突然ですが「修行したいな~」と思ったことはありますか?
大学生は「勉強」に「サークル活動」と多忙。さらに3年生になると就活が始まり、目まぐるしい日々を過ごします。そこで、ふと「あれ、私ってこのままでいいのかな?」と考え込んでしまう時も。実は私もその一人。例に漏れず、漠然とした焦りに襲われていました......。
そんな時期、ある友人がこう言ったのです。
「滝に打たれたら身も心も清らかになってなにか変われるんじゃない?」
私は滝......ではなく、雷に打たれたようにハッとしました。これしかない!提案した友人すらたじろぐ勢いで食いつきました。
「そうだ。滝に打たれよう」
こうして、私と友人の女子大生2人で「半日滝修行」をすることになりました!
修行者紹介
「お百度参り」で"修行ハイ"
東京都西多摩郡の天光寺(てんこうじ)さんに来ました。JR武蔵五日市駅からさらにバスで30分ほど、都心からはおよそ2時間弱と、日帰りで行ける距離です。予約は公式ホームページで完了できる手軽さも魅力的。
「半日滝修行」は主にお百度参りと滝行の2本立てです。
まずは書類に必要事項を記入し、滝修行用の白装束の行衣(ぎょうい)に着替えます。男性は直接行衣を着るように推奨されていますが、女性は透けてしまうため色の濃いTシャツ、スパッツの着用が許可されており安心です。
「本格的に修行っぽい!」とはしゃぐ私たち。でも、「体験」と言えどもここは神聖な場。気を引き締め、真剣に修行に臨みます。
天光寺は弘法大使(空海)の開いた真言宗であり、三礼(さんらい)を特徴としています。
まず、お坊さんから基本の指導を受けます。「オン サラバ タタギャタ ハンナマンナノウ キャロミ」と真言を唱えながら、立ち上がり、手を伸ばし、座り、頭を下げます。
最後のポーズがいわゆる「五体投地」であり、最高の敬意を表すものです。これを3回繰り返します。
インドア派女子大生の2人はここですでに足が痺れはじめました。ですが、これも修行のため。泣き言は許されません。
指導を受けたあとは外に出て、お百度参りを行います。お百度参りは、弘法太師像と「お百度参り」と書かれた立札の間を走って百往復します。弘法太師像と立札の前では、一礼したあと、手を合わせ「南無太師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)」と三回唱えます。
本来は裸足で行うものですが、固いコンクリートの上を走るので、足裏が怪我をしないようにと靴下の貸し出しがあります。
先述のとおり、今回チャレンジしているのはインドア派の2人。2人とも滅多に運動しないので、「この修行を乗り切れるのか?」と不安もありましたが......。
走る。
とにかく走る。
なんとかお百度参りを達成しました! 2人とも、完全に息が上がってしまいました。
途中「何度もリタイアしたい......」と思いましたが、そのたびに「いま私は修行しているのだ!」と言い聞かせると、不思議と最後まで走りきることができました。
これぞ、「修行・ハイ」。 これも体験しないと思います。
「これが......修行!!」あまりの激しさに絶叫!
お百度参りを終え、次はついに滝行。山のふもとまで車で送迎をしてくれますが、そこから滝までなかなかに険しい山道を進みます。
まさに道なき道。途中、川を渡りますが、10月ともなると水温が下がっており、叫びだしてしまいそうな冷たさ! 「この後、この冷たさの滝に打たれるのか......」と不安が募ります。
足を滑らせそうになりながらも、なんとか滝に到着!
ド迫力です。落差はおよそ8メートルほど。まわりの空気は一気にひんやりとして、落ちてくる水が岩を打ち付け、あたり一面に響きます。
お坊さんがお酒で滝を清め、お経を唱えはじめました。いよいよ緊張が最高潮に達しました。
滝に入る前に、桶ですくった水を頭からかぶります。とんでもなく冷たくて体が震えてしまいそうになりますが、目の前の滝を見るともはやそれどころではありません。
おそるおそる滝へ近づきます。
ついに滝の真下へ!
滝行はやはり「冷たいんだろうな」と想像される方が多いと思います。実際水はとても冷たいです。
私たちが体験してみてわかったのは......冷たいより、とにかく「痛い」!!
のんきな私たちは直前まで「肩こりによさそうだね」と冗談を言っていたのですが、8メートル上空から勢いよく落ちてくる水は、もはや鈍器のごとき威力。肩や頭に容赦なく降り注ぎます。
事前に、滝に打たれながら「南無太師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)」と唱えるよう指導されていましたが、滝のあまりの激しさに唱えるどころか絶叫する私たち。それも滝の勢いに負け、「南無...!!南無太師っ!!ゲホゲホ!!」といった感じで舌が回らず。
このときの私たちにできることはただ、冷たさ・痛さ・苦しさに耐えながら必死に叫ぶことだけでした。
お坊さんの指導のもと、体勢を変えその場に座り込みます。
冷たい水に下半身が完全に浸かり、まさに極寒! そして体勢が低くなったことでより強さを増す滝の勢い。肩の張り具合から、すさまじさを感じ取っていただけるでしょうか。もはや直角です。
不思議なことに、座り込んで少しすると、徐々に水に浸かった下半身が冷たさを感じなくなりました。私は、むしろ温かいようにすら感じました。
この変化は、なにか新たな境地に立つことができたからなのか、単純にあまりの冷たさに感覚がマヒしてしまっただけなのかはわかりません。ただ、私はこの瞬間、一瞬だけ滝行の苦しさがフッと抜け、心がまっさらな状態になったような気がしたのです。そして強く感じました。
「これが......修行!!」
はっと気づくとお坊さんに合唱していた腕をつかまれ、滝の下から引っ張り上げてもらっていました。
数分間頭を強く水に打たれていたので、少しフラフラとしてしまいます。
背中に「臨兵闘者皆陳列在前 」と、邪気を払うとされる九字を切ってもらいます。滝に一礼。応援してくださっていた方にも一礼。これで、滝行の完了です。
水に濡れたまま、来た道を戻ります。もちろん行きと同じ道なのですが、行きよりも爽快感にあふれ、足取りはより軽やかに進むことができました。
行きにはあまりの冷たさに飛び上がっていた川も、まったく冷たく感じませんでした。
軽い気持ちで修行した。心が震えるほどに達成感を味わえた!
冒頭で「修行したいな〜と思ったことありませんか?」を見て、「何言ってるんだ」とぎょっとした方に「滝修行を始めるのに『切実な思い』じゃなくてもいい」と伝えたいです。
私たちも「滝に打たれるとかおもしろくない?」という軽い気持ちが少しあったのが本音です。実際に体験してみると、面白いどころではありません。こんなに貴重で、神聖で、心が震える経験ははじめて。滝行を終えたあとの達成感は言い表しようのないほど充実していました。
数時間後、都心に戻った私たちは雑踏の中でこう思いました。
「すれ違う何百何千の人たちも、まさか私たちが今日お百度参りをし、滝に打たれるという修行を完遂してきただなんて思ってもみないだろうな...」
この経験は、かつて襲ってきていた漠然とした焦燥感を「私たちはチャレンジすればなんだってできるんだ!」という自信に変えてくれました。
もちろん「体験修行」ですから、本格的に悟りを開けるわけではありません。ですが、なんとなく日々を過ごしているだけでは絶対に得ることのできない、力強い「きっかけ」のようなものを与えてもらえた気がしました。
「半日滝修行」は悩める全ての人にオススメだった!
私たちの修行体験、いかがでしたでしょうか? 少しでも「修行してみたいかも!」と思った方は、ぜひ勇気を出してチャレンジしてほしいです。
天光寺さんは広いお風呂とドライヤーもしっかり完備されています。そのため、女性の方も身軽に参加することができます!
企業の新入社員研修でも利用されることがあるそうですが、やはり自分の意思で挑戦すると達成感もひとしおです。悩める学生のみなさん、滝で身を清めて未来にはばたきましょう!
臼杵山 真言宗 天光寺
〒190-0204 東京都西多摩郡檜原村小沢4040-1
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(執筆:竹内萌乃 編集:富澤友則)