山崎 はい。銀行というのはある種の宗教団体のようでもあり、軍隊のようでもあります。住友銀行であればまず住銀行員ということにアイデンティティと誇りを持ち、さらにその中で自分がどういう立場にあるかが彼らにとってなにより価値を持つ。当時の住銀の場合は特に、実力会長である磯田さんが人事権を握っているので、彼にいかに認めてもらうかが行員たちのすべての行動指針になってしまう。
佐高 山崎さんのおっしゃる通りで、彼らは住銀につかえていたわけじゃなくて、磯田につかえていたようなものです。当時の副頭取だった西貞三郎氏にしても同じで、河村社長と似たような「汚れ役」を引き受けることでみずからの存在証明をしていた。
磯田に対して「ほかのやつらの言うことは間違っているから聞くな」と必死になったのも、自分のバンカーとしての生き残りをかけていたからでしょう。結果として、そうした情報が磯田を惑わせ、間違った方向へと突き進ませるのが皮肉なわけですが。
山崎 正直、自分としてはあまりそこで働きたくないなと思いますね……。
まず入行した時点で何年入行、何大学卒という識別番号が付き一生ついて回る。さらに、人事異動や昇進などで最初から最後まで序列が付き、行員たちが互いにそれを意識し合う。そうして、いま自分はどういうポジションにあるかということばかりを意識して働く。人事というものがあまりに重すぎて、情けないほどに人事にだけ合理的なサラリーマン人生を強いられる。
佐高 そういう意味では興味深いエピソードがあって、ラストバンカーと呼ばれた西川善文さんの1年後輩、'62年入行に島村大心という人がいたんです。彼は住銀内の出世コースに乗ったエリートで取締役にも就くのですが、イトマン事件の決着がついた'91年に突然退職すると、高野山に入って、出家してしまう。
山崎 世を棄てちゃうんですか?
佐高 そう、東大法学部を出て、取締役法人本部長まで到達したような人が急に世を棄てちゃう。
山崎 とてもいい出世コースなのに。
佐高 それが高野山に入って、便所掃除までやらされるわけですよ。その時、私は島村さんに話を聞く機会があったのですが、「出世欲にはきりがない」「社長になったらそれで満足かと言えば、そうではなくて、次に実力会長になろうとする。長くその椅子に座り、次に財界の役職を狙う」と言っていました。財界の役職を狙うのは、勲章が欲しいからですよね。
この時の島村さんと西川さんが対照的だったので、私は二人を比較した記事を書いたのですが。やはり島村さんはイトマン事件のトップや役員の生々しい姿を見て、心底この銀行が嫌になったんだと思います。
権力の源泉は人事
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