画期的なアイデアから生み出されたビットコインであるが、今後どのような形で普及していくのだろうか。そして、ビットコインが十分に広く普及したとき、我々にはどのようなサービスが提供されるようになるのだろうか。 Mt.Gox の事件で取り上げられたコインのセキュリティ面への疑問と合わせ、株式会社 bitFlyer 代表取締役の加納裕三氏にお話を伺った。
Q. 1 ビットコインのメリットと現在の普及状況についてお聞かせください。
ビットコインのメリットとして一般的に言われているのは、決済手数料が安いということです。海外送金では、日本の銀行の場合だと4,000円から8,000円、数万円、それに加えて為替手数料で1%ほどが手数料としてかかります。例えば1億円の送金の場合、100万円以上の手数料が掛かる計算になりますね。一方で、ビットコインでは国際送金という概念がそもそもないため、国内でも国外でも20円から100円の手数料での送金ができ、究極的には手数料を無料にすることも可能です。また、国際通貨のような役割をも担うことが出来るため、手持ちのお金を一度ビットコインにしてしまえば、他国の通貨に変換する必要が無くなるのも利点です。現在では200種類ほどの仮想通貨があるのですが、ビットコインはそのうちの95%のシェアを占めています。ですから、仮想通貨における今のところの勝者はビットコインであると言えます。将来的にビットコインの価値記録圏(物の価値をビットコインで測ること)が確立された場合、売り上げや仕入れをすべてコインで行い、現金を一切介さずに商売することも可能となります。一般消費者も、ビットコインで給料を受け取り、ビットコインで決済ができるようになります。もしここまで利用が浸透すれば、決済手数料、送金手数料、為替手数料からの解放、通貨の国際性や匿名性というビットコインの持つメリットが形を持ってきます。現在の日本においては、日本円が国際的な信用を持っているために、ビットコイン特有のメリットを認識しにくいのです。しかし、発展途上国では、自国通貨よりもビットコインの方が高い安定性を持っているケースも多いです。そうした国々では、ビットコインへの需要が見込めます。ビットコインの現在の普及状況は、発行高にして8,000億円ほどです。ビットコインの発行上限は2,100万コインまでと設定されていまして、現在は10分に1回、25コインがマイニングで新規に発行されています。このマイニングによるビットコインの供給ペースの半減期が4年となっています。そして、供給ペースが次第に落ちていきながら、コインの総発行数は上限である2,100万枚に漸近する仕組みになっています。ビットコインは日本ではまだほとんど普及していません。こうした現状から、何とかビットコインが普及できるようにしていきたいと考えています。
Q. 2 ビットコインの利用禁止や法的規制を講じる諸外国もある中で、日本はビットコインへの規制を 行っていません。ビットコインへの法的規制の在り方について、どのようにお考えですか。
これはかなり難しいトピックです。ビットコインに限らず、新たなビジネスが出現したとき、法規制をすべきかすべきでないかは常に議論となることです。そしてこうした問題において、事業者にとって規制が無いほうが良いとは一義的には言い切れません。何でも自由にできるようなビジネスは衰退の道を辿ることも多いのです。牧羊地で羊を自由に放牧すれば、やがて草が枯渇して羊も死んでしまう、という例え話もあるくらいですからね。一般論としては、規制は必ずしも害悪ではありません。とりわけビットコインの場合は、規制をしたほうが良いというのが個人的な見解です。もし今後も規制をしなければ、事実上ビジネスの続行が不可能になってしまうと考えています。具体的には、マネーロンダリングであったり、資金決済の国際的な信用であったり、そういった問題を野放しにすると、消費者が詐欺の被害にあう可能性があるのです。かつてイランのディナールという通貨をレートの100倍の値段で売りまわった詐欺事件があったように、無知な消費者をターゲットにして、レートからかけ離れた値段での取引を目論む業者が現われるリスクは大きく、例えばリップルという仮想通貨では、相場の10倍の値段で取引している業者が既に存在しています。しかし、こうした行為も当事者間の合意がある以上は商売として成立しているので、これらを直ちに違法と断罪するのは難しいことです。ですから一般論としては、ある程度の法規制によって消費者を守るのが望ましいと考える人が多いということです。しかし、現在日本政府からはビットコインへの法規制を見送るという指針が出ています。ですから、事業者間での自主規制という形で対応をしています。
[編集注]規制の内容については、JADAガイドラインをご参照ください。以下のURLからご覧いただけます。
http://jada-web.jp/?page_id=17
Q. 3 ビットコインの普及に向けた展望、将来性についてお聞かせください。
ビットコインにはかなりの将来性があると考えています。とりわけ、ビットコインの基礎となっている技術である、「ブロックチェーン」というシステムに大きな将来性を感じています。ブロックチェーンは、過去10年間のフィンテックにおけるテクノロジーにおいて最大のイノベーションであると考えます。ビットコインの普及に関する将来的なヴィジョンとしては、既存の通貨が歩んできたような道を一通り歩くことになるだろうと予想しています。具体的には、信用取引やデリバティブ、 ETF やローンなどといった方向性での活用が想定されます。既に GMO との提携によって、店頭で携帯電話を用いたビットコイン決済を行えるようなサービスの開発を進めており、近い将来に提供できるだろうと考えています。また直近の話題としては11月11日に、スマートフォン用アプリケーション「bitFlyer for iPhone」をリリースします。このアプリケーションでは、チャートを見ながらビットコインを売買することが可能でして、こちらもGMOとの提携です。将来的には、 iBeacon という技術を使うことにより、お店で簡便な決済ができるようにもなるでしょう。 iBeacon は店側のレジと連携していて、客は携帯に表示されたメニューから商品を注文し、店側は店内の座席の位置情報と照らし合わせて客に商品を提供します。こうなれば、 Suica に代表される現在の電子マネーのように、利用時にわざわざカード を読み取り機にかざす必要もなくなるわけで、より単純に決済が行われるようになります。私たちとしては、1年以内にこうしたサービスの実現に漕ぎ着けることを目指しています。このような簡便な決済システムを確立できれば、例えば割り勘をしたいときにもアプリの操作ひとつでできるようになり、煩雑な計算はもはや必要ありません。これがビットコインの近い将来であり、到達可能なものだと考えます。
更に遠い将来を見越したものとしては、IPO2.0 という構想があります。一般に株式上場のことを IPO といい、IPO によって企業は莫大な資金を調達することが出来るようになります。そのため、多くのベンチャー企業の社長は上場をひとつの目標にしています。しかし、実際に上手く上場できるのは数百社に1社ほどであり、その間に多くの会社がチャレンジと失敗を繰り返しています。 IPO2.0 とは、この株式上場の手続きをビットコインによって行うシステムのことです。ブロックチェーンにその会社の株式にあたるものを書きこんで、資本をビットコインに支払うことにより、どこにも登記されていない会社を作り出すという仕組みです。いや、登記自体はブロックチェーンになされているとも言うことが出来ます。そして、ビットコインを支払った人が投資家となります。そもそも上場とは見知らぬ人に会社の株式を公開することと同義なのですが、これをいきなりやってのけることが出来るのが IPO2.0 のメリットであり、未来の会社の形態であるともいえます。
ブロックチェーンの画期性を活用したものとして、ストレージサービスを挙げることも出来ます。現在の Google Drive や Dropbox といったストレージサービスは、ただ単に世界中の何処かにある巨大なハードディスクにデータを保存しているだけのものです。しかし、ブロックチェーンを使えば、ファイルの断片をブロックチェーン自体に書きこんでしまうことが出来ます。こうすると、世の中にあるブロックチェーンすべてがファイルサーバーになります。他者のローカルドライブに無関係なファイルを書きこんでいくという点で非効率的なサービスですが、それでも一つのストレージサービスとして機能させることは可能です。
もしこうしたサービスへの資金調達を先述の IPO2.0 によって行えば、実社会から全く孤立した会社が出来上がります。円やドル、登記には一切触れる必要が無く、税金を無視することも出来ます。しかし、既存通貨の流動性は現在だと1日の取引量が60~70兆円ほどですが、ビットコインはまだ50億円/日しかありません。1万倍の差があります。世界中のベースマネーがおよそ1,000兆円に対し、ビットコインは8,000億円です。これも1/1000ほどの規模にすぎません。よくビットコインが既存のフィアット通貨を駆逐するのではないかという議論がなされますが、これは時期尚早でして、せいぜい現実通貨の1%が限界でしょう。また、時間がたてば既存通貨を駆逐できるかというとそうでもありません。通貨としての機能を考えると、既存の中央銀行システムが機能的である面も多いです。インフレ調整や短期金利といった、通貨を管理するうえで便利な仕組みが、ビットコインには存在しないのです。従って、ビットコインの技術的な将来性は十分にあるものの、流通量の将来性という点では既存の通貨に比べ劣るというのが現状です。
Q. 4 ビットコインについては、 Mt.Gox 経営破綻の一件が記憶に新しいですが、ビットコインのセキ ュリティ面での問題はどのように解決されるのでしょうか。
ビットコインのセキュリティを2種類に分類して話しましょう。ビットコイン自体にあるセキュリティ問題と、コンピュータのシステムの構築としてのセキュリティの2つです。後者はごく一般的なセキュリティの問題でして、サーバーの SSL やセキュリティパッチの取り扱いなどを指します。これに対し、前者のビットコインのプロトコル自体は今まで誰もやったことのないセキュリティ対策で、新しいチャレンジと言えます。このビットコイン特有の問題として、 Mt.Gox の一件に関連して発生したものにトランザクション展性の問題が挙げられます。これは、トランザクションと呼ばれるビットコインの取引の形態がコピーできてしまうというバグです。
一方で、ビットコインとは関係のないシステム設計にも問題はあります。 Mt.Gox の場合は極めて杜撰なシステム設計でした。このことは、 Mt.Gox 内のプログラムが PHP というプログラミング言語で書かれていたことがよく示しています。一般に企業の基幹業務システムの設計では C++ 、 C や Java といった堅牢なプログラム言語が使用されるのが普通なのですが、 Mt.Gox 社ではシンプルな反面、セキュリティに難のある PHP が用いられていました。他にも企業の内部管理体制が整っていなかったという報道もなされていました。結局のところ、 Mt.Gox 社の事件は、ビットコインに関連したニュースというよりはむしろ、 Mt.Gox 社の単なる内部的責任、設計ミスや管理ミスに近いものであると考えています。
Q. 5 JADA の業界内自主規制では、 Mt.Gox のような悪質な会社に対してはどのような対処を考えていますか。
まず、 Mt.Gox 社を悪質というのには語弊があります。報道から分かる限りでは、 Mt.Gox 社の事件はセキュリティや内部管理の杜撰さによって起こった問題であり、違法行為はしていないとの認識です。悪意を持ってわざわざ自分の会社の設計を杜撰にしたとは考えにくいですし、形式上 Mt.Gox は窃盗の被害者と思われます。では、そのような業者がいたらどのように対処するかという点ですが、事業者連合である JADA の方で加入基準を設けて、システムセキュリティ上の基準をクリアできなければ JADA への加入を認めないという形で未然に防止しようと考えています。このセキュリティ上の基準には、内部管理や実際のオペレーションなども含まれるので、杜撰な管理をしそうな業者についてはそれによってフィルターできると考えています。
Q. 6 ビットコインのシステム自体の話で、マイニングにマイニングプールが生じ、51%問題のような形でセキュリティが脅かされる可能性があるのではないかと考えていますが、こちらについてはどのようにお考えですか。
51%問題のようなセキュリティ攻撃に対する心配はありません、可能性はゼロではないのですが、極めて低い確率でしか起こらないと考えています。まず51%問題というのは、ビットコインが多数決の構造によって運営されているので、虚偽のトランザクションのハッシュを51%混入してそちらが正しいと見せかければ、通過させることが出来るという問題です。多数決制を逆手に取った行為で、理論上は51%を取ることで確かに実行可能です。しかしこれが現実に行われるかと言えば、行われないと思います。何故なら、マイニングプールというのは文字通り「プール」になっていて、何人もの人間がマイニングに参加し、投資をしています。もし51%問題を実際に起こすとして、マイニングプールにいる人々に、多量のビットコインを所有しているように見せかけるとするとします。すると、通常次のブロックの生成タイミングまで10分の時間がありますから、10分後に自分の取引が認証されていないことに気付いた世界中の人々が Twitter などのネット上で騒ぐことになります。取引が認証されないことをオーファン・ブロックと呼びますが、通常これが発生する確率は1日に3個なので、世界中の人間が同時にオーファン・ブロックを経験するという、あり得ない事態が発生したことになります。そして、あるトランザクションのところに集中的に大金が流れ込み、独占的に認証を受けているということ、そのような操作を誰が行っているかということはすぐに判明するでしょう。そうなれば、コインの価格はおそらく大暴落し、ビットコインのシステム自体が崩壊します。しかし、これは攻撃を仕掛ける側にとっても不都合な話で、オーファン・ブロックを発生させるために投資した何十億・何百億というコインも暴落するので、攻撃する行為そのものが経済的に価値を持たないものになってしまうのです。百億円を使って壮大な嫌がらせをしようとする人がいるというのなら話は別ですが、ビットコインのシステムに参加している人には概ね経済合理性があるでしょうから、結局攻撃の可能性は殆ど考えられません。
Q. 7 他の仮想通貨に先行投資し、あえてビットコインの価値を下げることで、他の新規仮想通貨の方にユーザを誘導するといったことも考えにくいでしょうか。
もしそうすれば、新規仮想通貨を大量に所有している人が発覚するので、当該通貨を避けて第三者が新しくコインを作る可能性が高いです。例えばコインAをたくさん持っている人がいて、百億円かけて他のコインをすべて潰すことが出来たとしても、他の人が残ったコインAを使うとは考えにくいということです。そもそもコインAの所持者が他のコインを壊したことは周囲に発覚してしまっている可能性が高いため(ほぼすべてのコインが破綻する中で1つだけ健在なコインがあれば、怪しまれて当然である)、そのような悪意のある人間を支持して儲けさせようと人々が考えるとは思えません。コイン自体は簡単に作れるので、誰かが救世主のように現れ、新たなホワイトコインなるものを作り、今後はそれで取引を行おうという流れになるのが自然です。実際、他の難易度の低いコインを全滅させるには1億円程度あれば十分で、現実に51%問題で閉鎖に追い込まれたコインも存在するようです。
[図1]株式会社 bitFlyer のロゴマーク。会社は「ビットコインをより多くの人にお届けすること」を目指しているという。
bitFlyer は国内初の仮想通貨ビットコイン(Bitcoin)販売所(取引所)として2014年4月にサービスを開始致しました。ビットコイン(Bitcoin)をより多くの人にお届けすることを目指し、ビットコイン(Bitcoin)の購入、売却を簡単にできるシステムに加え、クラウドファンディング( fundFlyer )や仮想通貨に関する情報メディア( BTC News )も提供しています。さらに1秒でビットコイン送付ができる bitWire や事業者向けEコマース決済サービスなど、ビットコイン( bitcoin )の総合プラットフォームとして万全のセキュリティによる安全な取引を実現しています。(引用: https://bitflyer.jp/ )