最近の若者に考える力がないのは何故か?
今年は、大学や高校で講義を持たせてもらう機会に恵まれ、たくさんの学生さんと起業・ベンチャー・進路・キャリア設計といったトピックについてディスカッションさせてもらいました。
現在レギュラーで単位を持たせてもらっている京都工芸繊維大学、普段から出入りのある京都大学、角川アスキーさんの声掛けで参加した佐久平総合技術高等学校、今月と来月で神戸大学と愛知東邦大学でもスポットで講義を持たせてもらう予定です。
しかし残念ながら、講義の回数を重ねるに連れて、自分の中で1つの不満というか、危機感に近いものが芽生え始めてきていまして、それらを整理する意味で、ここらへんでブログにまとめてみました。
「最近の若者に考える力がない」っちゅーのは、要するに「考えなくても生きていける世の中になってしまっている」ということだと自分の中で定義してます。
さらに分かりやすく言えば、他人が作ったものをコピペするだけで、学校でも職場でも、それなりにやり過ごせてしまう状態に現在の日本はなってしまっとるという話です。
これも残念な話ですが、自身が経営するベンチャーでも20代のメンバーに、このパターンが顕著に見られます。ある企業向けの提案書を自分で作るというので、しばらく時間を与えて任せたところ、出てきた提案書を見て、久しぶりに心底愕然としました。それは、提案書の中身が9割、自分が過去に作った提案書のコピペで作られていたことです。
本人は過去に実績のある提案書の内容をできるだけ流用することで、自分の提案書の成功率を少しでも高めようと思ったのかもしれませんが、これを見た自分の最初のリアクションは「あー、こいつは考える力が完全に欠落しとるな」の一言です。
ハッキリ言っていいですか。コピペだけで仕事をする人間はただの給料泥棒です。
いまの学生さんも、ネットを使いこなすのだけは本当に上手なので、ビジネスアイデアや事業プランを出せと言えば、それなりの資料を作ってきます。それこそ、過去の事例から類似のアイデアまで片っ端から調べて、ほんまに上手に作ってきます。
せやけど、そこには何もオリジナリティも無い。どこかで聞いたアイデア、どこかで見たスライド、どこかであった事例。そんなんばっかです。投資家的に言えば Why you? (なぜ、あなたがこれをやる必要があるのか?) と What’s your secret sauce? (誰にもマネできない差別化ポイントは?)の2つの質問に全く答えられないのです。
100歩譲って、学ぶ立場にある学生は、ある程度のコピペは良しとしましょう。でも、プロとしてお金をもらっている立場にある社会人は、コピペは絶対にアカン。プロとしてコピペが許されるのは、アナリストという職業だけです。
自分は、すぐにコピペしてしまう最近の若者の将来をかなり心配してます。これからAI(人工知能)やロボットが業務の中にもの凄い勢いで侵食してくる時代に、唯一人間がAIやロボットに勝る点が「ゼロから考える」という部分だからです。
逆に言えば、ゼロから考える力がない今の20代の人は、AIやロボットと同じ仕事を、何万分の1のスピードでこなすだけの超非効率なワーカーになるでしょう。もっと言えば、月給は死ぬまで10万円とか20万円のままです。いや、もしかしたら1万円とか2万円かもしれません。
「いやいや、パワポ資料のコピペですら、今のAIはできてないやんか」と言われるかもしれませんが、自分が言っているのは今から5年後とか10年後の話です。ここ1〜2年の爆発的なAIの進歩を考えたら、10年も経ったら、人間にしか出来ないと言われていた仕事の相当部分がAIに置き換わっているはずです。
自分はAIとロボットの侵食によって、仕事を失う可能性が最も高いのは、よく言われるITリテラシーが低い中高年層ではなく、むしろ、考える力が完全に欠落した今の若者の方だと思ってます。
なぜなら、中高年層は過去の経験によって培われた誰にもマネできないスキル(secret sauce)を持ち、過去の経験を点と点でつなぎ合わせることで目の前にある事案に即座に新しいアイデアで対応する力があり(ただし、過去の成功体験の断片的なミックスであることが多い)、これらは両方ともAIやロボットでは代替できない部分だからです。
悲観的な話はこのへんにしときましょう。
では、そうすれば、今の若者はゼロから考える力を身につけることができるのか、という話です。まず、極論ですが、もう20代後半の人はアウトやと思います。人間の脳ミソは、どんなに努力しても20代前半までが伸びしろ。その後は、過去の蓄積の上にあぐらをかくのがせいぜいです。
考える力というのは、ニューラルネットワークで言うところのニューロン同士の結合に他なりません。コピペという行動は脳ミソを使っているようで、ニューラルネットワーク的には相当に弱い結合レベルに留まっていると考えます。
つまり、「どこどこのサイトにいけば目的の情報が得られるはず」とか「Googleにこういうキーワードを入れたら答えが出てくるのでは」とか「先輩が過去に作った資料のあのページをここに入れれば良いのでは」という手段に関する情報は脳ミソに入っていても、肝心の答えに該当する情報自体は自分の脳ミソに入っていないため、ニューロン同士の結合が脳ミソの中でほとんど発生していません。
あえて言えば、この場合のニューロン結合はインターネット上の情報と人間の脳ミソの中にある情報の間で発生している状態。これは、脳科学的な意味でのニューロン結合が発生しているとは呼べず、要するに頭を使っていない状態なんやと思います。
考える力をつけるといっても、本当に無の状態からいきなり何かを発明することはできないので、とにかく最初はいろんな情報を脳ミソをインプットしてやる必要があります。ただし、この「いろんな」という部分が重要です。
小学校・中学校・高校・大学での勉強を通じて自分の脳ミソに突っ込む情報は、情報の多様性という観点でみれば、かなり偏った情報です。考える力が欠落している人は、学校の勉強はそこそこできても、人生体験が非常にフラットであるであることが多いです。
一方で、小さい頃から父親の仕事の影響で世界各地を転々としながら育った、ヨーロッパの小国に生まれて家庭の環境上4ヶ国語を話しながら大人になった、内紛から逃れるために両親と小さい時にアメリカに亡命した、といったフラットではない人生経験を持つ人の発想力、つまり考える力は、凡人が考える域をはるかに超えます。
そういった人生経験を持つ人は、学校で学ぶ五教科の情報なんかよりも、よっぽどバラエティに富んだ情報を脳ミソに蓄えているので、大人になった時に目の前の事案に対して、とっぴょうしもないアイデアで答えを出してくることがよくあります。自分の経験上、イスラエルの人にこのパターンを多く見たことがありますが、やはりこのあたりが関係していると思ってます。
では、普通に日本に生まれて、普通に日本の小学校・中学校・高校・大学に通って、普通の人に囲まれながら人生を送ってしまっている場合は、どうすれば自分の脳ミソに入ってくる情報の多様性を広げられるのでしょうか。
これが、自分がいつもセミナーや講義で繰り返し言っている「自分の周りにいる、ぶっとんだヤツと付き合え」の真意です。
ぶっとんだヤツといっても、地元で一番のヤンキーとか、株取引で月商100万円稼いでいる学生とか、というヤツではないです。仮にその分野にオリンピックがあったら、必ず金メダルと取るようなヤツです。その分野は、アートでも早食いでも合コンでも何でも良いです。
ぶっとんだヤツと付き合うと、自分の中の常識というか、固定観念がガタガタと音を立てて崩壊していくのが分かる瞬間が必ず訪れます。これこそがまさに、将来の「考える力」になるネタ、つまり新しい種類のニューロンを脳ミソの中で得ている状態です。
ぶっとんだヤツというのは、他の人間が持っていないような強烈な価値観や経験を持っているので、これらを吸収するのです。最初は会話が続かなくて居心地が悪いでしょう。ましてや外国人であれば、言葉も通じなくてイライラするでしょう。
でも、そういった経験を避けてきた結果が、いまの日本の大多数を占める「考える力がない若者」を産んでしまっているのです。
繰り返しますが、20代後半の人は手遅れです。できるだけAIやロボットが進出してこなさそうな業界や職種にチェンジして、AIやロボットが進出してこないことを残りの人生で祈りましょう。10代と20代前半の人は、いますぐに自分の周りにいるぶっとんだヤツを見つけて友達になりましょう。
最後に一言、「アイツは変わっているヤツだ」というタイプの人間が、これからの世の中でAIやロボットに置き換えられない唯一の存在だと思います。普通の人はじわりじわりと、しかし確実にコンピューターと機械によって居場所がなくなります。率先して、変わっているヤツになりましょう。
ちなみに、自分は政治家ではないですが、税金をおかしなものに浪費するくらいだったら、大学の4年間のうち、1年間か2年間を強制的に海外で過ごすための生活費支援に回した方が、日本の未来は明るくなると真剣に思ってます。