3 Lines Summary
- ・40歳前後は、本選びに“コスパ意識”が強い世代
- ・役に立たない本には手を出さない
- ・若い世代と競い合うような読書は卒業すべし
プロフィール
熊代 亨(くましろ とおる)
1975年生まれ。信州大学卒業。地域精神医療に従事するかたわら、ブログ「シロクマの屑籠」にて社会心理学的な考察を発信中。著書に『ロスジェネ心理学―生きづらいこの時代をひも解く』(花伝社)、『「若作りうつ」社会』 (講談社現代新書)など。
本選びに“コスパ”意識が強い世代
今、35歳から40歳前後のアラフォー男性は、あの就職氷河期を生き抜いてきたサバイバーだ。その彼らを評して、熊代氏は“若い頃の期待や夢をもみくちゃにされながら生きてきた世代。夢は夢、現実は現実と割り切る姿勢は、本の選び方にも表れている”と指摘する。そしてそのパーソナリティには、幼少期の生育環境が少なからず影響しているとも。
「少子化や核家族化の影響で、親に手をかけて育てられた世代だと思います。労働白書を調べると、1990年代前半に単身赴任や長距離通勤のパーセンテージがグッと高くなっているんですね。父親は家族を支えるために頑張って働き、母親は専業主婦として子育てに力を入れていました。塾やお稽古ごとなどに通わせてもらう中で、親の夢を引き受けてきた部分もあると思います。まだ日本が右肩上がりの時代でしたし、子供時代はみな、何かしらの夢をもっていたと思うんですよ。
ところが社会に出る頃には、いつのまにか日本の右肩上がりは止まっていました。親の期待という意味でも、自分が思い描いていた未来という意味でも、この世代で今自分が思った通りの人生を歩んでいる人は少なく、うまくいった人でも、相当苦労されたのではないかと推察します」
何の役に立つのか、よくわからない本には手を出さない
「そのため、教養が人生を変えてくれると信じている人が少ない世代とも言えるんですよ。そもそも“教養によって人生を豊かにしよう”みたいなことを信じるためには、まず自分に余裕がなくては難しい。どちらかというと、“自分が今日や明日を生き抜くために、もっと本を読まなければいけない”と、プレッシャーに感じている人のほうが多い世代だと思うんです。
だから、今すぐ効果を与えてくれるような実用本や自己啓発書に手を出すような読み方が多数を占めていると思います。“コスパの良い”読書と言いますか。30代も半ばを過ぎて、“何の役に立つのかわからないような啓蒙書”や“すぐには効果が得られなさそうな思想書”などを読む人は、この世代には特に少ないのではないでしょうか。なぜなら、“自分探し”みたいなものにトコトン裏切られた世代なので、目標や目的の曖昧な努力には、もう懲りているのです。ゆえに、それが彼らの読書観にも反映されていると考えられます」
ちなみに編集部が独自に行った、アラフォー男性の読書にまつわるネットアンケートをご紹介しよう。平均年齢40.3歳(既婚-子供あり54.7%、既婚-子供なし12%、独身33.3%)の男性300人に調査した結果である。
Q. ひと月にお金を出して買って読む本の冊数(過去1年間の平均)
1冊未満 61%
2〜3冊 26.7%
4〜5冊 5.3%
6〜7冊 2.3%
8〜9冊 1.7%
それ以上 3%
Q. 自分は本を読むほうだと思いますか
読んでいると思う 21.3%
あまり読まない 65.7%
どちらとも言えない 13%
熊代氏が言うコスパ意識が影響しているかどうかは定かではないが、今回の調査では“ひと月に買って読んだ本は1冊未満”“あまり読まない派”が半数以上であることが示された。
また、本に対するコスパ意識は、下の世代にいくほど強く高くなるものらしい。熊代氏は、20〜30代前半の若者たちを見ていると、その本単体で知識のパッケージが手に入るようなコンビニエンスな読書を好む若者が増えていると感じているそうだ。
「エンタメとしての価値を頭っから提供しないと、すぐに“やーめた”となりかねない。アラフォー世代よりもシビアでハッキリしていると思います」
時代や人の心の変化につれて、本はいつのまにか、効能書き通りの目的が手に入る“商品”になってしまいつつあるのかもしれない。
『君の名は。』に敏感な若い世代と競い合うような読書は卒業する
さらに熊代氏は“旬に飛びつく読書は若い世代にはかなわないので、大人は大人らしい読み方にシフトすべし”と畳みかける。
「若い世代は、読むための時間もバイタリティもありますし、頭もやわらかい。しかも時代の空気にすごく敏感なので、映画『君の名は。』の良さにもいち早く気付けるんです。アラフォー世代が必死に流行りものを追いかけても、若い世代の感性やスピードにはかないません。それならいっそ、名作や古典に目を向けたり、1冊の本を起点にそこから知識の深掘りをすることで教養をためていけるような、大人の読み方をおすすめしたいですね」
それは、たとえばこんなふうに読むのだそうだ。
「司馬遼太郎の『坂の上の雲』(文春文庫)を読んだとします。これだけを読んでももちろん面白いのですが、読んだ後、その当時の政治や軍事、国際情勢に関する他の本を何冊か読んでから、もう一度『坂の上の雲』に立ち戻ってみる。すると、思わぬ突っ込みどころが見つかったり、あるいは“司馬さんはこんなふうに物語としてうまくまとめたのか”みたいな気づきが出てきて、知識が増えると同時に、視点の深さも培えるようになるのです」
そんな大人の読み方に加えて、熊代氏は“現代の教養は読書に留まらず、ジャンルの垣根を飛び越えて、様々なメディアやエンタメなどをクロスオーバーさせながら耕してもよいのでは”と提案する。
「たとえば下の世代は本を読まないぶん、ほかのメディアから彼らなりの教養を吸収、構築していると思うんですよ。昔の人が本を読んで他者の人生を味わっていたのが、今はアニメや映画で追体験をしていたりします。未来につなげる知的活動のあり方としては、書籍やマンガ、ライトノベルからゲームやインターネットまで、ジャンルを超えて教養の樹を茂らせるのも、ネット時代ならではの知を形づくるスタイルではないかと思っています」
本を読む人の本棚と読まない人の本棚の違い
そのようにして、本を読んで苦心して集めた知識や情報はすべて、その人の知の生態系として本棚に表れる”と、熊代氏がちょっとコワイ指摘を始めた。
「本棚はコワイんですよ。その人の興味関心の範囲や、どのように知識を組み立てているのか、どれぐらいの理解力や語彙力をもっているかが、本棚を眺めただけでだいたいわかってしまうんです。Amazonの購入履歴にも同じところがありますが、本棚の本って“捨てられずに生き残ってきた本たち”ですよね。そのぶん、持ち主の虚栄心や背伸び、執着や関心がぎっしり詰まっていて、その人のコアな部分を現している。自分の部屋の本棚を知らない人に見せびらかすのは精神の裸踊りを見せるみたいで、ちょっと躊躇してしまいます」
持ち主と本棚を照らし合わせることによって、人となりを“読む”。そんな切り口を、熊代氏はいつ思いついたのだろう。
「以前、精神科医の先輩の本棚を見せていただいたとき、先輩と本棚がすごくシンクロしてると感じたんです。もともと精神科医というより、占いの館が似合いそうなマジシャンっぽい先輩で。ご自宅を訪問してみると、はたして本棚はもっと不思議でした。精神医学からオカルト系まであらゆるジャンルの本がそろっている謎めいた本棚だったんです。“ああ、この先輩でなきゃ、こういう本棚にはならないだろうなぁ”と強く感じました」
そこで、熊代氏に依頼して、本棚の状態から読書傾向が読み取れるチャートを作成していただいた。読書傾向と本の数を掛け合わせた4象限になっているので、テスト感覚で自分の本棚と照らし合わせてみてほしい。
A.「本を読むのは苦手」タイプの特徴
・部屋にきちんとした本棚は存在しない
・本棚があっても、本が手にとりづらい場所にある
・“長生きしたけりゃふくらはぎ”的な健康ハウツー本が多い
・趣味やビジネスマン向け雑誌がちょっと置いてあるB.「生きるための読書」タイプの特徴
・本棚の中心に置いてあるのは仕事に関連した専門書
・専門分野の本にはお金を惜しまない
・余暇を楽しむための読書 < 職場で生き抜くための読書
・エンタメ系や専門外の書籍は、おまけ程度C. トレンドに敏感な「ミーハー」タイプの特徴
・本棚にはベストセラーがいっぱい
・「1Q84」「半沢直樹」「大河ドラマ小説」などがある
・いずれも一冊で理解が完結する書籍が多い
・好きなジャンルのエンタメ本は、だいたい押さえてあるD. ややマニアックな「こだわり」タイプの特徴
・ベストセラーから絶版書まで、置かれている本が幅広い
・家の床が抜けそうなほど本をためこんでいる
・一冊では理解が完結しない読み物も躊躇なく読む
・本は売らない・捨てない主義
「本を読まない人の家に行くと、すぐにわかります。読書家の本棚はひんぱんに本を出し入れするからホコリがたまらないんですよね。なんとなく“生きている”感じがします。その一方で、デッドストックの書庫は、空気がシーンとしてるんですよ。今度どなたかの家を訪問されたら、ぜひその方の本棚を、こっそりチェックしてみてください」
構成・文=谷畑まゆみ
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