グローバル化が世界に何をもたらしたのか、これほど雄弁に語るグラフを私はほかに知らない。
世界で最も収入の多い人から少ない人までをずらりと横軸に並べ、リーマン・ショックが起きた2008年までの20年間でどれだけ所得が増えたかを示したものだ。鼻を高く上げた象のような形に見えることから、「グローバル化の象グラフ」と呼ばれている。
最も豊かな1%、つまり先進国の富裕層と、所得が上から30~60%の人々、すなわち中国など新興国の多くの人々は6割以上も所得が増えた。一方、象の鼻の曲がったあたりにいる上位10~20%の人たち、先進国の中間層や低所得層は、ほぼ収入が増えなかった。
「象グラフ」をつくった元世界銀行エコノミストのブランコ・ミラノビッチは「新興国の雇用が増えたことで世界は以前より豊かに、そして平等になった。ただ、先進国の普通の働き手の利益にはつながらなかったかもしれない」と話す。いまグローバル化への反発を強めているのは、まさにこの層だ。
もっとも、先進国であっても、グローバル化のおかげで消費者は多様な商品を安く買えるようになった。力のある人や企業が活躍できるチャンスも広がった。経済全体では利益の方が大きいというのが、経済学の常識的な見方だろう。ただ、消費者としての利益は薄く広く行き渡って実感しにくいのに対し、仮に一部であっても雇用が損なわれれば、人々の生活基盤そのものが揺らぐ。「働き手の痛み」がなにより注目されるのはそのためだ。この特集では、グローバル化に異議を申し立て始めた中間層や低所得層の人たちをめぐる動きに焦点を当てる。
そもそも戦後、欧米や日本で中間層が膨らんだのは、経済が成長したからだけではない。
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