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マタニティマーク
不安が引き起こす動き

ピンクのハートの中に、お母さんと赤ちゃんのイラストが描かれたマタニティマークが作られてことしで10年。今、妊娠中の女性たちから、「マタニティマークをつけづらい」という声が上がっています。なぜマークをつけづらい社会になっているのか、シリーズでお伝えしています。2回目はマタニティマークをつけることへの不安が引き起こした動きと、NHKのニュースポストなどに寄せられたご意見をお伝えします。

不安の声に反応した企業も

「マタニティマークをつけていると嫌がらせにあう」。
今ネット上にこんな声がたくさん書き込まれています。こうした情報が事実かどうかはわかりません。しかし妊娠した女性たちの間ではこうした情報を不安に思い「マタニティマークをつけづらい」という声があがっています。
そしてこうした不安の声は、企業にとっても無視できないものになっています。13年前から妊娠中の女性向けに雑誌を発行している出版社。妊娠中の女性向けの雑誌は3か月に1回、毎回10万部を発行しているといいます。

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5年前からは、マタニティマークをもっと普及させようと雑誌の付録としてマタニティマークのマスコットを作成してきました。つけていてうれしい気分になるようにデザインは色鮮やかでかわいらしく。当初は読者から「マタニティマークに気付いてもらえない」という悩みが寄せられていたことから、大きさも、自治体などで配布されているものよりも1.5倍ほど大きく、直径5センチほどのものを付録にしていました。初めは好評だったという付録のマタニティマーク。
しかし、編集長の尾花晶さんが読者の声の変化に気がついたのは、3年ほど前でした。
「もっと小さなものがほしい」「目立たないほうがいい」。
マタニティマークは目立ったほうがいいという尾花さんたちの考えとは全く逆の声が増えてきたのです。
さらに1年ほど前からは「マークを強調しすぎると狙われると聞いた」「わざとぶつかる人がいるといううわさを聞いた」などマークをつけること自体が不安だという声も目立つようになりました。

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“嫌がらせを受けるという話が本当かどうかはわからない。しかし、不安の声は増えている”。編集部では、「妊娠中だと周囲に気付いてもらうためには大きめのマークがいい」という読者からの声と、「目立ちたくない」という声と、どちらを優先すべきか議論を重ねたといいます。
そして最終的には、「目立ちたくない」という読者の声が急激に増えてきていることもありことし1月号の付録では、裏返すとマタニティマークだとはわからないデザインにしたのです。このデザインなら体調がよい時期など妊娠していると気付いてもらわなくても大丈夫と思う場合は、裏返しにしておくことができます。
さらにその後の付録では、マークの大きさをこれまでのおよそ半分の直径3センチほどまで小さくし、色も淡い色合いにして目立ちすぎないようにしました。

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編集長の尾花晶さんは、「周囲にマタニティマークに気付いてもらえなければ意味がないと考えていたのでサイズを小さくすることに葛藤もありました。しかし、不安を感じている妊婦さんにもマークをつけてほしい。そのためには『目立ち過ぎないほうがいい』という声に答えざるを得なかった」と、苦渋の決断でデザインを見直した理由を話していました。
「読者の声ではマタニティマークをつけていて嫌がらせを受けたというものより世間の優しさに触れたという声のほうが実際には多い。出版社としてマタニティマークの意義をもっと発信していかなくてはならないと思っている」と話す尾花さん。

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付録のマタニティマークは目立ち過ぎないデザインのものになりましたが、付録を紹介するページには、「マタニティマークには万が一外出中に倒れたりした時に、妊娠中ということを周囲にわかってもらい、適切な処置につなげる役割もあります」などと書きマタニティマークをつけるように呼びかけるようにしました。また、来月号では読者の反応を探りたいとマタニティマークを今より少しだけ大きくし、マークをつけようと呼びかける記事も掲載する予定だということです。

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いただいたご意見から

妊娠している女性たちの間に広がっている、マタニティマークへの不安。マークをつけていて嫌な思いをしたという体験や、ネット上の情報を見聞きしてマークをつけづらくなったという女性の思いをお伝えした前回の特集には、NHKの情報投稿窓口「ニュースポスト」への投稿を始めさまざまなご意見をいただきました。

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妊娠9か月という女性からは「マークをつけてもみな見て見ぬふり。1メートルほど離れたところから5,6回拳を振り下ろすしぐさをされたこともあります。マークをつけている意味がわかりません」という声が寄せられました。
一方、34歳の女性からは、「マタニティマークに気付いて席を譲っていただいたことも多々あり、私自身はとても助かりました。マークをつけていたことで嫌な思いをしたことは一度もありませんでした」という声もありました。
また、「妊婦への嫌がらせは極めて限られた少数のケース。それが一般的な問題のように扱われているのではないか」など、嫌がらせはごく一部で、社会全体に広まっているものではないという意見。さらに「ネット上の情報の真偽がわからないまま広がり、妊娠中の女性たちが過剰に不安を感じているのではないか」といった意見もありました。

アンケートでは?

NHKが産婦人科の両親学級に参加していた妊娠中の女性など70人余りに行ったアンケートでも、「足を出されて転びそうになった」というケースも1件ありましたが、「電車やバスで席を譲ってくれた」「荷物やベビーカーを運んでもらった」など、マタニティマークをつけていたことで配慮してもらったという記述も多くありました。
一方で、「いちばん体調が悪い妊娠初期は、マークをつけていても気付いてもらえなかった」。「席を譲ってもらったのはおなかが大きくなってからだった」という意見も目立ちました。それについて、気になるデータがあります。

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マタニティマーク 意外と知らない?

2年前内閣府が行った調査の中にマタニティマークを知っているかどうかを、全国の男女にたずねたものがあります。調査人数は1888人。
このうち「マタニティマークを知っていた」と答えた割合は46.8%。半数を切っているのです。特に男女差と年齢による差は大きいものがあります。男性で「マタニティマークを(意味も含めて)知っていた」と答えたのは31.2%。3人に1人にすぎません。一方、女性では57.6%です。また20代や30代は70%近くが知っていましたが、60代では38%。70代では29.9%です。

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2年前の調査ですから今は当時より認知度はあがっているかもしれません。しかしおなかの目立たない妊娠初期などは、マタニティマークをつけていても、周りの人がマークの意味を知らず妊娠していると思わなかった可能性があるのです。見た目に妊娠しているとはわかりにくい妊娠初期こそ、赤ちゃんの成長のために大切な時期であり、女性にとってもつわりに悩まされるなど心身ともに大変な時期です。それに気付いてもらうためのマタニティマークの認知度が、まだまだ不十分なことも課題のひとつだと感じました。
次回は、マタニティマークをつけづらいという現状に警鐘を鳴らす専門家などの声をお伝えします。(次回は20日に掲載します。)

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    NHKの情報投稿窓口「ニュースポスト」
    マタニティマークに関する体験やご意見をお寄せください。

飯田暁子
報道局
飯田 暁子 記者