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1 二次創作ガイドライン違反の通報について思うこと
とある方が、ガイドライン違反作品を運営に積極的「通報」しようというエッセイを書かれていたので、それについて自分の考えを書きます。
これはあくまで「通報」行為に関する私の考えを書いたものであり、その方を批判する目的ではありません。
私は、こうした運動には断固として反対したいと考えています。ガイドライン違反への対処は、運営が自らその作品を見つけた場合のみで良いと思います。
というのも、近年のライトノベルは、商業出版されているような作品も含めて、表現に萎縮が起こり過ぎだと思う点があるからです。
だとえば、企業名に伏せ字が入っている作品。作中の主要な位置を占める場合はともかくとして、一般小説では文化的背景として実在する企業が実名で登場するなんて普通にあることです。作中での企業名の使用は、「商標的使用」(作品がその企業のものであることを示すような使用方法)ではないので、商標権の侵害になるわけではありませんし、作中に普通に使うことが民法709条にいう不法行為に当たるとは到底思えません。
なろうには企業名に関する特段の規程はないので、商標的使用や名誉毀損に当たるような使用方法でなければこの点は問題ないと思います。
なろうで論点となるのは、既存キャラクターの使用についてですが、「通報」が加熱すれば、これについても似たような萎縮が起こってしまう危険があり、ネット小説やエッセイ、ライトノベルやキャラクター文芸の表現の幅を、一般小説や実用書よりも狭めてしまうことになりかねません。
ガイドラインに二次創作に関する規程はあるものの、二次創作の明白な定義が書かれているわけではありません。
その方が「通報」例として挙げられていたものの中には、専らの二次創作だけでなく、パロディのようなものまで含まれていました。
その方は実際に「通報」してみた作品が警告を受けたことを理由として、その作品がガイドライン違反だったと判断しているそうです。
しかし、企業のプラットフォームにおける禁止ガイドラインは、万が一のトラブルがあった場合に、「こういうガイドラインを設けていました」という抗弁として利用するため、広めに設定されている場合が多いです。したがって、本来なら運営が見つけても放置していたような作品まで、「通報」により削除されてしまう可能性があります。
私は、既存のキャラクターを主人公とした作品や、作品全体として既存の世界観を舞台にした作品が二次創作に当たることに異論はありません。しかしながら、そうした極一部の例外を除いては、できる限り表現の自由を尊重すべきであると思います。そして、明白な二次創作についても、運営が自ら見つけた場合に対処すれば良いと思います。
たとえば、単にキャラクターが登場する作品の場合、「登場」とは何を指すのでしょうか
「~といキャラクターのような」という比喩。実在する作品を文化的背景に用いること。パロディ。
特にノンフィクションのエッセイの場合、「~という作品を読んだ/見ていた」「~というキャラクターが夢に出てきた」などを書く必要性も出る場合も多いと思います。
そして、これらは、ネット小説どころか、商業出版されている書籍においても普通に行われています。
たとえば、自分が好きなSF作家である山本弘さんの作品には、実在の作品が文化的背景として登場するもの(「シュレディンガーのチョコパフェ」など)や、キャラクターを比喩に用いるもの(『ギャラクシー・トリッパー美葉シリーズ』など)が普通にあります。ノンフィクション作品でいえば、『ボクには世界がこう見えていた』という元統合失調症の方の体験談なんかも、幻覚にキャラクターが登場する場面があります。それから、「(作品名)に学ぶ~」みたいな自己啓発本も結構ありますよね。
現時点においては、なろうにおいてもそうした作品は存在し、自分の作品においても、実在のキャラクターや作品を比喩として用いたり、文化的背景として登場させたりしています。(一部ぼかしたりもじったりしている場面があるのは、文章や世界観的にそのまま書くとクドくなるからという理由に過ぎません)。
そして、もし「通報」が加熱した場合に、上記のような商業でさえ普通に行われている表現が、ネット小説のプラットフォームにおいて萎縮してしまうという状況が生まれる可能性があるのではないでしょうか。
そして、「小説家になろう」はネット小説の大プラットフォームであり、商業出版されている作品も数多くあります。今まで普通に行われていた表現への萎縮が、かなり広範囲に波及するわけです。
そもそも日本においては、判例上、キャラクター自体は著作物ではないとされていています。判例で著作権が認められたのはあくまで「キャラクターの図柄」についてのみです。
したがって、投稿作品が、キャラクターが登場する原作品自体の複製や翻案とみなされるような場合はともかく、キャラクター名を単に文字列として記述したことで、著作権侵害になる可能性は限りなく低いと言えます。
最近の話だと、『ゲーム・ウォーズ』という海外VRMMO小説が和訳出版されました。この作品には、既存のキャラクタが数多く登場します。
そもそも、「小説家になろう」は少し前まで明白な二次創作も可能なサイトだったんです。
私は商業で可能な表現はもちろん、商業では何となく雰囲気で忌避されているような表現についても、ネット上のプラットフォームは寛容であり続けて欲しいと思っています。
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