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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

鳥籠は、狭く広く-IF-

作者:鈴槻白水

案外、私の世界は狭くて広くて泣いたんだ。



何が悲しかったかは、忘れたよ。



そう言って、私は微笑んだ。












何度も何度も疲弊した体を無理に動かす。そろそろ充電切れだと思いたい赫子を動かした。強い衝撃に耐えられる体を褒めてやりたい位だ。私の後ろで倒れている彼、金木研と一緒に逃げたいがそんなチャンスなどをくれてやる程の温情は目の前の死神には無い。無表情で私と戦っているのは、喰種にとっては最悪の敵。そんな死神の攻撃をかわしながら、研の事を考える。金木研と出会えたのは、きっと運命だ。脳に現れた乙女チックな考えが、自分らしく無いと笑える。目の前の死神という強敵をどうにかしなくては、いけないのに頭が勝手に回想を始めた。










ジワリと赤が白いシャツを侵食していた。腹部に出来た大穴が少しずつ自己治癒を開始していた。ジクジクとする痛みが少しずつ無くなってきた。

『…大丈夫ですか?』

低い声が私の耳に響いた。しゃがみこんで私の心配をするのは、先ほど助けてもらった命の恩人だ。目の前の白髪の青年は、喰種の噂でも有名な百足という強い喰種だ。

『だ、大丈夫…』

私は、その百足という喰種を数分前まではまでは畏怖していた。アオギリと繋がりがあると噂されていたからだ。意外と私は臆病者で、アオギリと関わりがある喰種はみんな畏怖していた。何故、そんな彼が命の恩人なのかと説明すると。数分前の私は、香りの良い喰種を襲っていた。これは、いつも通りの事だった。香りの良い喰種を襲う私にとってはね。しかし、その喰種は強いと噂されていた白狐の喰種だった。Sレートの私を圧倒するS+レートの白狐。痛めつけられ動けなくなった所を、目の前にいる百足の青年が助けたのだ。百足の青年に助けられなければ私は死んでいた。しかし、見知らぬ馬鹿な女の喰種を助けるなど普通ならばありえない事だ。面倒事を嫌う喰種は、多い。これは、私の自業自得なのに百足の青年は、何故助けたのだろうか。

『何で助けたの…?』

カラカラの喉は、枯れていた。疑問から出た言葉は、少しだけ震えていた。

『僕が貴女を助けたいって思ったからなんです』

そう言って、百足の青年は、困った様な顔をして微笑んだ。広くて狭い世界は、悲劇を起こそうと動いていたんだ。気付かなかったのは、自分自身が楽しい毎日だと勘違いしていたからなんだ。その代償として、悲劇は青年に降り注いだんだ。止まる事のない歯車が僕自身を変える。優し過ぎた青年は、自己犠牲を止めない。脳に流れた長々としたテロップは、残酷なまでに無情な言葉だった。

『…そう、なんだ』

私は、儚い青年を見ていられなくなり逸らす様に俯いた。

俯いた次いでに、腹部の傷を見た。さっきまで穴が大きく空いていた傷は、修復されていた。ジクジクとした鋭い痛みも無くなっていた。もう一度、青年を見ようと顔を上げた。しかし、其処には誰もいなかった。百足の青年は、消えていた。

『あ、まだ御礼も言ってないのに…』

御礼を言わなくては、いけなかった筈だった。それなのに、自分は何も青年に言わなかった。少しの後悔と罪悪感が出た。また、会えるかどうかも分からない。新しい目標が、自分の中に出来たかもしれない。その目標は、百足の青年を捜す事。自分にとっては、とても大切な目標だ。気を奮い立たせて、立ち上がる。

『彼を捜し出して、御礼を言わないと割に合わない』

私は、そうポロリと口にしてその場を後にした。








回想を終えた頭は、満足していた。私は、死神の攻撃を必死に避ける。最近の事なのに、とても懐かしく感じる。これが走馬灯なのかなと勘違いする私はおかしい。死を迎える前って、走馬灯が見えると親友が言ったのは本当だったかもしれない。

『本当、御礼を言いたかっただけなのにッ!』

攻撃をするが避けられる。無意識に攻撃を避けられる反射がある私は、死神に褒められる程のモノだ。何故、死神と戦っているかと言うと。20区で大きな討伐作戦があると噂に聞いて、百足の青年の為に焦って必死に共食いをした。焦って共食いをした結果は、死神にも目を付けられる程だ。強力な力を持った私は、喰種にも白鳩にも恐れられる者になった。

無理に共食いをした体は、精神的にだけボロボロだった。しかし、金木研という青年にお礼を言う為だけに精神を強くした。馬鹿な程の目標が最終的に、こんな事になるなんて思わなかった。金木研という百足の青年の為だけに、自分がこうなるとは思わなかった。無数の屍の海を広げたらこうなったんだ。

『流石だ、良いクインケになれる』

目の前の死神は、無表情で呟く。死んだら人生なんてやり直せないんだ。だから、私は無理に体を動かす。クインケになったら、死神にいい様に使われるだけだ。そんなのは、絶対に嫌だ。

『クインケになんて、誰がなるかッッ!!』

体力的にも精神的にも疲弊した体には、動かす度に負荷がおおきくかかる。ここまで、頑張る事が出来たのは金木研という青年のおかげだと思う。今まで、全てに頑張る事が
出来なかった私にとっては最高のものだと考える。

『そうか、残念だ』

フッと死神が笑った瞬間に、低く冷たい死神の声が耳にスッとはいる。死神の顔が息がかかる程に近かった。時間が止まったかの様に、感じた。ヒュッと私の喉が鳴る。生々しい音が聞こえた。赤い鮮血が地面に、飛び散った。激痛が腹部に走る。怪我をした所と同じところに刺さるなんて、偶然にも程がある。

『がッッ!!!』

何かが喉から競り上がる。喉は、我慢出来ずに私の口をこじ開けた。出たのは、真っ赤な赤い血。自分の血は、酔う程に甘美なものだった。

『お…い……しぃ…っ……』

懐かしい味と思い出が深くグルグル交わる。妖艶に笑うのは、白い死神。私の血が薔薇の花弁の様に、死神の頬に付いていた。陶器に見合う赤い血は、不思議にも綺麗だった。幼い頃に見た、母親の様だった。冷たい鮮血の血が、蛇の様に小さな赫子に這ったんだ。興味本位で殺した母親味は、吐き気がする程に不味かった。だから、造花にしたんだ。せめてものお詫びとして、大好きだった薔薇を大好きだった母で作ったんだ。痛みが私を支配し始める。

『あ……ぁ…っ…』

崩れ去るのは、私の体。支えがなければ、倒れる。地面に落ちた私を見下す様に見るのは、死神。腹部からは、止まらない血が流れ出る。赤い水溜りが出来る。クインケを未だに刺している死神は、儚く見えた。誰よりも美しいと心から思ってしまった。ドクリと大量に流れ出る血の所為で、頭が回らなくなってきた。くたりと右に横になる首。横になり見たのは、目のない金木研。

死んだかと思える程に、ボロボロだ。まだ、御礼を言ってなかったという言葉が頭を掠める。彼が生きていなければ御礼を言えない。だから、私はまだ戦わないといけない。彼を金木研という命の恩人を助けなければという思いが私をまた奮い立たせる。そう強く願った瞬間に、細胞が活性化される。力が泉の様に湧き出た。痛みも思考も何も考えられない程に、自分が分からなくなった。

『あ…あぁ…ぁぁ……あぁぁぁっっっ!!』

思考が全て吹っ飛ぶ程の力が出た。コントロール出来ないのは、未熟な自分だから。壊れたのは、狂ったのは喰種として異端として生まれたからだ。死神は、素早くクインケを抜きその場から距離を置いた。

『…』

死神は、無表情で少女を見つめる。夢の様なフワフワとした鼓動は、悪魔の囁きの様に聞こえた。気の所為かと少女は、笑って安らぐ様に眠ったんだ。乗っ取られたのは、力の器が無かったから。自己防衛は、とても大事な事だと頭に心地よい言葉の音が響く。花畑の匂いは、私を眠りに誘うの。そう言って、夢からの強い意思が伝わってくる。

『可愛い可愛い私の赤子は、林檎の様に私を食べたの』

地面に垂れた赤い血を細い指に付着させる。それを唇に塗れば赤い口紅の様に艶やかになる。可愛い可愛い私の赤子は、林檎の様に私を食べたの。誰の所為でも無いわ。禁断の果実を興味本位で手にしたのは、純粋な赤子の好奇心だから。私の育て方が間違ったのかしら。

裏切者の愚者の所為で、全てが滅茶苦茶になった。あぁ、どうか卑しい私を許して。この子を盗ってしまったから天罰がくだったの。だから、可愛い私の赤子の所為では無いわ。彼が注いだ愛の一部が欲しかったの。残酷に血を纏う貴方。

上質な絹糸の緑髪は、何度も何度も櫛で梳かす。あの人の面影が少しだけあるのは、とても安心する。あの人の赤子を奪ったのは、私。その赤子に食べられるのは、私。愛しい赤子には、片割れがいるの。偽物の母親は、愛しい我が子に食べられて幸せ。異形な形をした赫子は、ユラユラと鬼火の様に揺れる。

『鳥は羽を広げて、空を飛ぶの。とても、羨ましいと私は思ったの』

フワリと空を飛ぶのは、いけない事だとは誰も言わなかった。黒い布の生地が私の体に纏わり付く。名も顔も知らぬ姉を捜すのがこの子の為なのと誰かの意思が告げる。赫子に包まれる。眠り眠った羊水の中にいた懐かしさ。

大きな羽を広げて飛ぶのは、生きるため。誰も今回は、悪くない。短いお話に介入した未熟な喰種の所為でもない。悲劇を背負うには、早過ぎると本能が告げた。逃げたのは、誰の所為でもない。死神が見逃したのは、気の所為だ。白い雪が空一面に降っていた。

『許してね。私の可愛い赤子』

ポツリと呟く謝罪は、誰にも聞こえない。ある匂いを辿れば包帯が所々解けている少女に行き着く。雪がふわりと舞っている。瓜二つの顔が見合わされる。同じ色の瞳が交わる。

『やっと、会えたね』

抱き締め合うのは、双子ながらの意思疎通。甘い匂いが鼻を燻る。この子が赤子の片割れ。可愛い赤子は、そろそろ夢から醒める。お別れは、長く短い。消え去るのは、細胞に混るから。可愛い私の赤子。ごめんなさい、ありがとう。そう言って、私の意思が全て消えた。全身の力が抜ける。それを受け止めるのは、片割れ。

『んっ…』

目が醒める。今まで見ていた夢は、誰なのかは分からない。生温かい人肌に包まれていた。甘い匂いは、私と同じ。緑色の髪も私と同じ。白い肌に映えてるのは、とてもお似合いだから。ザラザラとした包帯が私の頬に当たっていた。ゆっくりと脳が覚醒する。怠い体を動かす。体を離すと冷たい風が髪を揺らした。目の前には、同じ私と顔があった。

『おはよう』

鈴の声が私を現実と捉えさせる。ニコリと可愛らしく笑う女。私と容姿が似ているのは、双子だからだろう。死ぬ間際の偽りの母親から聞いた事がある。私には、双子の姉がいると。あの人を食べてよかったのかもしれない。誰の所為でも無いのなら。

『…おはよう』

同じ様に言葉を返す。そう言えば、金木研はどうなっただろうか。どうして、自分が此処にいるのだろうか。何故、あの場から逃げる事が出来たのだろうか。あやふやな記憶。金木研は、命の恩人だ。あの青年は、私にとっては大切な人になった。唯一の大切な人に。なのに、逃げ出した自分はとても憎らしく思える。どんなに強くなろうが、上には上がいる。そんな、無情にも思える言葉に腹が立つ。不甲斐ない自分に悔しさが湧く。

『大丈夫だよ、彼は…』

澄んだ声が自分を落ち着かせる。双子の姉は、私の考える事もお見通しみたい。無理した体は、まだ悲鳴をあげてる。早く眠れと脳が指令を出す。瞼が重くなるのは、仕方ない事だ。

『おやすみなさい』

また、抱き締められる。甘い匂いが深い眠りを誘う。瞼は、閉じられた。意識は、黒く塗り潰された。







灰色の髪をした成人男性を見つめる。いい様に使われる喰種。なんとも哀れだなと今日も観察する。エトには、外出を制限されている。でも、抜け出す事は安易だ。帰って怒られるのは、仕方ない。

金木研もとい佐々木琲世を観察する。有馬貴将は、なぜ彼を生かしたのかが分からない。そして、私を見逃したのも。ただ、私を殺す必要は無かったのかもしれない。佐々木琲世という人物が、何度も暴走して盾突くのは分かってる筈なのにね。

佐々木琲世自身の人柄は、とても温和な感じだ。昔の金木研もこんな感じだったのかな。そう言えば、クインクスって班が出来たのね。鳥籠の世界では、悲劇は避けられない。グラグラとした不安定な精神は、とても弱くて脆くて崩れされるのがいつなのか見極めなくてはいけない。気付く程に、思い出す程に強くなるのは主人公気質だから。

『死にたがりやな彼を最後まで見届けるのが恩人へのお礼』

かっこよく死にたいなら、死になさい。貴方を最後まで見届けてあげるから。病んでるな何て思うのは、きっと気の所為じゃないのかもね。何処か君は、欠落しているから。この世界は、狂ってる。おかしいと思える程に壊れている。それがみじかにあるのが、証拠だよ。落とした林檎を拾う男に微笑む。

『やっと、御礼の仕方を見つけられたよ。またね。…佐々木琲世くん』

そう呟いて彼女は、その場を去る。彼女が居た場所を見つめる灰色の髪をした男がいた。

『あれ、気の所為だったかな…』

柔らかそうな温和な雰囲気を持つ男は、チラッとビルの上を見つめた。甘く懐かしい匂いがしたのは、気の所為だと自分に言い聞かせた。そして、落ちた最後の一個の林檎を拾い茶色の紙袋に入れた。







広い世界は、狭くて逃げれないんだ。

小さな鳥籠は、自由を奪う。


何かに依存しないと生きていけない。そうしないと自分が分からなくなってしまうんだ。何かの為にする事を決めないと無感情になるんだ。人形劇を手の平で踊らせるまでに器用では無いから。コロコロ変わる悲劇。たまには、ご褒美をあげようと誰かが言う。甘く良い匂いの花は、咲き乱れる。悲しい程に、誰かに助けを請うなど出来なくて。お母さんと何度も何度も言って泣くんだ。母の愛など知らない。そうしたら、欠落したんだ。心が弱いからかな。謝っても許されないんだって幼い子供は言う。そこで学ぶんだ。おかしくなってしまったのは、自分の所為だって勘違いする。私は、欠落品。

可哀想な悲劇の材料。やっと、気付いたんだ。自分は、どうにも変えようの無い愚か者だって。足掻いても抗っても振り落とす事の出来ない物語。分かり合う事の無い世界は、凍え死ぬ程の冷たさだった。ずっと、抱き締められたかったんだ。無意識に愛を求めてた。あったかいなって、いいなって羨ましくなる。憧れを持つ程に惨めになる。何でも揃ってる者は、何度でも我儘を述べるんだ。その口を糸で縫いつけたくなる。いいよね。大好きな家族がいるんだから。いいよね。

我儘が素直に言えるんだから。いいよね。あったかいんだから。考えられない程の醜い思いは、雪に溶けたんだ。赤いモノは、大好き。雪を綺麗に染めるから。ニッコリと綺麗に微笑む君は、息を呑む程に儚かったんだ。右目から生暖かい涙が流れるんだ。幸せな君が憎いよと口から勝手に言葉が飛び出るんだ。そう言って、私はまた眠るんだ。










イレギュラーな君は、また深く眠るんだ。



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