たまにはマニアック過ぎない記事を書こう! ということで、話題の海外ドラマ『ゴッサム』についてまとめてみました。
本当に基礎の基礎から解説するので『ゴッサム』に興味がある人、これから放送やレンタルなどで視聴しようとしている人が、手軽に本編を楽しむための一助となれば幸いです。
1.主役はゴードン
本作はアメリカンコミック『バットマン』のスピンオフであり、まだバットマンが存在していないゴッサムシティが描かれます。
主役はバットマンの正体を知らないながらも、長年彼の盟友・理解者として共に戦ってきたジェームズ・ゴードンことジム・ゴードン刑事。
原作や映画での彼がだいたい50代くらいの中年で登場することが多いのに対し、このドラマではおおよそ30代ほどの若いゴードンが活躍します。
バットマンことブルース・ウェインはまだ年端も行かぬ少年として登場し、つまり『ゴッサム』は『バットマン』の前日譚なのです。
2.『ダークナイト』とは繋がっていない
よくこのドラマの紹介で「あの『ダークナイト』のゴードン刑事が主役」のように言われたりしますが、より正確には「『ダークナイト』で有名になったゴードン刑事が主役」。
『ゴッサム』と映画『ダークナイト』三部作の世界観は繋がっていません。
つまり『ゴッサム』から見始めてもなんの問題もないわけです。
(どちらかというとティム・バートン監督による旧実写映画シリーズ『バットマン』『バットマン リターンズ』に近いゴシックな色合いの方が強く受け継がれている気がします。)
また、先日公開された『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』も本作との関わりはありません。
同じDCコミックス原作のドラマである『アロー』や『フラッシュ』とも今のところ共演の予定はなく、仮にあるとしてもフラッシュが「過去」ではなく「別の次元」に渡るという形でしか実現不可能だと思われます。
現段階では完全に独立した作品なのです。
ちなみに『ダークナイト・ライジング』の公開前から『ダークナイト』三部作完結編のタイトルは『ゴッサム』になるのではないかという噂が一部で流れていました。
フタを開ければ『ゴッサム』はテレビドラマ企画だったわけですが、タイミングを逆算すると『ダークナイト』の大成功を受けて本作の制作が発案・決定された可能性は大いにあります。
3.ゴッサムってどんなところ? 神の消えた街の観光ツアー
タイトルにもなっている「ゴッサムシティ」は主に『バットマン』本編の舞台となる犯罪都市です。
暗く湿った雰囲気でイギリスっぽく感じる方もいるのではないかなと思いますがアメリカの街です。
実際には存在しません。
ここではマフィアによる恐喝や買収によって多くの警官や議員が犯罪者の側になびき、司法がほぼ機能していません。
世紀末とまではいきませんがとても平和とはいえない土地です。
『ダークナイト』を見た方はイタリア系、チェチェン系、中国系など様々なマフィアが幅を利かせていたことを覚えていると思います。
彼らのような通常のやり方では手を出せない犯罪者を捕まえるために、司法を超えて動きだした存在が「バットマン」なのです。
しかしすでに書いたとおり『ゴッサム』ではまだバットマンは誕生していません。
代わりに彼らと渡り合わなければならないのは若き日のジム・ゴードン刑事。
ゴードンは熱い正義漢ですが、理想主義者ではなく、現実的な対抗策としてある程度は清濁併せ呑むスタイルで犯罪と戦います。
4.ヴィランたちの初期微動におののけ!
バットマンが基本的にゴッサムの「ご当地ヒーロー」であるのと同じく、彼と敵対するヴィラン(悪役)たちの多くも主にゴッサム市内で活動をします。
中東系のラーズ・アル・グール、南米系のベイン、アジア系とおぼしきヒューゴ・ストレンジなどもいますが、だいたいのメインヴィランはゴッサムで生まれ育ったり職に就いたりしていると予測されます。
つまり、彼らはこのドラマの時点でも『ゴッサム』のどこかに存在しており、本作では青年期のゴードン、少年期のブルース(バットマン)だけでなく、ヴィランたちの過去も描かれるのです。
すでにジョーカーのような大御所中の大御所はもちろん、ハッシュ、ドールメイカーのようなかなり最近のキャラクターに至るまで、様々なヴィランが登場ないしは言及され、ところどころに未来への伏線が張りめぐらされています。
しかもよくある「それとなく匂わせる手法」ではなく、思いっきり分かりやすく演出するのがこのドラマの特徴。
すなわち、ヴィランたちの在りようが少しずつ原作本編のイメージに近づいてゆく様子を観察することも、このドラマの楽しみ方なのです。
中でもレギュラーとして登場するのが後の
「ペンギン」=オズワルド・コブルポット
「キャットウーマン」=セリーナ・カイル
「リドラー」=エドワード・ニグマ
の三人。
いずれコブルポットは暗黒街の王に、セリーナはバットマンの敵にも味方にもつく盗賊に、ニグマは謎々を用いた快楽犯罪者となります。
特にオズワルド・コブルポットの活躍はもう一人の主役級といっても過言ではなく、ペンギンファンの僕は正直、狂喜乱舞しております。
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いつかバットマンの前に立ちふさがる彼らが、いかにして名を上げ、いかにして壊れていったのか。
その過程の描き方が非常に面白く、原作や映画でキャラクターに馴染みのない人でも、間違いなく楽しめるはずです。
5.原作と差異もある
原作本編との関係性を楽しむのが見方のひとつではありますが、多くのアメコミ世界と同じく『ゴッサム』も厳密にはパラレルワールドです。
特に海外ドラマという予想を裏切ることそのものが様式美となっている媒体の性質上、綿密に折り重なる原作の設定とまったく矛盾を生じさせないということは不可能だと言い切れます。
年齢設定においても、例えばゴードンの相棒・ハーヴィ・ブロック刑事(「トゥーフェイス」=ハーヴィ・デント検事とは別人)はこのドラマではゴードンの先輩ですが原作では年下の部下ですし、そもそも後のヴィランたちも、このままだとブルースがバットマンとして成熟する頃にはほとんどが初老にさしかかってしまいます(ペンギンはそれでもいいけど)。
よって過去編といえども、細かいデータを参照するのではなく、バートン版の実写映画、ノーラン版の実写映画、ゲーム、アニメ、そして原作など、複数のパラレルワールドによって形作られた大まかな「イメージ」を以て考えることが楽しむコツだと僕は思います。
『ゴッサム』は前日譚であると共に「新解釈」でもあり、故に原作の設定を知っていてもなにが起こるのか分からないのです。
6.「悪徳」と「狂気」を楽しむドラマ
「もう一人の主役」オズワルド・コブルポットは後に「ペンギン」としてゴッサムの裏を牛耳る男ですが、このドラマではまだまだうら若き下っ端で、そこからじわじわと裏の世界を駆けあがるサクセスストーリーが大きな見所でもあります。
「バットマン」のヴィランはマフィアたちのような月並みの欲望に突き動かされた犯罪者とジョーカーやトゥーフェイスやリドラーのような信念を動機とする怪人に分けられますが、ペンギンはちょうどその中間に位置する人物です。
地位にこだわり、野心に魅せられるペンギンは一見俗物のようですが、その根底にはコンプレックス故に人に認められたい、そのためにはなんでもするという立派な狂気があります。
大いなる野望を叶えるため、若きコブルポットはゴッサムの現在の王カーマイン・ファルコン、新進気鋭のサルバトーレ・マローニ、ファルコンの部下フィッシュ・ムーニーという既存のマフィアたちが繰り広げる勢力図に身一つで飛び込み、それぞれに取り入って利用しつくします。
肉体ではなく知能で戦うというのはペンギンに限った特徴ではありませんが、その変わり身の早さ、洗練された頭脳、人をチェスのように操る冷徹さ、そしてジョーカーとはまた違う「弱い人間だからこその狂気」には誰もが虜になるはずです。
また、ペンギンとマフィアが中心に据えられることで、腐敗社会の構造がどうなっているかという「悪徳の世界のネタばらし」を楽しめるのもこのドラマの魅力といえます。
しかし、シーズン1の終盤を境に、既存のマフィアたちの時代にはしだいに影が差し始めています。
腐敗しきった街にバットマンが現れて構造が変わり、やがてトラウマや強迫観念を動機とする狂ったヴィランたちが台頭するのが本来の流れですが、このドラマのゴッサムシティではすでに多くの怪人物が現れ始めており、もっと早く狂気の街となりそうな印象を受けるのです。
混沌と化してゆくゴッサムで、特殊なポジションにいるペンギンは、そしてゴードンは、それぞれどのように対応し、どのような決断を導き出すのか。
今後も目が離せません。
画像引用元・権利者:ワーナー・ブラザース
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