐れあり」とされたら、医師の診断を義務づける。正式に診断が下れば免許取り消しになる。更新時以外でも、信号無視などの違反があれば同様の検査を課す。

 まずはこの制度の運用を見守りたい。さらに必要があれば、免許更新の頻度を、年齢に応じて「2年に1回」「毎年」などと段階的に増やすことも考えられよう。

 ただ、事故の原因は認知症にとどまらない。視野や注意力、反射神経の衰えなどもある。また、認知症の症状はまだらに現れることがあり、更新時の検査だけで把握するのは難しい。

 時々は親や親類の運転する車に乗ってみよう。ふらふらと車線をまたいでいるぞ、車体に傷が目立つな……。そんなシグナルが見つかるかもしれない。

 運転をやめるように家族が求め、争いになる例もよく聞く。たとえば町内会などで一緒に講習会を受けるのも一案だ。医師や看護師、警察官など専門家の助言も早めに受けるようにしたい。身内に言われるとしゃくに障るが、他人の言葉には耳を傾けるという人も少なくない。

 社会全体の支えも必要だ。

 公共交通機関の乏しい地方では、車がなければ生活がなりたたない。自動運転カーの実用化にはしばらく時間がかかりそうだ。予約制乗り合いバスや割引タクシーの充実などの施策を、さらに進める必要がある。