米国に次いで、フランスもポピュリズム(大衆迎合主義)を受け入れる国になるのだろうか。ドナルド・トランプ氏が大統領選で勝利したことで、フランス極右政党、国民戦線(FN)のルペン党首の来年の大統領選での「賭け率」は確実に下がった。ルペン氏は米大統領選の結果を、現体制に対する拒絶と同氏自身の反移民、反グローバル化、反既成勢力のスタンスへの支持の表れとみなし、歓迎した。同氏は「世界の終わりではないが、一つの世界が終わったのだ」とツイートした。
それでも、ルペン氏が大統領になることはありそうもない。世論調査では、ルペン氏は第1回投票で25%以上の票を獲得して楽に決選投票に残ると出ている。だが、決選投票では、対立候補が極端に支持率が低い現職のオランド大統領を除く誰であっても、敗れるだろう。
過去1年の選挙の番狂わせを思い起こせば、こうした予想に誰もあまり安心できないだろう。ルペン氏もまた、移民やイスラム過激派によるテロ攻撃、伝統産業の崩壊などへの人々の不安を利用し、あらゆる先進国でのポピュリスト政党の台頭をあおっている。ルペン氏は、自身の父親が築いた政党があまり過激でなく、より受け入れ可能な政党に見えるよう懸命に努力しており、トランプ氏の勝利がその正当性をさらに高めるかもしれない。想定外のシナリオはいとも簡単に描ける。例えば、あまりに退屈な候補者かルペン氏と同様に過激な候補者との決選投票になり、中道派の有権者が投票に行かないことが思い浮かぶ。
リスクは重大だ。欧州連合(EU)は英国の離脱を乗り越えられるだろうし、オーストリアで極右の大統領が選ばれても、その衝撃への対応策を見いだせるだろう。ルペン氏が大統領になれば、EU創設国の中でも大国の一つであるフランスでEUの意義のすべてが覆るだろう。同氏の政策はフランス社会を揺るがし、同氏がEU離脱の是非を問う国民投票の実施を公約すれば、EUの存続は脅かされるだろう。
だからこそ、主要政党が有権者を熱狂させる候補者を擁立し、政治の議論を主導することが急務だ。与党社会党と中道右派の野党は今、その答えを出すのに苦戦している。
左派では、オランド氏が今のところ、支持率がどん底であるにもかかわらず、2期目への意欲を示しているようだ。右派陣営では、多くの候補者がひしめく中で、ジュペ元首相とサルコジ前大統領が今月の予備選の指名争いでリードしている。経験豊かでまじめで地味を貫くジュペ氏は、主流の有権者にとってはポピュリズムからの逃げ場となる。平時であれば同氏の(大統領としての)資質は突出している。だが、20年前に首相を務めた同氏は既存勢力そのものだ。そして、米大統領選では、失敗した制度に携わった者に背を向けた国民がいかに多かったかが示された。
■極右政党に対抗できる選択肢示せ
ルペン氏は進んでタブーを犯し、支持者の懸念を声高に唱えるよそ者だ。サルコジ氏は自身をルペン氏に代わる選択肢だと、より明確に位置づけている。だが、サルコジ氏は間違いなく「支配層」の一員であり、非常に評価が分かれる人物で、有権者をまとめるのに苦労するだろう。
こうした中、マクロン前経済産業デジタル相が出馬の準備を進めている。同氏は歓迎すべき選択肢だ。中道派や経済自由主義者をあまり好まない政治風土において同氏が勝利するのは難しいかもしれない。だが、同氏は、大いに必要とされている楽観主義者であり、因習打破を推し進める意欲のある比較的目新しい存在だ。
従来の政党が極右政党の政策を穏健にしたものではなく、極右政党に対抗できる前向きな選択肢を示す候補者を中心に団結することが望まれる。ルペン氏の人気は現体制に対する有権者の不信感のあらわれだ。だが、同氏は解決策を提示していない。同氏に議論の主導権を握らせてはならない。
(2016年11月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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