田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)
箸が転がっても「安倍のせいだ」といういわゆるアベノセイダーズに加えて、最近は、「戦争が起きる」「アメリカは分裂する」と煽るトランプセイダーズの活動も盛んだ。そしてこのアベノセイダーズとトランプセイダーズはかなり重なっているように思える。たとえば、トランプ氏が予想を裏切って大統領に当選すると、「安倍首相にはトランプ氏とのパイプがない」と大事のように政権の無能力さの象徴とばかりに批判する。
ところが安倍政権はトランプ氏が大統領になる可能性も見越して訪米時にもクリントン氏と会談すると同時に、トランプ氏側にも「保険」としてつながりを構築していた。その成果もあってか、安倍首相はトランプ次期大統領と直接会談を行う見込みだ。ところがこの会談の報道が行われると、今度は「植民地の代表が行くようなものだ」などと批判する。本当にいつまで経ってもまともな検証が行われないまま、揚げ足取りを繰り返すのがこの種の人たちの未来永劫変わりそうもない所業である。
危機は煽ったもの勝ちな側面はある。例えば、「TPPはアメリカの陰謀であり、日本が植民地化される」「TPP賛成という者は亡国の徒だ」という脅し文句は、政治勢力の左右問わず言われてきた「危機」論だ。このTPP亡国論とでもいうべきものは、アメリカという超巨大国家のイメージを悪用した、政治的なプロパガンダの一種だといって差し支えない。脅しによって利益を得る人たちは、主に三種類いる。
ひとつは、貿易の自由化によって不利益を得る人たちだ。そしてこの不利益を得る人たちはまま衰退産業で働いている人や規制で分厚く守られている人たちである。もうひとつは、危機を喧伝することを商売にしている言論人やマスコミである。「危機」も10年、20年続けていっていれば、たまには当たるかもしれず、その意味では割りのいい商売かもしれない。そして、最後のひとつは「危機」的な煽りを好んで消費する人たちだ。これは認知的なバイアスの一種なのだが、残念ながら合理的な推論に導く有効な手段(啓蒙方法)に乏しい。
私の知る範囲でも、日本経済や財政の破綻論が好きな人は実に多く、危機論をまったく信じきっている。特にネット動画などのヘッドライン(見出し)で、物事の判断をする人が多い。評論家の古谷経衡氏は「ヘッドライン寄生」とそのような消費態度を表現したことがある。ただ危機や破綻発言を好む認知バイアスは、前二者の政治的勢力と無責任な言論人のもたらしたものであることは間違いない。破綻論を好んで信じている多くの人たちは、その意味では無責任なマスコミや言論人の「犠牲者」である。