米大統領選で驚くべき勝利を収めたことで、ドナルド・トランプ氏のメディアへの敵対心が和らぐことが期待されたが、先週末にそうした兆しはほとんどみられなかった。同氏はツイッターで米ニューヨーク・タイムズ紙を「私について悪質な報道をした」と非難したのだ。
トランプ氏は選挙戦のさまざまな場面で、メディアを「くず」「違法者」「おぞましい人々」などと呼んだ。同氏は集まった群衆に記者団をやじるよう働きかけ、報道機関は同氏の選出を妨げる「世界的な陰謀」に加担していると責め立てたうえ、ジャーナリストを提訴しやすくしたいと語った。
■「味方を失った」
トランプ氏を激怒させた報道機関は、1月20日の大統領就任式の後、世界最大の権力を持つ同氏に狙われるのを危惧するようになるだろう。非営利団体「ジャーナリスト保護委員会」のジョエル・サイモン事務局長は「トランプ氏は名誉毀損法の厳格化を明言した」と話す。この脅威により「不安」が生じていると同氏は言う。
サイモン氏は、トランプ氏が2015年のMSNBCのインタビューでコメントしたことを懸念している。ロシアで起きたジャーナリスト殺害について「我が国も多くの殺人を犯している」と発言し、当初は非難を拒んだのだ。サイモン氏は、トランプ氏が就任後に報道の自由を堂々と宣言しないなら、心配な旅立ちになると述べた。
同氏は「米国はメディアへの迫害に声を上げることに関して、これまで完璧だったわけではない。オバマ大統領は同盟国がメディアを迫害した際に常に敏感に反応してきたわけではなかった」としたうえで、「だが、オバマ氏はエジプトやエチオピアに関しては、メディアへの迫害を非難しており、その影響は大きい。トランプ氏が同じ行動を取るとは思えない。ジャーナリストにとっては非常に大きな損失だ。味方を失ったのだ」と述べた。
米国の報道機関は、言論と表現の自由を定めた「合衆国憲法修正第1条」により守られている。トランプ氏がその効力を弱めようとしているのか、また、同氏にその力があるかどうかについては意見が分かれる。選挙運動中にトランプ氏は、もし新聞に「攻撃的な(世論を自分に不利な方向に導く)記事を書かれたら、その新聞社を訴えて賠償金を取れるように」法律を改正したいと語った。また、「誤った報道を実際に訴えることが可能な」英国の名誉毀損法を称賛した。