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リーダーのマネジメント論

「ゴーンの法則」 人材育成阻む日本の文化 日産自動車社長 カルロス・ゴーン氏(下)

 

2016/11/15

日産自動車のカルロス・ゴーン社長

 日産自動車のカルロス・ゴーン社長が、社内外の若手幹部候補生30人と議論する「ゴーン・スクール」。日本人が苦手とする、ときに相手を傷つけかねない厳しいアドバイスは、マネジメントに求められる能力だという。「ゴーン先生」が考える、部下を成長させるための人材育成術とは――。

■「ゴーン流」人事評価とは

 ――階層組織の構成員に関する社会学の法則「ピーターの法則」では、「人間はどこかの段階で能力の壁にぶつかる」とされます。ゴーンさんに限界があるとは思えないのですが。

 「限界に達したことを自分で分かる人はいません。だからこそ、第三者的な評価、すなわち人事考課が重要なのです。そして、唯一の真実は、『パフォーマンス』は嘘をつかない、ということです。マネージャーのなかには、『相手を傷つけたくないから』もしくは、『彼女が好きだからよくいおう』という人がいます。真実をいわなかったり、甘いメッセージをいったり。しかし、それは間違っていますよ。痛みがあるから、患部を見つけられるのです」

 「マネジメントは、その当人を助けるためのものです。アルコールを飲んで痛みをごまかしても、根源的な課題がなくなったわけではありません。これでは、問題解決になりません。『我々は同じ会社の一員だから悪いところを改善してほしい』と伝えなければならないのです。問題があるのは当たり前なのです。重要なことは、彼や彼女に成功してもらうために、つまり建設的に指摘することです」

 「相手をいい気分にさせても、その人は何も学べません。傷つくけれど学んでもらい、『次回はもっと頑張ろう』と部下に思ってもらう。これこそマネジメントの神髄です。若い人がトップに行くためには、そういった自分の欠点を直視し、学ばなければ成長できませんよ」

■現状維持は許されない時代に

 「『ゴーンの法則』とでもいいましょうか。人間はずっと同じ仕事をしていれば限界に到達したり、能力がなくなったりすることがあります。古びてしまうのです。技術は日進月歩で進んでいる、スタートアップ企業も生まれ続けているのに『現状維持』というのは死を意味します。我々は常に、今の仕事に対して納得するまで走り続けなければなりません」

 「たった今、業績がよかったとしても、今のままを維持してしまったら将来的に駄目になります。常に今あるものは暫定的なものだと思わなければなりません。より志を高めなければなりません。これはマネジメントの基本です。今は変革の時代だからです。たとえ今の仕事に居続けたとしても、上を目指さなければ古びてしまいます。昇進しても、学ばなければひどいことになりますよ」

■リーダー育成を阻む「集団」

 ――ゴーンさんから見た、日本人の強みと弱みを教えてください。

 「偉大なリーダーの誕生を阻む原因となる、日本の文化があります。それは、他の文化を尊重し、他者の気分を害するのを嫌がること。そして、集団を好みます。これはなんとかしなければなりません。リーダーは、集団でやるものではないからです」

 「フランス人にも米国人にも傾向があります。日本人の他者を思いやるという文化は素晴らしいものです。しかし、リーダーには向いていません。なぜなら、他者を傷つけても成長させるのがリーダーだからです。この部分に手をつけていけば、日本人は偉大なリーダーを持つことができるでしょう。ただし、いくつかの文化的な要因を変えなければならないと思います」

■部下の意見を尊重する

 ――日産の経営再建では部門横断の「クロス・ファンクショナル・チーム(CFT)」を設け、従業員が改革を提言しました。なかには、取るに足らない提案もあったと思いますが、どう対処しましたか。

 「CFTがすぐに解決策を出したわけではありませんよ。第一に、CFTのよさはテリトリー主義をなくしたことです。多くの日本企業には派閥があるのです。これは皆さんの会社にもあるでしょう。私はCFTメンバーと双方向で議論しました。『なぜこれがよい提案だと思ったの』と彼らに尋ね続けたのです。そして、私と会話するうちに、自分で『この提案はあまり良くないな』と気付いて納得したほうがいいのです。第二に、そもそも私が間違っている可能性もある。説明されるうちに、私が納得するかもしれません」

 「対話が必要なのです。リーダーは人を叱るためにいるわけではなく、人をサポートして適切な解説をするためにいるのです。そうすると、チームメンバーは仕事に誇りを持つことができます」

■後継者を育てるということ

 ――リーダーは意識的に後継者を育てなければならないのでしょうか。

 「一般論としては賛成できません。最高経営責任者(CEO)が後継者に責任を持つことは大きな間違いだと思っています。その役割として的確ではないからです。それは取締役会の責任です。なぜかというと、CEOがやめた後も取締役会は残るからです。私はCEOの後継者に対する責任は極小化すべきだと思っています」

 「CEOは後継者に責任を取れません。確かにやめた直後は、前任者のメリットが残っています。しかし、やめてから3年から5年たったあとで、うまくいくかどうかわかりません。後継者の実績は3、4年たった後に出てきます。ですから最終的には取締役会が決定しなければなりません。日本企業の場合、取締役会の役割は小さいですが、少しずつ、今、私が伝えたような方向に向かっているように思います。社外取締役も増えています」

■厳しい状況にある組織こそ生き残る

 ――10年後に勝ち残る企業とリーダーの要件は何ですか。

 「具体的に誰が生き残るか、それは明確にいえませんが、必要条件はあります。生き残るのは、学び続ける組織です。常に知識を向上させて、問題を特定し解決策を考え続ける組織が生き残ります」

 「常に厳しい状況にある組織のほうが、しなやかに伸びるのです。人生も、会社も同じです。そして、不可抗力ですが、運も大事です。会社が幸運だったり不運だったりすることがある。生き残るには状況にも左右される。しかしそれも理解しなければなりません。変化に対応する能力、学び続ける組織であること、そして常に実績主義でいく従業員。これが生き残るための基本的な要件です」

(松本千恵 代慶達也)

 前回掲載「『私は変化が嫌いだ』 再建王ゴーン氏の本音 」では、「危機はチャンス」と説くゴーン氏の経営哲学を聞きました。

「リーダーのマネジメント論」は原則火曜日に掲載します。

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