革新的なアイデアに基づいて考案され、数ある仮想通貨の中でも圧倒的なシェアを誇るビットコインであるが、世界の主要通貨と肩を並べるにはまだまだ先が遠いようである。では、ビットコインが流通を拡大していく上で、具体的にどのような部分が改良されるべきなのか。岩村教授へのインタビューでは、1.価格の安定性と、2.取引を支える構造の持続性の2点が挙げられた。
第一に、ビットコインは市場価格を安定させる構造を獲得しなければならない。ビットコインは供給ペースが固定されており、マイニング産業におけるマイナーの参入・退出の影響がコインの市場価格に直接反映する仕組みになっている。これが、ビットコインが投機的な価格の乱高下を起こしやすい理由である。ビットコインの価格を安定させるには、マイナーの参入・退出に応じてコイン供給ペースを変動させる仕組みに変更しなければならないのであるが、これはビットコインのシステムの根本に関わる問題であるため、易々と改められないのが現状である。
第二に、ビットコインは取引を持続的に維持する仕組みを作る必要がある。現在、ビットコイン1取引当たりの費用は約20ドルである。これは国際送金の手段としては安価であるが、国内での取引に使用するには極めて高額である。この取引費用は採掘によって新たに供給されるビットコインによって賄われており、これを経済学ではキャピタライゼーションと呼ぶ。問題は、ビットコインの供給量は長期的に見れば減少していくように設計されているため、キャピタライゼーションによって取引費用を維持する現在の構造が将来にわたって持続する保証はないということである。取材の中でこの問題に対する明確な回答は示されなかったが、ビットコイン発行上限の引き上げを含め、取引コストに見合うビットコインの供給を維持するような試みが今後なされるのかもしれない。
以上のような問題を抱えるビットコインであるが、今後新たなイノベーションによって課題が解決される可能性は大いにあるだろうし、ビットコインの弱点を克服した新種の仮想通貨が台頭してくることも十分に考えられる。いずれにせよ、発展を続ける仮想通貨が現実の貨幣と肩を並べ、互いに競い合う時代が到来するのも、全くの夢物語ではなさそうである。フリードリヒ・ハイエクの主張した「通貨間競争」の考え方に則れば、通貨当局同士が協調してインフレを誘導しようとする現在の情勢は不健全の極みである。こうした状況の中で通貨の管理主体を持たないビットコインのような仮想通貨が存在感を増せば、通貨協調の風潮は競争に転じるだろう。減速する世界経済を好転させる契機は、仮想通貨によってもたらされるのかもしれない。