最近のニュースでは毎日のように高齢者による交通事事故の話が出てきます。それらの多くは「高齢者の事故は急増している」「中には認知症を患っている人もいる」「高齢者の免許返納を増やさなくてはいけない」といった論調です。ですが、これは本当なんでしょうか?
と云うことで元データをあたってみました。
参照したのは警察庁交通局による統計データ

http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001150496
「平成27年における交通事故の発生状況」

です。なお、以下の文では有効桁数はだいたい二桁、それ以降は切り捨てとしています。

まずは高齢者の事故は、増えているのか?をみるために「原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別交通事故件数の推移」というデータを見てみます。

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グラフがなくて申し訳ないのですが、一番下の再掲を見ると、16才〜24才についてはH17が15.6万人だったのに対して、H27では7.3万人と半分以下の数字です。一方65才以上ではH17が9.8万人に対して、H27では10万人と微増しています。特に85才以上についてはH17が1800人に対して、H27は4200人と大きく増えています。
これを見ると高齢者の事故が増えているというのは間違いないようです。

では、高齢者は若い人よりも事故を起こしやすいのでしょうか?

これを見るために「原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別免許保有者10万人当たり交通事故件数の推移」というシート、つまり、事故を起こした件数を免許を持っている人の数で割ったものを見てみます。

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いくつかグラフを作ってみました。まずは直近のH27年における年齢別の事故数です。

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これを見ると事故を起こしている数は10代が圧倒的、ついで20代です。それ以降は年齢を経るとともに減っていきますが、70以降はなだらかに増えていきます。それでも、20代よりは少ない数です。

これらの年代の時間推移を見てみます。

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横軸がおかしいですが、H17からh27です。これを見ると、高齢者の事故数も着実に減っていることがわかります。

最後にすべてのデータをグラフに

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ごちゃごちゃしていて見辛いですが傾向はつかめます。

・一番事故を起こすのは10代、ついで20代。以降はなだらかに減っていくが、70以降は増える。それでも20代よりは少ない。
・いずれの年代も徐々に事故は減ってきている。

です。と言うことで

・若年層が起こす事故が減っているのに対して、高齢者が起こす事故は増えている。特に80代以降は激増。
・それは免許の保有者が高齢化し、人数が増えているからであって、特に高齢者が事故を起こしやすいわけでも、より起こしやすくなっているわけではない。

ということがわかります。

念のため書いておきますが、事故により人がなくなるのはたいへん悲しいことです。それが子供であったりすると本当に悲惨ですし、心が痛みます。ただ、何かしらの対策を取る上ではしっかりとした事実の確認が必要です。はじめに書いたように高齢者は免許を返納すべきと言うのも本当に正しいのか?交通事故自体は減るでしょうが、それによりQOLが下がる、生きがいがなくなる、通院やいざというときの病院搬送ができなくなるといった要因でなくなる人が増える可能性すらありえます。場合によっては許容しなくてはいけないリスクなのかもしれません。

そもそもこれらの対策をしたとして、その効果はどうなのか?現在年間の交通事故による死者数は4100人ほどです。高齢者が起こした事故による死者数は直接はわかりませんが、前のデータによると70代以降が起こす事故の総数は全体の13%程度ですので、単純に推計すると520人くらいです。これを100人減らすためにいくら使うのか、それともまだ年間2万人いる自殺者を減らすのが先なのか、子供を増やすための施策が先なのかなど、どうか冷静な議論を望みたいところです。