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トランプ大統領誕生にウォール街がほくそ笑む理由
やっぱり強者の味方なの?

金融街はお祭り騒ぎ

ドナルド・トランプ氏が大番狂わせで米国の次期大統領に決まったことに対して、米国内はもちろん世界各地で抗議デモが催されたり、カルフォルニア州の独立を求める動きが表面化するなど、大混乱が続いている。

そうした悲壮感に満ちた混乱とは対照的に、ビジネスの世界には飛び上がらんばかりの喜びを隠せない企業群がある。

選挙戦が終わった途端、「反ウォール街」だったはずのトランプ陣営から秋波を送られている名門投資銀行や、地球温暖化対策の煽りで廃業寸前だった石炭、石油、シュールガスなどのエネルギー企業、そして、民主党のヒラリー・クリントン候補が勝っていれば薬価の引き下げ圧力に見舞われたはずの医薬品メーカーだ。

トランプ氏の翻意を、新大統領の柔軟性を示すものと好意的に受け止めるのは困難だ。トランプ大統領誕生の原動力になった白人貧困層の不満を増幅するリスクや、世界的な温暖化ガスの排出削減の枠組みであるパリ条約を台無しにする危険を伴うからである。

世界に怒りと不安の渦を残す選挙戦略を展開しただけでも罪深いのに、支持者を騙すことにもなりかねないトランプ氏の政権引き継ぎ作業の最新状況を点検しておこう。

驚かざるを得ないのは、米国株相場の急伸ぶりだ。大番狂わせのトランプ氏勝利が、見過ごされていた企業の株高の可能性に賭けるトランプ・ラリー(活況相場)を呼び、先週末(11月11日)のニューヨーク株相場(ダウ平均)は5日続伸となった。

この間、ダウ平均は2日連続で過去最高値更新し、週間上げ幅は959ドルで過去最大の更新といったおまけも付いた。

このニューヨーク株の急騰に振り回されたのが日本株市場だ。9日の東京市場は、トランプ氏が大番狂わせで勝利を収めると米国で保護主義的な通商政策が強まりかねないとの懸念(トランプ・リスク)にストレートに反応。全面安の展開で、日経平均株価(終値)が前日比919円安と、今年2番目の下げ幅に達した。

ところが、同日のニューヨーク株高を見て一転、翌10日の日経平均は前日比1092円高と急反発して前日の急落分を埋めたのだ。ちなみに、10日の日経平均の上げ幅は今年最大でもあった。

〔PHOTO〕gettyimages

どの発言が株価上昇につながったのか

震源地と言うべきNYでは、トランプ氏が勝利を収めた9日から3日間のトランプ・ラリーの上げの主役が微妙に変化していた。

9日と10日に先行して株価を上げたのは、トランプ氏が選挙期間中の10月22日にペンシルベニア州ゲティズバーグで公表した「有権者との契約」などで公約した施策で恩恵を享受しそうな企業である。

ちなみに、「有権者との契約」は、大統領就任日に、北米自由貿易協定(NAFTA)の「再交渉か離脱」、環太平洋経済連携協定(TPP)からの「離脱」を宣言するほか、就任から100日以内に10の法的措置を講じるというものだ。

法的措置の中には、年間4%の経済成長と2500万の新規雇用を創出するための所得税、法人税(連邦法人税率の35%から15%への引き下げ)の減税法案や、向こう10年間で1兆ドルを超すエネルギー・インフラ投資の促進法案などが含まれている。

 

実現すれば、オバマ政権が進めてきた化石燃料から再生可能エネルギーへの移行がとん挫し、死に体になっていた石油、石炭、シェールガス関連企業が息を吹き返す可能性があるほか、インフレ関連企業が絶好の収益機会に恵まれる可能性がある。

そこで、インフラ投資拡大のメリットを享受しそうな建機大手キャタピラー、鉄鋼のUSスチール、エネルギー政策の先祖返りで経営が安定する石油メジャーのエクソン・モービル、シェブロンといった企業の株価が2日連騰した。

米石油協会のジャック・ジェラルド会長は10日付の声明で、トランプ氏と議会共和党の選挙戦勝利を歓迎する意向を表明した。

また、ちょっと変わったところでは、ファイザーやメルクといった医薬品メーカーも9、10日の株価上昇が大きかった。この2社は、薬価引き下げを広言していたクリントン候補が敗れたため、収益環境の悪化を避けられると見直されたらしい。