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2016シーズンは、名古屋、湘南、福岡の3チームが降格することに決まった。過去、Jリーグのクラブで降格を経験したクラブは数多ある。クラブの降格を番記者たちはどのような想いで見ていたのか。豪華ライター陣による短期オムニバス連載で、J2に降格した時に大事なことを彼らの視点で語ってもらう。

どいつもこいつもダメなヤツに見えた。

社長も監督も選手も、スタジアムを警備するガードマンでさえも。落ち着き払った態度は何も考えていないように感じられ、他者への思いやりは妥協に、リスクを背負ったチャレンジは蛮勇に、物事を慎重に見極めようとする賢明さは臆病風に吹かれたように映った。

東京ヴェルディは、2005年、2008年と二度のJ2降格を経験している。今季危うく三度目の、それもさらに下のJ3降格の危機に陥ったが、チームが奮闘した甲斐あって回避できた。心底、ほっとしている。一歩間違えば、日本版ノッティンガム・フォレストと揶揄されまくるところだった。

印象に濃いのは、やはり2005年の最初の降格だ。前年、天皇杯で優勝し、開幕前のゼロックス・スーパーカップも制した。立て続けにふたつのタイトルを獲得し、そのシーズンは優勝争いのダークホースに挙げられたほどだった。

ところが、である。ふたを開けてみれば、バカスカ点を取られ続け、チームは空中分解。34試合73失点をマークし、17位の成績であえなくJ1から転げ落ちた。頂点を目指したはずのシーズンが、一転してJ2降格。この落差はえぐい。期待感が大きかっただけに、ショックも倍増だった。

敗因のひとつにチーム内の断絶があった。実績のあるベテラン組と、血気盛んな若手組の間に生じた考えの相違。数年後、当時若手のひとりだった玉乃淳(現在は解説者)は、こんな話を私に聞かせてくれた。

「僕らが先輩の悪いところばかりを見すぎましたね。自分たちの姿勢、考えが正しいと思い込み、相手の深いところまで想像が及ばなかった。あとになって一緒に振り返る機会があり、そういうつもりだったのかと気づかされたことがいくつもあります。互いの良さを出し合い、欠点をカバーするように持っていけば、落ちるようなチームではなかった」

相手の至らぬ部分ばかりが目についたのは、きっとお互いさまだろう。本来、美点と欠点は捉え方やきっかけひとつで反転するのに、双方が冷めた視線を向けて歩み寄る努力を怠った結果、バーベキュー大会を開く頃には埋めようのない溝となっていた。

降格するクラブに、悪はある。腐ってもいる。だが、それは程度の差こそあれ、どの組織にも内在するものだ。降格の闇に包まれると、悪や腐敗がやたらとスケールアップして見える。取るに足らない小狡いヤツが存在感を主張し、無視できなくなる。これぞ降格マジック。

抜本的なチーム改造に乗り出し、散り散りになった選手たちのその後はどうか。これが驚くほど活躍してくれる。違う色のシャツをなびかせ、水を得た魚のごとく躍動感あふれるプレーを見せつける。来年、名古屋グランパスのサポーター諸君は、私が見てきたものをなぞり、目を剥くことになるはずだ。

どうにもパフォーマンスが冴えないと思われた選手も、環境次第で化ける。周囲が信認し、責任を与えることで、眠っていた能力が開発されることがある。そもそも何かしら光るものを持たなければ、プロまで到達できない。それを見定める眼力を持たない強化部は、賢く損切りしたつもりで、みすみす有望株を手放すことになる。嫌味なほど急騰する株価を、指をくわえて見ているしかない。

再起を期すクラブがV字回復を描くために、端緒をつけるのは現場の仕事だ。どれほど営業スタッフが粉骨砕身の働きでカネを集め、サポーターが草の根運動を広げても、肝心のチームに元気がなければ勢いは生まれない。この最も困難な初動の部分は、無理を押しても現場が引っ張っていくしかない。そうしてクラブという大八車の車輪が回りだせば、やがて関係各所の努力が日の目を見ることになる。

降格という憂き目に遭い、失意の底で暗い眼をしているあなたはかつての私だ。ところで、おまえはどうなんだ――。その声がうっすら聞こえているのに、気づかないふりをしている。自分だけは潔白で、正しさを証明する存在に思える。これこそが降格したクラブに巣食う最大の病理だ。

文=海江田哲朗(フリーライター)

■オムニバス連載【J2降格時に大事なこと】掲載スケジュール

11月14日(月)広島編「降格の責任を背負う経営者の決断
11月15日(火)東京V編「クラブに巣食う病理の正体
11月16日(水)千葉編「無免許医が出す処方箋」
11月17日(木)柏編「北嶋秀朗『チャンスは一年しかない』」
11月18日(金)浦和編「“世界一悲しいゴール”のその後」
11月19日(土)G大阪編「腐った土壌に種を撒いても無駄骨」

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