審神者はじめました
薬研藤四郎という短刀がいるらしい。
2206年、審神者になろうとしている私は、薬研藤四郎について気になっていた。
2205年から政府は審神者を利用して幾万の時間遡行軍と対峙していた。
審神者という役職には誰でもなれるのだろうか、現在何万人という人間が審神者になっていた。
―ということになっている、誰も、審神者という人間に直接会ったことがない。
メディアでは、審神者になったものは今までの意識を失い、
時の狭間に閉じ込められるといった具合に報じられている。
時間遡行軍の討伐開始から1年経過し、審神者となった者の日記が、
次第に見つかってはいるが真実は闇の中。
いかんせん執行しているのは政府。
謎な部分が多くても、政府の仕事となると、候補者は毎月増加しているようだ。
審神者の日記が社会に続々と公開されている中、私は薬研藤四郎という短刀について知った。
刀身に宿りし付喪神。
彼らは、刀の種類に応じて人型の大きさにも影響があるらしく、
短刀であれば子どものような見た目らしい。
開示されている情報では”薬研藤四郎”という付喪神は、黒髪に紫の瞳。
大きなつり目に、優しい落ち着いた声という。
それだけで、私はかなり惹かれていた。
そんな子ども(のような者)が居てたまるか。会いたい。どうにかしてでもひと目見たい。
正直、審神者の仕事はそんなに興味はなかったが
”薬研藤四郎に会ってみたい”という思いが日々募っていた。
5月。ついにその日が来た。
ーー
私はふと目が覚めると、日本家屋の一部屋で横になっていた。
明らかに自分の家でも、実家でもない。外が静かすぎる。ここはどこだと体を起こそうとすると激しく頭が痛んだ。諦めてまた横になって、起きる前のことを思い出そうとする。
自分の名前は思い出せる。過去が思い出せない。言葉や今までに経験した、なんとなくのことは思い出せる。
「うーーん…なんだ、どうしたんだ…夢か?夢だな…」そう思って、再び寝ようとした。
ゆっくりと目を閉じる。
深い深い闇の中、体が沈むような感覚に陥る。
頭のなかに声が聞こえてきた。
「審神者なる者は過去へ飛ぶ。いにしえの精神と技の結晶である刀剣から生まれた最強の付喪神「刀剣男士」とともに歴史を守る。」
審神者…?どこかで聞いたことが有るような単語だ。どこで聞いたんだっけと思考をめぐらしていると、ドタドタと廊下を歩く音が聞こえてきた。
襖を開けて、私がいる部屋に4〜5人入って来るような音がする。
「主〜?お邪魔するよ。」
「おい加州、主はまだ床についているのではないか?邪魔して良いのか?」
「でも、そろそろ決めてもらわないといけないんじゃないかい?」
「ほんなら起こそうかねぇ」
「おい…、目を覚ませ、起きてくれ」
誰かに体を揺さぶられている。
うっすらと目を開けるとそこには金髪の美しい青年が深刻そうな顔をして、私を起こそうとしている。
「…俺は…山姥切国広だ」
間髪入れずに派手な格好だが端正な顔立ちの青年が口を開ける。
「俺は蜂須賀虎徹だ、贋作と一緒にしないでくれよな」
横から顔を出し照れくさそうに話す。
「わしゃ、陸奥守吉行じゃ、わしは鉄砲も持っとるぜよ」
「僕は歌仙兼定。君は見た感じ文系だから、僕を選ぶと良いよ」
自信ありげに、少し息を立てて話す。
最後に、私の瞳を見つめながら話す。
「俺は加州清光。主のお世話なら任せて。ってゆーか、起きたばっかで押しかけてごめんね?
俺たちもまだここに来てすぐでよく分かんないんだけどさ、お上に、”主に挨拶してこい”って言われてさ」
歌仙が続く。
「僕達の中から一人選んでほしいんだ。ここで選ばれなくてもいずれ皆、君の刀になるから気兼ねなく選んでくれていいよ」
「最初は真作に身を任せてくれてもいいんだよ?」
「おまんと一緒に歴史を守りとうせ」
「…どうする。」
…?
誰だ。急に部屋に入ってきて自己紹介をしだして”選べ”と言われている。
何だ?新手のお見合いか?揃いも揃ってイケメンしか居ない。お見合いだったとしたら、私は選べない。もっと薄い顔立ちが私にはお似合いだ。
”審神者ってなんだっけ?”という問いも頭からすっ飛んでいくほどの現状だ。
5人に見つめられるのに緊張していると清光が一言「ま、ゆっくりでいいからね。俺たちそれまでココにいるから」と場を落ち着かせてくれた。
キツい顔つきの割には優しい印象だ。
清光の一声で、他の四人も私から離れそれぞれ座って雑談しだした。
私はふと枕元に有る1冊の書物を手に取る。
表紙には「戦績・刀帳」と達筆で記載してある。
頁を開くと目の前にいる5人の情報が細かく書いてあった。
私は5人分の情報を読み通した後、誰を選ぼうか悩んでいた。
正直なぜ選ばなきゃいけないのか、何をするのかも分からないが、私が選ばなきゃいけないんだとそれだけは理解した。
部屋を見渡す。陸奥守はキラキラした顔で銃を磨いている。
蜂須賀と歌仙は茶を飲みながら何かを熱弁している。清光は爪と毛先を交互に眺めながら適当に相槌を打っている。
残る、山姥切…は床の間の前で体操座りをしてぼーっとこちらを眺めている。
焦点が合っていない…何か考え事をしているのだろうか…?
”残念なイケメン”という言葉があるが今まさに山姥切は”残念なイケメン”になっている。
見つめ続けていると、やっと目と目が合った。
私が手招きをすると、山姥切は「はぁ」とため息をついてこちらに来た。
他の男士に聞こえないように小声で告げる。
「山姥切国広、君にするよ」
「……俺でいいのか?写しの俺に」
驚いてはいない様子だが、目が少し見開いた。
「いいよ、君がいいんだ、ダメかな?」
山姥切は後ろの4人を見やって、頷いた。
「…任せてくれ」
小さかったがそう、ハッキリと聞こえた。
初期刀を決めると、廊下の先から”こんのすけ”と名乗る狐(?)がやって来て、屋敷の設備やこれからの簡単な説明をしてくれた。
この屋敷は”本丸”と呼ばれており、刀剣男士と審神者はここで暮らすことになる。
まだこの本丸には、初期刀の山姥切国広と審神者である、私の2人である。
(さっきまでいた、初期刀候補の残り4人はお上によって帰還させられたみたいで、もうここにはいない)
こんのすけは、「それでは鍛刀をしてみましょう、主様のお手並み拝見ですな!」と意気揚々としている。
山姥切が、刀鍛冶に材料の指示をしている。私は離れたところから見守っている。
こんのすけが私に力いっぱい説明をする。
「主様、刀に宿る意思をイメージするのです!そして、その人型の半紙に主様のお名前を書くと審神者としての力が与えられるのですよ!」
私は言われた通りにする。刀剣に宿る付喪神のことをイメージしつつ、と言われたが初めてだから何となく、神様っぽい姿をイメージして半紙に名前を書く。
その人型の半紙を山姥切は出来上がった刀身にそっと優しく置いた。
パァーッと柔らかくて温かい光が部屋を包む。
刀身が置いてあった場所には1人の少年が立っていた。
「よぉ、大将。俺っち薬研藤四郎だ」
軍の制服のようなカッチリとしたジャケットに少年らしい短パン。黒のハイソックス。ショートの黒髪、菫色の瞳。
私は2度見した。声と見た目が合っていない。ダンディ過ぎる。俺っち?江戸っ子…?
待て、その前に薬研…?”薬研藤四郎”?
ここに来る前から会いたいと、求めていたような気がする。
山姥切は特に表情も変えずに「写しじゃないな」と呟いたが、仲間が増えたからか少し嬉しそう顔をしている。
「大将、聞いてるか?」
薬研は横髪を耳にかけながら私の顔色をうかがう。
考え事をしていて、薬研の自己紹介からすっかり無視していた……。
「…ごめんね、君に会いたかったんだ。私の初めての鍛刀が君で嬉しいよ、よろしくね」
初対面でここまで言うのはなかなか気持ち悪いかもしれないが、思ったことを正直に言った。
今言わないといけない気がして、恥ずかしいけど言ってしまった。
「……そうか、それは良かった。まぁよろしく頼むぜ、大将」
とうの薬研はそっけない返事だったが、座っている私の前に来て、
目を見ながら
「べっぴんだな、危ねぇから俺が守ってやんねぇとな」と囁いた。
山姥切は鍛刀の後片付けをしている、聞いてない。
こんのすけは、山姥切の被っている布の裾とじゃれている、聞いてない。
今の薬研の発言を、私しか聞いていない。
????何と言った?少年から発せられる言葉ではなかった。べっぴん?守る?
びっくりして、瞬きが多くなる。
薬研は立て続けに言う。
「主は俺らの上に立つ存在だ。
別嬪なのは充分構わねぇが、色めき立っても大将が困るだけだろう?
俺にいい案があるぜ、聞いてくれねぇか?」
審神者になる前のことは、あんまり覚えてないが、べっぴんと言われたことは確実にない。
薬研は目でも悪いのだろうか?
しかし、これから刀剣男士が増えるのであれば、女という存在は確かに、なにかと困ることがあるかもしれない。
ここは一度、薬研の話に耳を傾けよう。
「…案って何?」
緊張してか細い声しか出ない。
「俺らの主様は、男だ。」
「大将、男の振りをしてくれ、もちろん今から来る奴らに対してだ。
大将が女ということを知っているのは、あの狐と山姥切と俺だけだ。」
私は薬研の澄んだきれいな瞳を見つめながら、話を聞いていた。
「………………なるほど」
いや、色々とツッコミどころはあるけれど、口から出た言葉はたった四文字だった。
しかし、理にかなっているし、私もそれで構わないと思った。
こんのすけから説明された、これからの”時間遡行軍との戦い”には度胸と
部隊をまとめる力が必要だと感じていた。
女だからといって、変に優遇されるのも心配されるのも嫌だ。
刀剣男士とは同性の方が、仲良くなれるかもしれない。
薬研藤四郎、策士だ。これは言うことを聞こうじゃないか。
「分かった、案に乗ろう」
さっきまでの緊張はどこかに飛んでいった。力強く返答すると
薬研は真面目な顔から一気に頬を緩ませ
「さすが、俺らの大将だ。改めてよろしく頼むぜ」と、私の頭を軽くポンポンと撫でた。
こうして、昔の記憶と代償に審神者に就き、無事 ”薬研藤四郎”に巡り合わせるも
就任30分で、男審神者に変身した私であった。
私が”女”だと知っているのは、こんのすけ、山姥切、薬研だけ。
これから、どうなっていくのだろう…でもやるしかない…
やる気に満ち溢れている私の後ろでは刀帳が風に捲られ、49番のページが開いた。
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