米大統領選でのトランプ氏勝利は、内戦下のシリアで意外な人物から祝福された。
「イスラム教スンニ派の勝利に向けた一歩だ」。米国のイスラム武装組織監視団体SITEによると、国際テロ組織アルカイダ系組織の有力指導者アブドラ・ムハイシ師は10日、トランプ氏の「排他意識とむき出しの敵意」がイスラム過激派を利すると述べた。反米感情が高まり、資金集めや戦闘員勧誘が容易になるとの見方だ。過激派組織「イスラム国」(IS)の支持者の一部もインターネット上で同様の見解を示している。
イスラム過激派は従来、米国との対立を「異教徒との戦い」とあおることで、支持拡大につなげてきた。アフガニスタンやイラクで戦争を始めたブッシュ前大統領は、イスラム世界で不人気で、過激派には格好の相手だった。だが、中東への関与を薄めたオバマ大統領の登場で反米感情は抑制的になった。
対IS戦に関しては、イラク北部モスルとシリア北部ラッカという2大拠点の攻略作戦が既に始まっており、トランプ政権も当面は「ISの領域支配打破」という現行路線を引き継ぐとみられる。しかし、トランプ氏がイスラム教の反発を呼ぶ言動を続ければ、中長期的に過激派のシンパが増え、結果的にテロを抑え込めなくなる恐れもある。
またシリアでは、トランプ氏がロシアとの協調に転じ、露が支援するシリアのアサド政権存続を容認する可能性が指摘される。政権から公式な反応はないが、内部では「トランプ大統領」を歓迎する声が出ている。反体制派幹部のサミル・ナシャル氏は「選挙戦での発言を見ると、反体制派にはマイナスだ」と話している。【カイロで秋山信一】